竜軍の蹂躙
(視点変更、魔王軍六天王の一角、竜王バハムート)
「うわっ! なんだあれはっ!」
「竜だ! 逃げろ! 逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「い、いや、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
王国アルヴァートゥアは長閑で平和な日常から、一転して阿鼻叫喚の地獄と化してしまった。
大空に出現した竜の群れを見て、群衆達は一瞬でパニックになってしまったのである。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
天空を飛び交う数多の竜。その竜が突如、息吹(ブレス)攻撃を放ってきた。様々な属性の息吹(ブレス)が放たれる。炎だったり、氷だったり、雷だったり、風であったり。
どんな属性の攻撃であっても、ただの一般国民に耐えられるはずもない。当たれば悲鳴を上げ、即死するだけだ。即死せずとも、片腕や片足が吹っ飛んだ哀れな国民も多かった。
ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
建築物が盛大な音を立て、崩れ落ちてくる。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
大きくて長い悲鳴が鳴り響いた。
「お母さん! お母さん! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
風の息吹(ブレス)により、建築物が倒壊した。そして、運悪く、少年の母親が下敷きになったのだ。少年は泣き喚く。残念ではあるが、母親は死んだ事だろう。もはや生き返らせる事は困難だ。母親は帰らぬ人となった。
「ふっふっふっふ……絶景よのぉ……」
白竜に座り、竜王バハムートは天空からその地獄のような光景を見下ろしていた。彼女は笑みを浮かべている。
彼女は人間ではないのだ。その虐殺ショーを、まるで見世物かのように愉しんでいる。彼女にとって、無残に散っていく、人間の命など慈悲をかけるに値するだけの価値はない。
鼠(ねずみ)程度の、下等生物と同じような価値しかない。竜王バハムートは本気でそう思っているのである。
だから、彼女にとってはこの地獄のような惨殺劇もまた、心地の良いただの見世物(ショー)に過ぎないのである。彼女はこの地獄のような光景の中で、唯一笑みを浮かべ、その状況を愉しんでいた。
――しかし。彼女にとってはこれからとんだ横槍が入る事になる。当然と言えば、当然ではあるが、彼等とて黙ってやられているわけがなかった。反撃に出てくるのは当然だ……。それにこの王国アルヴァートゥアは女神により天職(力)を授けられた数十人の召喚者達がいるのだ……。
指を咥えて黙って見ているはずがない。
「そこまでだ!」
声が響いた。人間の少年の声だ。
「何者だ?」
竜王バハムートにはさして驚いている様子がない。なぜならばある程度は想定内の出来事だったからである。
「貴様が魔王軍六天王の一角かっ! なぜ、このような非道な行いをっ!」
勇希は剣を掲げ、言い放つ。
「それを説明する道理などない。だが、私に歯向かってくるならば容赦はしない……。脆弱な人間達よ、私に逆らうという愚行、死を以って償うが良い」
白竜に乗っている竜王バハムートは凄まじい殺気を放つ。それは地上にいる召喚者達が竦み上がってしまう程のものだ。
少女のような見た目をしているが、とんでもない化け物であるという事を、彼等は瞬時に悟った。その強さの底が現状では全く見えていない状態だ。
実際にステータスを見たわけではないが、彼女が破格の強さを持つ事が手に取るようにわかった。
それほどの脅威を来斗は肌で感じ取っていた。
「降りろ……ヴァイス」
『はい……我が主――竜王バハムート様」
竜王バハムートの命令に従い、白竜が下降していく。そして、来斗達の前に姿を現すのであった。
白竜――間違いなく、聖属性の竜――聖竜(ホーリードラゴン)だ。それも来斗が地下迷宮(ダンジョン)『ウロボロス』で倒した聖竜(ホーリードラゴン)よりも、もっと高位の竜だ。
その白竜は地表に降り、竜王バハムートを下ろすと同時に、光を放った。そして、人の形となったのである。流れるような美しい金髪をし、雪のように白い肌をした可憐な少女に。
バハムートが乗っていた白竜もまた、バハムート自身と同じように竜人(ドラゴニュート)だったようだ。
「私がお前達と遊んでやるのはこやつ――ヴァイスを倒してからにしてもらおうか……ふっふ」
バハムートはこちらを見下したような、愉悦に満ちた笑みを浮かべてくる。
「へっ! ふざけんじゃねぇ! そんな華奢な女一人で、俺達を止められるかよ!」
召喚者のうちの一人。戦士の天職を持つ男が、斧(アックス)を持つ男がしゃしゃり出てきた。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 食らいやがれええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
男は斧(アックス)を力任せに全力で振り下ろしてきた。
キィン!
「な、なにぃ! お、俺様の斧を素手で受け止めやがっただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかし、聖竜の竜人(ドラゴニュート)――ヴァイスはその攻撃を軽々と受け止めた。その皮膚は人間とは比べ物にならない程堅い。素手で乱雑に受け止めたが、とてもダメージを負っている気配はない……。
「邪魔です……蛆虫(うじむし)が!」
ヴァイスは乱暴に、男を投げつけた。
「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
けたたましい衝撃音が放たれる。ヴァイスに無謀にも特攻していった男は、近くの民家に激突した。幸いな事に、既に避難が完了しているので無人ではあったようだ。
「小野寺君!」
可憐は先ほどの男――小野寺の救護に向かう。
「し、しっかりして! 小野寺君!」
何とか、瀕死で済んでいたようだ。この状態であったのならば、蘇生魔法(リザレクション)の必要性はなく、回復術士(ヒーラー)である可憐の回復魔法で何とか対応できるであろう。
「うっ……ううっああっ……ありがとう、北条。気、気を付けろ! 皆! 可愛い見た目をしてるけど、半端な相手じゃねぇぞ!」
そう、先陣を切った小野寺は皆に喚起する。
「馬鹿ね! そんな事、皆わかってるわよ! それなのに勝手に一人で突っ込んだ!」
一人の女子が辛辣な言葉を彼に送った。勇敢と無謀は紙一重であるが、彼の行いは後者であると言えた。
「どうした? 威勢が良いだけで随分と手応えがないではないか……ふふふっ」
竜王バハムートは余裕だった。具現家系のスキルで椅子とテーブル、それからハーブティーを作り出し、優雅にお茶をしていた。とても戦闘中の光景とは思えなかった。
「くそっ!」
「舐めやがって!」
「皆! 気を引き締めていくぞっ!」
勇希は聖剣デュランダルを掲げ、皆を鼓舞する。とはいえ、無策で行くわけにはいかない。そうなると、先ほどの二の舞だ。
「前衛職に就いている者達が前線に出て、後衛から魔法職が魔法で後方支援をするんだ!」
勇希はそう指示をした。戦闘における、ベーシックな戦略である。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「やってやるぜええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
複数人の前衛職の男達がヴァイスに襲い掛かかる。しかし、複数人がかりでも結果は同じであった。
「聖なる波動(ホーリーオーラ)」
ヴァイスは聖なる波動を放つ。強力な聖なる波動が、波のようにして、襲ってきた男達を押し返す。
「「「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
と、再度男達は建築物に叩きつけられ、致命傷を負った。
「ふっふっふ……どうやら私の出番は必要なさそうだな……」
優雅にティーカップを口に運びつつ、バハムートは告げる。
「くっ!」
勇希は苦悶の表情を浮かべた。
闘いは続く……。
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