第4話 避暑地での過ごし方は
公爵家の玄関先で、私はホルガーの横に立ち、父を目の前にしていた。
昨日の生誕祭での騒ぎを色々な方面から聞かされた父は、私の肩をポンと叩くだけで、何も言わなかった。沈黙は金なり。父がこれまで
「では叔父上、後はお任せ下さい」
ホルガーの言葉にも、父はうんうん頷くだけだった。まあ元々かなり
時折、「行き遅れ」とかの単語が聞こえてくる。失礼にも程があるが、まあ確かに王太子にすっぱりと切られてしまった公爵令嬢を嫁にもらおう、なんていう奴はいないに違いないから、あながち間違いではないかもしれない。
ちなみに、スチュワート家には弟のオスカーという歴とした跡取りがいる為、お
ホルガーが親指をグッと立てると、父がホルガーに抱きついた。何やってるんだ。私の冷たい視線に気付いたのだろう、父がホルガーを離すと、スタスタと私の方にやって来た。そして、ガバッと抱いた。
耳元で、真剣な声色で
「いいかナタ。次は絶対に逃すんじゃないぞ!」
「はい?」
「あそこは避暑地だし、王都に比べて人々の気質も穏やかだ。愛を育むには、とてもいい場所だろう」
「えーと?」
「お前はまずはゆっくりと休め、な?」
「は、はあ……」
よく分からないが、私はとりあえず返事をした。そして、少し頬を
◇
避暑地までは、馬車で五時間程かかった。
ホルガーがご丁寧にふかふかのクッションまで用意してくれていたが、大分痩せてしまった私のお尻には不十分だった様だ。ちょっと痩せ過ぎてしまったかもしれない。つい調子に乗ってしまうのが、私の悪い癖だ。
「ナタ、食事になったら呼びに来るから、それまでしっかり休んでおけよ」
「言われなくてもそうするわ……」
公爵家所有の屋敷の、私に割り当てられた一室。その全体的に落ち着いた焦げ茶基調の部屋にある大きなベッドの上に、私はうつ伏せに寝転がった。お尻が痛かった。
「とりあえず、美味しいものが食べたい……」
私がそう言うと、ホルガーがベッドのへりに腰掛けて私の髪を耳に掛けた。……どうしたんだろう、こいつ。こんな奴じゃなかった筈だが。
「大分痩せたからな……可哀想に」
ホルガーの心底同情する様な顔に、私は少々罪悪感を覚えた。どうやら、この外見がこいつの同情心を助長させてしまっているらしい。
この世界では、生まれてすぐに神官にスキルを占ってもらう。そして、結婚でもしない限り、親兄弟しかそのスキルを知る者はいない、いわゆる
なので、ホルガーは従兄弟なので
なので、ホルガーは私が本当に食事が喉を通らずにやせ細ったと信じているのだ。それが
「沢山食べて沢山寝て、早くあんな奴は忘れちまえよ」
「ホルガー、曲がりなりにも王太子だからね、言い方には気を付けてよ」
どこで誰が聞いているかなんて分かりはしない。私の言葉に、ホルガーの眉が情けなく下がり、そして。
ホルガーが、私のおでこにキスをした。私は驚いて目を見開いた。どうしたどうした、こいつはどうも昨日からおかしいぞ。変なものでも食ったんだろうか。
「もう気丈なふりなんかしなくていいんだから、そう意地を張るなよ」
「いや、ふりって訳じゃ……」
やはり痩せ過ぎたのが、こいつに異常な庇護精神を与えてしまっている様だ。
「とにかく寝てろ。明日から、お前のやりたいことにとことん付き合ってやるから、今の内に考えておけよ」
「あ、それは決まってる」
私はニヤリと笑うと、ホルガーに告げた。
「
ホルガーの目が、見開いた。
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