第6話:違うから面白い
その状態のまま、何分が経っただろうか。
「あ、あの、はふひょうはん……?」
「……あたしには普通の恋が分からん。というかそもそも、恋がなんなのかもよく分からん。やから、そんなことあらへんとは言ってあげられへんけど……あたしは今ちょっと、三浦さんに興味がある。三浦さんの恋の話、詳しく聞きたい」
「ふぇ……?」
彼女は私の両頬を押さえたまま、笑って言った。「普通の
「せやけど……みんな言うねん。自分はどうなんやって。話を聞くのは好きやけど、恋愛をしろと勧められんのが面倒で、だんだんと恋愛の話も嫌になって。聞いてるだけがええんよ。誰かに対して恋焦がれる気持ちなんて分からんから。分からへんから、聞いとって楽しいねん」
「分からないから楽しい?」
「自分には分からない感覚って、興味深ない? おもろいなぁって思わへん? 例えば……共感覚ってわかる?」
「えっと……文字に色がついて見えるってやつ?」
「そう。あたしには無い感覚。どういうものか、想像もつかへん。同じ世界を見てるはずなのに、見えているものや感じ方が違う。それって、凄くおもろいことやと思うんよ。三浦さん、あの雲、何に見える?」
そう言って白狼さんが指差した先には犬のような形をした雲。私が犬だと答えると、彼女は「ほう」と興味深そうな声を出した。
「うちには机にしか見えへんな」
「机ぇ? えー……ど、どの辺が?」
目を凝らして見るが、どう見てもあれは犬だ。机には見えない。
「じゃあ三浦さん、次な。これは何に見える?」
続いて彼女が見せてきたのは日本地図の愛知県。
「えっと……愛知県だね」
「それはそうやけど。何かの形に見えへん?」
「……ミジンコ」
「ミジンコ! 言われてみれば確かに! ちなみにあたしは蟹にしか見えへん。みんな大体カンガルーって言うんやけどな。ミジンコは初めて聞いたわ。自分、おもろいなぁ」
彼女はそう楽しそうに笑う。私も愛知県が蟹に見えるという人は初めてかもしれない。彼女の言いたいことが分かった気がする。
「確かに、面白いかも」
「せやろ? やからあたしは、恋愛の話が好き。自分では見えない世界やから。恋愛の話は、あたしにとっては、異国に旅をした人のお土産話みたいなもんなんや。やけど、聞くだけで満足やねん。実際に行ってみたいなとは思わへんのよ。というか、行きたくても行けへんし」
「なるほど……」
「せやから……嫌やないなら、喫茶店でお茶でも飲みながら聞かせてや。三浦さんの恋の話」
「……うん」
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