第14話 5-7
この頃は恵にも誰と会うか、を話この頃すようにしている。万が一の時は彼女が対応してくれるこの頃だろう。
13時。
あの喫茶店に着くと、僕は店員に伝えた。
「待ち合わせなんだけどーー」
「もしかしたら、あの方じゃないですか?」
店員が手のひらを向け、指し示した方を見てみると、ひげ面のホームレスの様な外見の男が座っていた。
僕は彼に近づく。
「あの、もしかして藤田さんですか?」
「そうだ」
「僕が連絡した斎藤健吾の息子で秀二と言います」
「時間ならたっぷりある。話を聞こうか?」
せっかちな人らしい。
異様な臭いが僕の回りの空気を汚していく。
「はい。父は少し前になくなりました」
「そっか。死因は?」
「自殺だと言われています」
「それでお前は何を調べている?自殺なのにー?」
「自殺しようとした理由が分からなくて調べてるんです」
「それで何か救われるのか?」
彼は僕に聞いた。
「わかりません。でも、わからないままにはしたくないのでーー」
男はため息を一つこぼした。
父の死を話しても驚いた様子が見えなかった。
ーーこの男が犯人なのだろうか?
「俺からは何が聞きたい?」
「えっと、藤田さんにも、これを見てほしいんです」
僕は封筒を手渡した。
「これは?」
その封筒から中身を取り出して、マジマジとみている。
「なんだこれ?人の名前しか書いてないじゃないか?遺書かと思ったら違うのか?」
不思議そうな顔をしている。
「なぜ、遺書だと思ったんですか?」
「自殺って言われてるんだろ?じゃ普通に遺書だと思うだろ?」
ーーそれもそーか。
「この四人ーーあなたは知ってる方ですか?」
「うーん?俺は多分知らないなぁ」
「なぜ、ここにあなたの名前があるんでしょう?」
「ーーさぁなぁ?」
「ぶっちゃけて聞いていいですか?」
「あぁ」
「ーーあなたは父を殺しましたか?」
男は表情一つ変えない。
「ーーわからない。俺には昔の記憶がないんだ」
深刻な顔つきで、彼はそう答えた。
ーー記憶喪失の男。藤田しげる、か。
「あなたはなぜ記憶をなくしたんですか?」
「対したことじゃない」
男はタバコの煙を上に向けて吐き出した。
「ありがとうございます。またお電話するかも知れませんが、よろしくお願いします」
「にいちゃん、ちょっと待った」
藤田しげるはそう言って、秀二の肩に手を乗せた。
秀二はゆっくりと振り返る。
「なんですか?」
「俺には昔の記憶がない。でも、日記には書いているんだ。見てみないか?」
「はい。見に行っていいですか?」
「あぁ」
しげるは快く承諾した。
彼の家はあるんだろうか?日記を書いてるならホームレスって事はないのかもしれない。
歩いて数分。
目的地にたどり着いた。
「ここだ」
白い壁に囲まれた大きな家だ。
ーーえっ?こんな男が、こんな豪邸に住んでるのか?
僕は思わず目を疑ってしまう。
「お邪魔します」
軽く頭をさげて室内に入る。
男に促され、大きなソファに腰かけた。
「それで、日記と言うのは?」
「すぐ持ってくる。待っててくれ」
「はい」
男は5分くらい経って、ようやく戻ってきた。
「これを、見てみるといい」
手に取った日記帳。
「これ、お借りしてもよろしいですか?」
「ーーもーいらないから、やるよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて、僕は豪邸を後にした。
手には藤田の記憶の変わりとでもいう日記帳。
僕は家で、ゆっくりとそれを読むことにした。
帰る道中、もう一人の男。
中山兼(けん)にショートメールを打った。
「初めまして。斎藤健吾の息子で秀二と言います。父の件でお話があります。少しお時間をいただけないでしょうか?」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます