第53話

 ルイとグレアムさんの案内で、商品登録所? についた。


「……ここは……『商業ギルド』?」


 看板に書かれている文字を見て、私が呟くと、ルイとグレアムさんは同時にうなずいた。そして、グレアムさんが先に商業ギルドに足を踏み入れた。


「こっちだよ」


 そう言って私たちが来るのを待っていた。私たちも商業ギルドの中に入ると、中の受付の女性がにこにこと微笑み、声を掛けてきた。


「いらっしゃいませ。今日はどのような用件でしょうか?」

「あ、えっと。私の作ったポーションとハンドクリームを登録したいのですが……」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付の女性はどこかに連絡を取っているようだ。……それにしても、この建物すごく天井が高いし広いわ……。キラキラ眩しいギルドだ。冒険者ギルドはどちらかと言うと、レトロな感じがする。最先端とレトロな建物……そのふたつが混在しているのが、王都なのね……。私はどちらかと言うとレトロのほうが好きかも。そんなことを考えていたら、「では、こちらにどうぞ」と受付の女性が立ち上がる。別の女性が彼女の座っていた席に座るのを見て、このまま彼女が案内してくれるのだろう。

 彼女の後をついていき、客室かな? に通された。

 三人掛けのソファがあり、「どうぞ」と言われたので、私はソファに座った。ルイとグレアムさんはソファに座らず、ソファの後ろに立っていた。私が彼らを見上げると、「気にしないで」とばかりにルイがひらりと手を振る。それからしばらくして、この部屋に男性と女性が入って来た。彼らは私を見るとにこりと微笑んで、「お茶の用意を」と一言だけ伝えてソファに座る。

 受付の女性が小さく頭を下げて部屋から出て行き、すぐにお茶を用意して戻って来た。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 座っていないルイとグレアムさんの分も用意してくれた。それから、男性と女性にもお茶を置いてぺこりと一礼してから出て行った。


「初めまして、この商業ギルドの長、ローランドと申します」


 にこにこと人の良さそうな表情を浮かべている男性はローランドさんと言うらしい。そして、それに続くように女性も口を開いた。


「初めまして、女性用の商品を主に取り扱っているディアナです。ハンドクリーム、と聞き同席させていただきました」


 ローランドさんより若そうな女性がそう自己紹介をした。私も自己紹介をする。


「初めまして、冒険者のメイです。えっと……このポーションとハンドクリームを登録したいのですが……」


 そう言って空間収納鞄からポーションとハンドクリームを取り出す。


「……空間収納鞄?」

「あ、はい。父が誕生日プレゼントにくれました」

「まぁ、それは良いお父さまですね」

「ありがとうございます」


 お父さんが褒められるってなんか不思議な感じ。それはともかく、ふたりはそれぞれポーションとハンドクリームを手に取ってじっと見つめている。このふたりも鑑定を持っているのかな? それとも、別のことを確認しているのかな? ふたりとも真剣な表情でポーションとハンドクリームをマジマジと見ている……。


「使ってみても?」

「あ、はいっ」


 ローランドさんは懐からナイフを取り出して、ピッと自分の人差し指の腹を切る。血が見えてヒェッと変な声が出た。そのことに気付いたディアナさんが「女の子に変なモノ見せないでくださいよ」と注意した。


「ああ、ごめんごめん。冒険者って言っていたから、血には慣れているかと思って」


 ……人が血を流すところを見るのは慣れてません! と、心の中で呟いてから「お、お気になさらず……」と首を横に振る。

 ローランドさんがポーションの蓋を開けて、傷口に一、二滴垂らした。すぅっと傷口が消えていくのを見て、彼は目を大きく見開く。

 ディアナさんもハンドクリームの蓋を開けて手に塗ってみる。手の甲を合わせて、それから使い心地を確かめるように指の一本一本に刷り込ませるようにクリームを塗っていく。塗り終えた手を見つめて、「まぁ……」と感心したように呟いた。


「これほどまでの品質のものが作れるのなら、どうして冒険者に?」

「すごいですわ、このハンドクリーム。すっと馴染んでべたつきません!」


 ……前世でいろいろなハンドクリームを使ったからね。入院中、暇を持て余していた私は、どのハンドクリームが使い心地が良いのかを確かめようと思って、お母さんたちに頼んで様々な種類のハンドクリームを買ってもらって、自分が一番気に入ったものを再現しようと思い、錬金術で作ったのよ。まぁ、まだ再現度は中くらいなんだけど……。


「匂いもないのですね」

「冒険者仕様です。冒険者の香りで魔物や獣、盗賊などに気付かれては困りますから……」

「……ならば、香り付きも作れる、と?」

「香料があれば……」


 なんせ材料を入れて混ぜるだけで作れるからね……。ちらっとルイを見ると、うんうんとうなずいていた。なぜ彼がうなずいているのか……。


「ポーションの味はどうかな?」


 ごくり、とひと口ポーションを飲んで見たローランドさん。そして「ふむ」と小さく呟く。


「……美味しい」

「ポーションなら依存性もありませんし、ポーションを買い込む冒険者もいるでしょうし、飲みやすいに越したことはないかな、と」

「確かに冒険者になったばかりの者はポーションを買って依頼をこなすな……」

「……それにしても、ポーションもハンドクリームもあなたが作ったとは……。冒険者、なのですよね?」

「えーっと、私、冒険者でもあるんですけど、ずっと錬金術の勉強もしていました。なので作れるのです」


 錬金術、と聞いてふたりの目が丸くなった。


「……錬金術師? すみません、メイさん、あなたの年齢を聞いても?」

「十四歳です」

「十四歳!?」


 ローランドさん、ディアナさん、グレアムさんの声が重なった。……そんなに意外?

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