第11話 夢物語を編んでいく10
森の奥深くへ向かっている中、メグミが小型のチューニング機械を取り出して作業を始めた。
滅具のデータ取りを行っているようだ。
キサキは素直に関心する。
「姉さんはどんな時でも真面目で仕事熱心だよな」
「それが取り柄だもの、キサキ君だってちゃんと頑張ってるじゃない」
「俺はなんつーか、ほら場の流れ的にまとめ役とかになりがちだから仕方なく。本当は頭の良いキリコがやってくれれりゃ良いんだけど、あいつ口も悪いし性格も悪いから誰も付いてかねぇんだよな」
そんな事を言えば、近くを歩いていた当人が「悪かったな」と小さく呟いた。
「キサキ君達みたいなのが同じ年で、近くにいたら私は退魔士を目指していたかもしれないわね」
「姉さんが? 無理無理。重たいものとか持つなさそうだし、素早く動け無さそうだし、敵の的になるのが目に見えてるって」
「あら、ひどい」
メグミはおどけた様に文句を言うが、キサキは本気だったようだ。
メグミとミシバの顔を見比べてこんな事を言った。
「ミシバと同じような空気がするんだよなぁ、姉さんは……」
「ミシバちゃんと?」
「自分にすっげぇ自信が無くて、コンプレックス持ってる感じの。そういう奴が無理に頑張ろうとすると空回りしたりとかして、やべぇ事がさらにやばくなる」
「まるで何度も見て来たような顔ね」
「何度も見て来た……つーか巻き添えくらってきたからな」
少し前にあった授業の内容を思い出したキサキは苦笑いをつけて言葉を返した。
「でもよく見てあげてるのね、偉いわね」
「煽てて誉めても何も出しませんよーっと」
「誉めてはいるけど、煽てているわけじゃないんだけどね」
どうだか、と受け取るキサキは半信半疑のままだ。
「姉さんは、自分の事に俺達を巻き込んだって思ってるのかもしれないけど、全然そんな事ないんだぜ」
「え?」
「姉さんがこなくたって、俺達はきっとこうなっていたさ」
メグミは自重するような笑みを小さくこぼした。
「そうだといいわね。でも、私は目立つもの」
「俺達もけっこう目立つぞ、絶対」
少しすると周囲より土地が高くなっている場所にやってきた。
近くからは滝の音がする。
水の匂いがかすかにするので、風はそちらの方から吹いてきているようだ。
「はぁーん、なる程ねぇ。総員警戒。キリコ、分かるだろ?」
「まあな」
突然指示を出したキサキにいぶかしみながらもクラスメイト達は応じていく。
その理由を分かったのはキリコだけだった。
「風が臭いを運んでくるんだな、蝕者の……」
「ああ、やべー臭いがプンプンするぜ」
そう言うと、他の者達も気が付いたようだ。
比較的そういうものの感知に優れているシオリが声を上げた。
「動物の血の匂いも交ざってます」
つまり、蝕者は餌として周囲の動物を狩っていたのだろう。
だから、幸いにもその犠牲者たちの匂いでキサキ達は気づけた。
風向きがそちらから吹いてきていたのが幸運だった。
「このまま警戒しながらここから退避するぞ。足が速いだろうから、気取られたら終わりだ」
続いてのキサキの指示に全員が了解の意を唱える。
隊列を組んで、そのままキサキ達はメグミを守る様に移動していく。
緊張の満ちる時間が好き、移動開始から半時程立った時だ。
「――走れっ!」
巨大な地響きが一つ沸き起こった瞬間、キサキが声を張り上げた。
気配を消していたクラスメイト達の足を急がせる。
「わ、わわわわ、すっごく大きいよ、あれヤバいよぅ」
「喋ってる暇あんなら走れミシバ。噛みつかれてもおいてくからな」
「ひぃっ!」
逃げる彼らの背後にあるそれは、遠目に見ても巨大だった。
十メートルほどある牛の姿をしたようなそれは、今までに存在が確認された蝕の一般的なサイズからかなり逸脱したものだ。
「くっそ、あんなバケモンをアタシ達にあてようとしてたのかよ、腹が立つな!」
「ごちゃごちゃ言うなカオル。それも含めて引き受けるのが俺達の仕事だろ」
「分ーってる! けど愚痴ぐらい言わせてくれたっていいだろ!」
喋っている間にも化け物との距離はどんどん知事待っていっている。
追いつかれるのは時間の問題だろう。
仮に森から出たとしても、この巨体をひきずってどこまで逃げ続けなければいけないか、という問題も残っている。
市街地までひっぱっていくわけにはいかないからだ。
「っ、くそ追いつかれるな、迎撃するぞ!」
「えぇぇ! 本気でアレと戦うの!?」
「そうするしかないだろが」
まだ距離があるうちに立ち止まった彼らは、その場で体勢を立て直して、陣形を組み、相手を迎え撃つ方針へと変えた。
「勝てる気がしねぇけど、俺達はそういうのをやってける奴に「なる」んだろ? プロだろうが、何だろうがかんけぇねぇよ」
「うぅ、出来れば一度くらいは実践に出て活躍したかったよぅ」
「贅沢言うな」
嘆くミシバに、すげない言葉をかけるキサキ。
反対に道場の小さな肩を励ます様に叩いたのはカオルだ。
「訓練生の身分ででレアな体験が出来たって事にしとこうぜ。生きのこりゃ、期待の新人で将来に悲観しなくて済む」
「うぅ、カオルちゃんは前向きでいいなぁ」
ネガティブな考え方をするミシバと対象的なカオルの言葉。
それを聞いてミシバは、若干の意気を取り戻した様だった。
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