第2話 婚約破棄当日の作戦会議

 あっという間に翌日となった。


 如何にもありがち設定だが、パーティーには相方、いやパートナーを連れて行かなければ、白い目で見られ嘲笑ちょうしょうの的になる。その為、急遽きゅうきょ白羽しらはの矢が立った私の従兄弟いとこが迎えに来た。


 金をかけたんだろうな、と推測される綺麗な青色の服を身にまとい、栗色の髪をゆったりと後ろにひとつで結んでいる水色の瞳の長身男性。大変見目うるわしく、その柔和にゅうわな笑顔に卒倒する令嬢は後を絶たない。


 というか、この小説は大体においてイケメンしか出てこない。


 町民だって割と皆イケメンにイケオジ揃いだ。反対に女子はまあまあというところ。これも恐らくは作者の願望だろう。


「ナタ、今日も緑の瞳が吸い込まれそうな程綺麗だ」

「嫌ですわ、ホルガーってば」


 おほほ、とわざとらしく笑ってみせた。どうせお世辞なのは分かっている。使用人の前なので、私はせいぜいお上品ぶってみた。皆、私のパーツは褒めるが他は褒めない。つまりはまあそういう意味だ、と理解している。


 私は差し出されたホルガーの腕に手を添えた。ホルガーが表で待つ馬車に私を連れて行く。パタン、と馬車の戸を閉めた途端、彼は足を組み、ぐたっと座席の背にもたれかかった。


「ちょっとさあ、今日本当に行く訳?」


 あからさまに嫌そうな顔をし、それを隠そうともしない。私が返事をしないでホルガーの真向かいに腰掛けると、身を乗り出して顔を近付けてきた。


「アルフレッドの奴、お前との婚約破棄を発表するんだってあちこちで吹いてたぞ? 分かるか? 今行ったら見せ物になるんだぞ?」

「まあいいんじゃない?」


 私が足を組みつつ外を眺めながらボソリと言うと、ホルガーはわざとらしい溜息をついた。私はちらりと横目でホルガーを見ると、情けない表情のホルガーが見つめ返していた。


「お前が一体何やったっていうんだよ……」


 確かに、ヒロインの後押しはしたが、悪いことは何もしていない。


 私は微笑みつつホルガーの手にそっと手を重ねると、言った。


「私は大丈夫。覚悟は出来ているわ」


 ホルガーが、頬を赤らめた。きっと同情してくれているのだろう。態度は雑だが、人情にんじょうに厚い奴だ。


「それよりも、ホルガーには重大な任務があるのよ」

「へ? 任務?」

「貴方にしか頼めないの。やってくれるわね?」

「……え?」


 怯えた様な表情を浮かべたホルガーにニヤリと笑いかけると、私は今日の計画を話し始めた。



 私はホルガーのエスコートで王城の広間へと入ると、想像していた通り、先に来ていた貴族達がヒソヒソざわざわとこちらを見て騒ぎ始めた。大方、よく来れたなとか言っているんだろう。


 確かに私も自分の神経の図太さには驚くことがあるが、しかし私には羞恥しゅうち凌駕りょうがする明確な目的がある。


 それに、どうせこいつらとはもう会うこともあるまいし。


 本来だったら、私の婚約者のアルフレッドがエスコートする筈なのだが、奴はヒロインの侯爵令嬢、アンジェリカ・クリムゾンという赤髪のまあまあ美少女をエスコートしたいが為に、ご丁寧に本人を同伴どうはんの元私の屋敷までおもむき、断ってきた。


 ていうか作者、クリムゾンで赤毛ってさすがに安直あんちょく過ぎだろうと思ったが、多分ボキャブラリーが少ない人だったのだろう。あの時の、済まなそうな態度のアンジェリカと、威張りくさったアルフレッドの対照的なことといったら。私が思わず吹き出してしまいそうになっていたことは、内緒だ。


 奴らは多分、私が恥辱ちじょくに耐えて震えているとでも思ったに違いない。


 私がそんなことを考えていると、広間の中心にいたアルフレッドと、目が合った。

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