第18話

 なるべく音を出さないように森の中を歩く。ルイはきょろきょろと辺りを見渡し、それから「こっちだ」と私を導いてくれる。……どうして魔物の位置がわかるのかしら。ちょっと疑問に思ったけれど、今は尋ねる時じゃないよね。私はただ黙ってルイについていった。

 しばらく歩いていると、ルイが足を止めた。そして、私の前に手を出す。前に出るな、というように。


「……いた。警戒しているな……」

「どうやって倒すの?」

「斬って。問題は……素早いんだよなぁ、あいつ」


 何度か戦ったことがある口ぶりだ。私はなんとか魔物を見ようと目を凝らした。


『レオパード・クイーン。とても素早く炎を吐く攻撃が強力。弱点は水属性』


 鑑定――出来た!? 私が思わず目を丸くすると、ルイが「とりあえず俺がひとりで……」と言い出したので、私は彼の服を引っ張る。ルイが私に顔を向けるのを見てから、緩やかに首を横に振った。


「私が動きを止めます」

「……出来るのか?」

「多分。……でも、あの、私がやったって言わないで欲しいの」

「……?」


 そんな会話をしていると、レオパード・クイーンがこちらを睨んできた。話し声で場所を特定したのだろう。小声で話していたのに、すごい聴力ね!


「少しの間、時間を稼いでください!」

「わ、わかった」


 両手剣を構えたルイから数歩離れるのと同時に、レオパード・クイーンの鋭い爪が襲い掛かって来た! ルイの両手剣がそれを受けたと思ったら、レオパード・クイーンはルイを惑わすように素早くあちこちに飛び跳ねた。……っと、戦いを観察している暇はない! 私は深呼吸を繰り返して、弓を構える。


「――我が声を聴きし、親愛なる友人たちよ――……」


 頭の中でイメージする。これは絶対に外しちゃいけない攻撃だ。


「レオパード・クイーンの動きを封じたまえ!」


 水と風の精霊を弓矢に与え、狙いを定めて放った。……たとえ外れたとしても、レオパード・クイーンを追尾する風の精霊、そして弱点である水を浴びたくない魔物だろうから、少しは動きが止まるだろう。――そう願って放った弓矢は私の狙い通りの役割を果たしてくれた。


「――ッ」


 ザンッ、という効果音が一番正しい気がした。

 一瞬、レオパード・クイーンが動きを怯ませた瞬間を見逃さず、剣を振り落としてその首を落した。ごと、と音が聞こえて……ぴくぴくと残された胴体が動いていたが、すぐに動きを止めた。


「依頼完了っと」


 両手剣についた血を、乱暴に剣を振ることで落とした。驚いたことに両手剣はピカピカだ。……さすが小説の世界。そんな剣もあるのね……。


「えーっと、素材ももらっとこう」


 ゴソゴソとなにかやっているのを見て、私は自分の鼓動がバクバクと忙しなく動いているのに気付いた。


「水の精霊も、風の精霊も……手伝ってくれてありがとう……」


 自分の鼓動を落ち着かせるように胸元に手を当てて、目を伏せる。それから手伝ってくれた精霊たちにお礼を伝えると嬉しそうに飛び回る精霊の姿が視界に入った。……残念ながら、私にしか見えないのだけど……。こんなに可愛いのだから、みんなも見えたらいいのに……。


「よしっと。俺の依頼はこれで完了。それじゃあ、あの人たちと合流して王都まで向かおう」

「あ、はい、そうですね!」

「……さっきの、どうやったのか聞いても良い?」

「……えーっと、それはもう少し仲良くなってからでもいいですか?」

「……俺と仲良くなるつもりなの? こんな紅眼の男と?」


 心底理解出来ないという表情だ。


「えー、だってルイの強さは証明されているし、なにあの一刀両断。あなたもしかしてかなり名のある冒険者なんじゃ?」

「……んー、ま、王都につけばわかるよ、多分」


 ……雑に誤魔化された気がする。……ルイの素性も気になるけれど、今はあの人たちと合流して王都に向かって冒険者にならないと! あ、でもその前に――……。


「ルイ、私はルイの目が紅くても紅くなくても、仲良くなりたいって思います」


 これだけは言っておかないとね。ルイは一瞬動きを止めて、私をマジマジと見てから「……そっか、ありがとう」と柔らかく微笑んだ。……へぇ、この人……微笑むと可愛いんだ。

 あの人たちの元に行くまでに、全然動物にも魔物にも遭遇しなかった。レオパード・クイーンってことはキングも居たのかしら。……あ、でも親玉はメスのほうみたいだったし……、やっぱりクイーンが一番強かったのかしら。


「そういえば、どうしてレオパード・クイーンの居場所がわかったんですか? 迷いなく歩いていましたよね」

「うん? なんであれがレオパード・クイーンだって知っているの?」


 このくらいは言っても良いかな、と鑑定のことを口にするとぎょっとしたような顔をされた。


「……王都では鑑定持ちって言わないほうが良いぞ」

「……え?」

「鑑定のスキルを持っている人は狙われやすいんだ。主に、詐欺やっているヤツラに」


 鑑定のスキルを持っているのに、どうして詐欺師に狙われるの……? 鑑定すればすぐに偽物だってわかる――あ、まさか……商品を買わされるのではなく、命の危険なほう……!?

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