第72話

 俺は部屋に入るや否や平伏した。この前やった土下座である。平民風情が王族に舐めた態度を取っていたら、即刻死刑だろう。


「ジローよ。そう畏まらなくても良い。ここは王族の私的な場所だ。」


 そんな事言われたって無礼討ちは御免だよ。


「本日はどの様な御用でありましょうや。」

「今日はお前に頼みがあって呼んだのだ。余の子供達に魔法のコツを伝授してはくれぬか。」

「それは問題ございませんが、コーラス様も上手く使えるかどうかはその人によると仰ってます。私がお教えしても大きな魔法が使える様になるかはわかりません。それでも宜しいでしょうか。」


 後でお前の教え方が悪いから上手く出来ないんだ、って難癖付けられても困るからね。予め予防線を張っておく。王子王女殿下方は目をキラキラさせて俺を見ちゃってるし。


「コーラス様の教えは皆さまご存知の事と思います。ですので、先ずは私の魔法をご覧に入れましょう。」


 俺はそう言うと、右人差し指の先に着火の魔法を灯した。俺も良く使う魔法ライター魔法だ。これが一番分かり易いだろう。


「なんだー、普通の着火の魔法じゃないか。」


 王子殿下のおひとりからつまらなそうなお声掛けを頂戴した。期待していた分落差が大きいと言った感じ。それに対して、国王陛下と宰相閣下は驚いた表情を見せる。


 現在、見た目普通のライターの炎と同じくらいの大きさなのだが、俺はこれを大きくしていく。


「徐々に炎が大きくなりますので、お気お付け下さい。」


 皆様にご注意申し上げる。安全第一。指先確認ヨシ、をやると何かに引火したら困るのでこれは止めた。

 最初2㎝位だった炎を5㎝、10cmと大きくして行く。それに伴い、俺の脳内イメージもライターからガスバーナーへ交代だ。


 最終的に50㎝位の青い炎が噴き出したところで中断した。ちょっとやり過ぎてしまった感をひしひしと感じる。室温もちょっと上がった様な気もするし。スプリンクラーとか有ったら天井から水が降ってきそう。


「すごいわ。」

 王女殿下からお褒めの言葉をいただいた。

「どうすればそんな事ができるの?」

「そうですね、ライターいやマッチ・・・」

「らいた?まち?」

 この世界にない物を引き合いに出してどうする。何かないかな。


「そう、先ずは普通の蝋燭の炎を思い浮かべて下さい。蝋燭の芯が伸びると炎も大きくなりますが、その様子を頭に思い描くのです。」


 俺はまた着火の魔法を灯すとその炎を大きくしたり小さくして見せた。


「できた!みてみて、おとう様、おかあ様。」


 王女殿下は2㎝位の炎を5cm位まで大きくする事が出来て喜んでいる。王子殿下方は上手く行かないので羨ましそうな眼をしている。


「火魔法は危険ですから、場所も燃えやすい物の近くは避けて、従者と一緒に練習してくださいね。」

 王城全焼なんてなったら一大事だ。即刻帝国へでも亡命しなくちゃならない。


「素晴らしい成果だ。毎日とは言わん。こちらへ来てコーラス様の教えを伝授してくれ。」


 おっさん、家庭教師って柄じゃないんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る