計画

 ホセと共に帰ると、家では、今までのところの説明を全て終えたらしいノラとサイチが待っていた。

様子からして、情報共有以外の会話はなかったようだ。この二人、あまり相性は良くないのかも知れない。

 俺とホセは、神の通信傍受をして知り得た情報を、すぐさま二人へと共有した。

「そこでシマにまた一仕事頼みたい。明日ツルマ医療刑務所のデータベースにハッキングかけて、二月二八日に移送予定の、収容者の詳細を調べてきてもらえんか」

 共有を終えると、ホセはすぐさまそうサイチに指示を出す。

 俺を含め、四人で卓袱台を囲んで座っている。ランタンの他に火鉢にも火が入れられており、部屋の中は暖かかった。

「お安い御用ですが、公的に移送記録つけたりしますかね?」

「医療刑務所を使用している以上、表向きは普通に見えるように、一般的な手順を踏んでいると思います。でなければ、刑務所の職員に怪しまれてしまいますから……政府は世界の真実を知る人間を、極力少なくしたいはずです」

 サイチの疑問に、ノラが答えた。その考えに俺も同意だ。俺は頷き、言葉を続ける。

「その関係上、護送車の運転手は刑務官だな。ただ、行き先が発電所になる訳だから、どう考えたって怪しい。政府がどのように偽装しているかがわからないが」

「それはシマに情報をとってきてもらってから精査やろ。で、護送車を特定できたとして、どう救出するかは考えられるんか、ツキ」

 ホセに話を向けられ、俺は先程から考えていたことを口に出す。

「護送車を止めさせ、追跡させないようにするには、一時的に車を使用不可能にしてしまうのが早い。ですので、スパイクストリップを使えば良いかと」

 俺のその説明に不思議そうな顔をしたのはホセ一人だ。

「スパイクストリップ?」

「近年警察で使われはじめた、犯人の車を足止めさせるための器具でして。普段は縮んでいるものを広げて路面に設置すると、鋭く長い無数の針が、上を向いている状態にできるものです。その上を通った車は確実にパンクします」

「スパイクストリップは、わたしがミミサキ署から持ってきます」

 ノラが途中で軽く手を上げて名乗り出てくれた。ありがとうと告げて俺は頷く。

「車がパンクしたら、まず間違いなく運転手は様子を確認しに出てきます。そこを襲い、鍵を手に入れて昏倒させる。ここまでは簡単ですが、問題はそれからです」

 三人ともが神妙な顔をして俺の話を聞いている。

「ヴィンスのそばには、少なくとも一人、恐らく二人のキャプターがついていると思います。抵抗できなくさせる術は施しているのでしょうが、ヴィンスが万が一逃げようとした時に、止められるのはキャプターしかいませんから」

 話しながら、俺はあの日出会ったエルとザカリアの様子を思い浮かべていた。今回の護送に彼らが来ているかどうかはわからないが、また会いそうな予感はする。

「一度だけ対峙しましたが、彼らの熟練度はかなり高い。それに、彼らは躊躇なく人を撃ち殺せる。これは他の警察官、刑務官には絶対的にないものだ」

 引き金を引くその瞬間に、他人を殺すことに戸惑いがあるかどうかというのは、戦闘面において決定的な差になる。身体能力も高そうだったが、キャプターはその意味でかなりの強敵だ。

「姿を晒すのをツキだけにするんなら、二対一ではじめっから不利やろうしな」

「加えてキャプターの意識があると、ヴィンスのオーラを用いて追跡されてしまいますから、確実に一時再起不能にする必要があります」

 話を聞き、サイチが眉を寄せる。

「ん……? 待てよ、確かキャプターって半神半人なんだよな。神様に俺らが手出しできないなら、キャプターに攻撃できるって保証もない訳で。そしたら作戦もなにもあったもんじゃない」

「ああ、それは大丈夫だ。弾みで一回殴りかかったのだが、寸前でキャプターに拳を止められた。止められた、ということは俺の体はキャプターには攻撃できる」

 俺の言葉に、三人がぎょっとしたような表情をした。

「ユージさん、よくその時に殺されませんでしたね?」

「俺もまずいなと思ったんだが、笑いながら誤魔化したら何とかなった。刑事を殺すのは、それなりに後処理が面倒だったんじゃないか」

 あまりの無鉄砲な振る舞いに呆れたのか、一瞬の沈黙が部屋に落ちた。ホセが咳払いをして先へ続ける。

「つまるところ、キャプターはその安全装置の外側におるけ、神にも攻撃できるし俺達もキャプターに攻撃できるっちゅうことだな」

「はい。それで、二人のキャプターを相手取る作戦ですが……ノラに援護を頼みたい」

 ノラを名指しし、俺はその先の作戦を語った。

 結論から言えば、ノラは表情を引き締め、一度も拒むことなく受け入れてくれた。彼女の覚悟は、もうすでにできている。後はサイチが集めてきてくれる情報を元に、作戦の細部を詰めて決行に移すだけだ。

 解散した時にはすでに真夜中に近くなっていたが、ノラとサイチは各々の自宅へと帰っていった。宿もとっていない俺は、作戦が行われる二日後まで、そのままホセの家に泊まらせてもらうことになった。

 電気が一切ない上に、五右衛門風呂や汲み取り式便所という、今まで使ったことも見たこともなかった代物に出会ったが、人というのは慣れる生き物だなとつくづく感じる。

 接すれば接するほどホセは温かみのある人物で、あのサイチが懐いているのもわかる気がする。また電気製品が発する微弱なノイズが一切ない空間は、俺にとって、不思議と心地良かった。

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