神の攻撃

みらいつりびと

第1話 神の攻撃

 わたしの前歯にズキンと鋭い痛みが走りました。

 神からの攻撃です。

 わたしは人の形をした悪魔です。常に神の攻撃にさらされています。

 いまは恋人と喫茶店でデートしています。

 炭酸の林檎ジュースを飲んでいましたが、耐えがたい歯痛のせいで、これ以上飲むのは不可能です。

「痛い。前歯が痛いよお」と泣きべそをかきました。

「また痛みかい?」と恋人はうんざりしたように言いました。

 コーヒーをひと口飲み、わたしが涙を流しているのを冷たく眺める恋人。

 先日、初体験を迎えようとしていたとき、あそこに死ぬほどの痛みが走り、拒否して以来、彼は冷たいのです。

 神め。この世界には神も仏もいないのか。

 わたしは生まれついての悪魔です。出生にはわたしに罪はありません。どうしようもない。しかしわたしが悪魔であるというだけで、神は執拗に攻撃してくるのです。

 ああっ、いまものすごい耳鳴りが。うるさいうるさいうるさい。

 わたしの両親はふつうの人間です。なぜか悪魔のわたしが誕生しました。理由はわかりません。

 わたしには悪魔的な特殊能力は何もありません。人を呪い殺すとか、指も触れずに物を破壊するとか、できません。

 能力的にはふつうの人と変わりません。むしろ平均より劣っているぐらい。運動神経は鈍いし、偏差値はやや低いです。

 でも悪魔なの。

 あ、あ、あ、神がまた攻撃してきた。

 お腹が痛い。胃が破れるう。

「胃が痛い。助けて。神がわたしを攻撃してくるの」

「またか。悪いけど、きみの中二病にはつきあいきれない。想像の痛みといつまでも遊んでいてくれ」

「想像の痛みなんかじゃないのーっ!」

「とにかく、痛いとばかり言っている女とはもうつきあえない。別れてほしい」

 恋人は伝票を掴み、立ち上がりました。

 ああ、またフラれるのか。

 そのとき、わたしの脳に、ふいに特殊能力を伝える信号が飛び込んできました。

 わたしには『地球人の男性を瞬時にすべて消せる能力』があるとのことです。

 それを受信したとき、感電死しそうな激痛がわたしの全身を苛みました。

 ビクビクと痙攣してしまいました。

 また神の攻撃です。

 神はわたしを殺すことはできないみたいです。

 痛みを感じさせる攻撃しかできないのです。苦痛集中攻撃を受け、わたしは悶絶寸前……。

『ちきゅうじんのおとこほろべ』とわたしが言えば、地球の男は滅亡します。能力発動の代償として、わたしも死にますが、この痛みから逃れられるのなら、死はむしろ歓迎です。

 だけど、わたしは男の人が好きなのです。惚れっぽくて、すぐに恋に落ちてしまうの。

 男の子、大好き! 滅ぼしたくなんてない。

 同時に、神が創造したすべてのものを憎んでいます。

 男がいなくなれば、生殖できなくなり、人類は早晩滅亡します。

 わたしの美貌に嫉妬して、さまざまな嫌がらせをしてきた女たちなんか、絶望させてやりたい。

 人類、滅ぼしてやろうかな?

 でも男が愛おしい……。

 その葛藤を抱え、痛みと戦いながら、わたしは林檎ジュースが入ったコップを見つめていました。

 彼はもう喫茶店内にはいません……。

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