2:まさかの縁談(アルバード)
王宮の謁見の間では、思ったより人は少なかった。王様と宰相と、あとは年配の女性が一人いるだけだったのだ。明らかに人払いをしている。
父がに挨拶を交わすと、王は俺に前に出るように言った。
「話というのはな、他でもない。卿にな、縁談の話でもどうかと思ってな。」
「え?縁談ですか?」
俺は寝耳に水だった。まさか王様直々にそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。
「はぁ、ですが、ご存じかと思いますが、私は最近婚約者に逃げられた男です。そんな男に早急に結婚したがる令嬢がいるとは思えないのですが・・・」
そう、俺は最近、本当につい直近の話で婚約者に逃げられたばかりなのだ。
原因はありきたりというか、婚約者が男を作って駆け落ちしたからだ。そんなに好きな男がいるんなら、一言相談でもしてくれたら穏便に婚約解消でもしたのにと思ったものだが、いかんせん俺の方が身分は高いからあちらから言える状況ではなかったのだとは推察はできる。できるけれど、逃げなくても・・・おかげで俺は婚約者に逃げられた男というレッテルが、不本意ながら付いてしまったのだ。(泣)
「構わんよ。卿の事情は把握しておる。その上で話をしておるのだ。」
正直なところ、結婚願望は全然ない!ないけども、後継者になったからには話は別だということも、お家の為にはわかっていた。だから婚約中は、俺は俺なりに仮面夫婦にはなりたくないから婚約者殿と親睦を深めようとあれこれ(プレゼントを贈ったり、デートのお誘いをしたり)頑張ったのだ!だが、結局お気に召さなかったようで、男作って逃げられるという体たらく。そんなことがあったばかりなので、将来的にはわからないけど、今は全然その気はない。ないけれども・・・だが相手は一国のトップだ。うん、断れる気がしねぇー(汗)
「そうでしたか。わたくし如きに至極光栄なお話しでございます。」
なんて全然思ってないけどなー!
余計なお世話だよ!・・・いかん俺心の中めっちゃ荒れてる。
「うむ、愁傷な心掛けだな。では、縁談の相手だが・・・余の娘だ。」
はい?
「えーと、ということは王女様ですよね。第一王女はバランドールの王子と婚約中と伺っていますから・・。妹君の第二王女様のことでしょうか?」
おいおい、妹君は確か12才だぞ。俺とは15歳も離れてるじゃねーか!(俺、27歳だからね。)可哀想だろ!
「いや、第一王女だ。実はな、第一王女・・・シエラだが、シエラも婚約破棄というか婚約解消となったのだ。」
はい?
「え・・・あ・・・そうだったのですか。申し訳ございません。そうとは知らず失礼なことを。」
まさかの、ナカーマ!
「まだ公にしはしておらぬからな、卿が知らぬのも無理はない。まぁそれでだな、まぁ似たもの通しという訳ではないが、」
いや、思い切りそう思ってるよね!
確かシエラ王女は御年18歳、噂で絶世の美女と聞いている。人柄もそんなに悪い噂は聞いたことなかったけど、そんな彼女は一体なぜ、婚約破棄・・じゃなかった、解消になんかになってしまったのか?
あんな美人(見てないけどね!)が婚約解消されるなんて、絶対何かいわくつきなんだろう。俺が言うのもなんだけどね!
「ただ・・・少々事情があってな。」
ほらきた!
「何か理由があるのでしょうか?」
俺はまどろっこしいのは性に合わないので、直球で聞いてみた。
「百聞は一見に如かず、というからな、見てもらった方が早い。」
王はそういうと、傍にいた年配の女性に目配せをした。
女性は心得たと言わんばかりに、恭しく礼をしたかと思うと姿を消した。
「卿は、現在は侯爵の後継者になったが、その前は冒険者と聞いている。」
「はい、仰る通り私は1年前まで、冒険者をしておりました。後を継ぐはずだった兄が、急逝してしまいましたので、私が後継者となりました。」
そう、俺は本来侯爵家を受け継ぐはずではなかったのだ。
だが、兄が不慮の事故で突然死してしまったので、冒険者として生計を立てていた俺は急遽呼び戻され、後継者にと言われてしまったのだ。
正直なところ侯爵の地位について、俺は何も執着はない。兄は優秀だったし、次男坊だった俺は、元々冒険者に憧れていたのもあって、王立学院を卒業した後に、早々に家を出て冒険者となったのだ。ちなみに一応俺なりに侯爵次男坊が冒険者っていうのも、実家の外聞がよろしくないだろうと思ったからね、冒険者やってる時は、家名は言っていないので、あまりに公になってはいないのだ。なので、いなくなっていた期間は、留学してたことにしてある。
騎士にならないか、という話もあったのだが、騎士はかなりいろいろと制限というか縛りがあるからね。だから、制約のない冒険者になってあちこちに行ってみたかったのだ。自分で言うのもなんだけど、俺筋がかなりよくってね、あっという間に冒険者ランクのSランクまでいったんだよね。性にもあってたようだ。
・・・だったんだけど、兄さんの不慮の事故のせいで・・・いや、こればかりは愚痴っても仕方ない。兄さんもさぞかし無念だったと思う。
「うむ、ギルドでの活躍は聞いているぞ。」
「え、いや、そういわれますと・・・照れますね。」
いや、人から言われるとマジでハズいわ!
そんなやり取りをしていると、先ほどの女性が戻ってきた。
「陛下、お連れいたしました。」
「うむ、シエラ、入りなさい。」
「はい、陛下。」
あれ?気のせいかめっちゃお子様の声じゃね?
俺は閲覧の間に入ってきた女性・・・というか女の子を見て驚愕してしまった。
その子は先ほど俺が庭で見かけた、思い切り睨まれた美幼女だったのだ。
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