第16話 第六話

僕は僕に残された父の遺品と、母に残された父の遺品。

それらを見比べながら、藤田しげるの日記を読み始める。


500円玉ーーたしかオリンピックの年のだったな。

僕はその年の日記があるか、数札の日記帳を探した。


ーーあった。


「20××年3月15日。ーー今日俺は斎藤健吾と会った。彼は俺を含む四人の名前が書かれた紙を持ってきた」

ここまででその日の日記は終わっていた。


父もこのメモを持っていったようだ。


「3月16日。ーー健吾からの電話があった。

俺たち四人は共犯だと言われた。ーー俺は罪を犯した覚えはないが、どーゆー事だろう?」


「3月20日。ーー健吾が言った。殺人、と」


日記だけを読んでいると、父親を含んだ五人が共謀して何かの事件を起こしたらしい。

殺人なのか?

ーー父は犯罪者なのか?


それ以外、日記に目立ったところはなかった。

そのページに付箋をして、母に見せてみようと思った。


夕方近くなって、ようやく母が帰ってきたようだ。

「ただいま~」

「ねーねー母さん、これ見てー」

階段をかけ下りる。


まるで昔から母と一緒にいたような感覚だ。

僕の手から日記帳を受けとると、黙々と読んでいる。


ーー何これ?

ーー共犯?何の事?


母もそんな話を聞いたことはないらしい。


「ーーどーやって真相を調べたらいーと思う?」


母に聞いた。


うーん。私にもどーするべきなのか?さっぱりーー?

それもそうだ。

犯罪関係になると、素人ではどーにもならないのかも知れないと思ってしまう。


「ーーそう言えば、かーさんの方はどうだった?中山兼に会えた?」


「あ、そうそう。会えたよ。彼も何かよくわからないひとり言を言ってたわね。ーーアイツに知られるなんて。って」


ーーアイツ?アイツって誰だ?


他の遺品も見てみると、何かヒントがあるのかもしれない。

僕は宝箱を持ってきた。


タバコなんて吸わなかったはずの父の遺品としては、灰皿と言うのも妙な話だった。


会ってきた3人の中で、タバコを吸っていたのはーー藤田しげるだけだ。


「そーいえば母さん、中山兼はタバコを吸っていた?」

「ーー吸う人なのかも知れないけど、拘置所の面会ちゅうじゃ吸えないわよーーでも、タバコの臭いがしたわ」


母はその臭いがキライでタバコをやめている。


「そっか、、他の二人も吸っている可能性はあるわけだーーたまたま僕が会った時に吸わなかっただけで、、もともと父が吸っていた可能性もあるのか」


「父さんはタバコやめた人?」

「吸ってたのは見た事がないわね」

「ーーうーん。じゃ、何でこんな灰皿があるんだろ?」

「そうねー?」

よく見ると、ガラス性のその灰皿はところどころ錆びていて、少し汚く見える。

それを僕は新聞紙にくるみ、中山兼。ーー僕はまだ会っていない人物に見せてみようと思った。

ーー会ってくれないかも知れない。でも、、。



僕はもう一度、東京拘置所に行ってみる事にした。


「ーー中山謙に会いに来ました」

「どのようなご関係ですか?」

「家族です」

「こちらへどーぞ」


刑務官が新人なのだろうか?名前の確認もせず、僕の言葉だけを鵜呑みにして、面会出来るようになった。

細長い通路を歩く度に、足音が響き渡る。

周りを囲む薄暗さが余計に、その足音を気味の悪い音の様に感じさせた。


面会部屋とでも言うのだろうか?

ガラス張りの窓の部屋が見えてきた。


刑務官が先に行く。


「ーーあ、今中山兼は面会してるようですので、しばらくここでお待ちください」


「はい」


遠目に面会している男の顔を見た。

あれはーー沢田昌平だ。

二人の会話に耳を澄ませる。


「ところで、あの時は参ったなー」

「ほんとになー。まさかあんな現場を健吾に見られるとは、、俺たちに脅迫なんかしやがって、、」

「あの灰皿はどうなったんだろ?ーーあの時の凶器はまだ見つかってないよな?」


ーー灰皿だと?もしかして。


もう面会する必要性はなくなった。

僕が知りたい真実は、おおよそ掴めた気がした。


「これから人と会う約束なので、また来ますと中山兼にお伝えください」


刑務官に頭を下げて、僕は拘置所を出た。


外に出てすぐに恵に電話をする。

「ーー母さんの知り合いで、警察の人いない?」

「ん?ーー警察、1人だけいるわよ。何があったの?」

「大丈夫、何にもないよ」

「ーー父さんが殺された理由が、わかったんだ。その証拠を調べたくて」


「ーーじゃ、協力してもらえるように話してみるわ」


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