5:バランドール第二王子(シエラ)

 バランドールの第二王子ライルは実は大変人気があった。


 プラチナブロンドの髪に翠の瞳。容姿も整っているだけでなく、文武両道、そして何より魔力量がずば抜けていたので、学校内は勿論貴族や市民からの受けは良かったのだ。


第二王子ではあるが、第一王子の母は側室だったために、正室つまりは王妃を母に持つライルが第一王位継承権となり、王太子となっている。


 彼自身も典型的なバランドール人で、魔力至上主義ではあった。

だが一方で彼は王族故に自分の置かれた立場はよく理解していたので、国同士の結び付きの為にも政略結婚は彼にとってはやぶさかでなかったのだ。


 ただ、予定が狂った。

 シエラがまさか魔力が全然ないとは思っていなかったからである。魔力のない彼女では、魔力至上のバランドールでは国民の不安や反感をを買ってしまうのは目に見えていた。


 魔力のないシエラとでは魔力のない子供が生まれてしまうのではないか?そんな懸念が生まれてしまったからである。

ましてや王族、魔力カーストのあるバランドールでは、それは致命的になってしまうからだ。


 さすがに国同士なので、『魔力のない王女はいりません。』とは、アルカディア側に言える訳もなく、そうなると重要になるのが側室の選出だった。予定では、結婚後の予定で急ぎの案件ではなかったが、シエラの悪評(魔力がない)を払拭するには早々に側室を選びをして、民の目を逸らす狙いもあった。

 そして側室の選出に当たっては後ろ盾が大きいほど、ライルには都合がいい。その為、選んだのは公爵令嬢であり、また魔力も高く、見目も麗しいミランダは民の支持を得るのには都合がいい存在だったのだ。


 ミランダも元々上昇志向が強い傾向があったので、ライルの誘いには、両者ともに利害は一致していたのである。


 そしてシエラの立場は魔力がないことが判明するや否や、初めの歓迎ムードとは一転してしまい、今に至っている。








 「はぁ・・・」

 

 「姫様、溜息は幸せが逃げますよ。」


 「あー早く帰りたいー。」


 「それには激しく同感いたしますね。」


 侍女のユーナは、シエラが物心ついた時から傍いる年の離れた姉のような存在だだったので、シエラはユーナには気心が知れているだけに少々砕けた話し方になるのだ。


 「こんなに魔力魔力って言われるとは思わなかったわ。」


 「そうですね。私も大変驚きました。」


 「郷に入っては郷に従えっていうけど、ないものはしょうがないわよね!」


 「仰る通りです。」


 本日は、週末のお休みなので、王宮にある自室でシエラはお茶をしていた。


 先日の浮気遭遇事件については、ユーナに報告済である。


 「姫様、ですがいいんですか?」


 「ん、何が?」


 「このままご結婚ですよ。」


 「よくはないけど、仕方ないじゃない。キスぐらいで(びっくりしたけどね!)騒ぐのもね・・・それに側室って話だし。口出しできないわ。」



 「姫様は、黙ってれば淑女ですが、口を開くとねぇ・・・」


 「ちょっと!一応傷ついてんだから、優しくしてよ!」


 「まぁ、お元気そうですからいいですかね?」


 「いやー慰めてーーー。」



 と、二人で漫才をしているところにノックがした。








 「え?これをライル様が?」


 「はい、ぜひシエラ王女様にと、これを渡すようにと申し付かりました。」


 なぜ、急にプレゼント?

 喜びよりも、疑問のほうが大きかったが 


 「まぁ嬉しいわ。ライル様にはよくお礼を伝えてちょうだい。お時間が取れるようでしたら、私自らお礼に伺うこともお伝えくださいな。」


 「かしこまりました。お伝えします。」


 そういって、王宮の侍女は下がっていった。


 シエラは不思議だった。

 事務的にしか対応してくれていなかったライルが、夜会などがある時には宝石など贈ってはもらっていたが、何もないときに贈り物を貰ったのは初めてだったからである。


 ちょっと前までのシエラなら、多少は嬉しかったのだが、浮気現場を見てからは、今はどちらかというと、怪訝な気持ちである。


 どういう風の吹き回しかしら? とはいえ、贈り物には罪はない。


  「ま、貰えるんだったら貰っておきましょうかね。」



 考えてもわからなかったので、取り合えず有難くいただくことにした。



 





 プレゼントは、オルゴールだった。掌いっぱいの大きさで長方形の形をした、白を基調とし、周りには宝石を散りばめてあり、一目で高そうな代物だった。蓋を開けてみると、小さなお姫様がお花畑にちょこんと座ってるお人形が細工されていた。


 「小さなお姫様がいるわね。」


 「なんか意外なものをいただきましたね。」


 ユーナも何となく、違和感は感じているようだった。



 「でも可愛いわ。どんな音色かしら?聞いてみましょ。」


早速シエラは、ネジを回してみた。



♪♪♬~♪♪♪~♪♪♬~♪♪♪~♬♪♪~♪♬♪~




 「まぁお人形さんもくるくる踊るのね。何の曲かしら?よくわからないけど、不思議な音色ね。」


 「そうですね、私も曲は知らないです。」


 すると、曲は終わってしまった。


 「あら、終わっちゃったわね。今度は長めに巻いてみるわ。」


 そうして、今度は長く聞いてみようとシエラは長めにネジを回してみた。

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