第38話 甘いお茶会
それは、とても晴れた空だ。
バードは、とても気持ち良さげに空を飛ぶ。
王宮の庭園は、シクラメンの香がする。
もう春だ。
「気持ち良さげですね、バード。私も鳥になったら、思いきり翼を広げて空を飛びたいです」
と言えば、フリップ王子様は笑いながら、
「自由に好きな場所に行けるな、山、川、森、湖」
「私は、雲まで行ってみたいです」
と言えば、
「雲?何もないだろう」
と言われた。全く、もう、
「夢がないですね。あのふわふわに乗れるかもとか想像すると楽しくないですか?」
と言った。
「いや、行きたいところに行く、その方がいい」
「何処かに行きたいって願望ですか?三日後には卒業式ですよ。ふふっ生徒会の三年生のメンバーが内政官になってくれて心強いのではないですか?まさかレイラ様が騎士学校に行くとは思いませんでした」
「レイラ嬢は、謹慎期間に隊長に鍛え直しをされたそうだ。きっといい指揮官になると思う。生徒会メンバーはいつでも配置しやすいように動かすつもりなんだ。これマリノティス侯爵の助言さ」
「お父様の…話は変わりますが、今度お祖父様が一緒に猪を狩りましょうって言ってました」
「本当か、是非参加したい。冬季休暇の時、捌いていただろう。あれを見た時から狩りに行ってみたいと思っていたんだ。バードももともと狩猟する大鳥だから一緒に参加する。ルイーゼ嬢もどうだろう?」
と言われれば、迷う。
「バードと共には魅力的ですが、私、素早く動けないので狩猟には向かないですね」
と言えば、王宮のメイドさんが、お茶を変える。
「王都の流行りの店の良いとこどりのお菓子達に驚きました。あっ、このチョコレートのケーキ美味しいですね」
「いや、このフルーツタルトも美味しいよ」
「では、次は、そちらを取りに行きます」
と言って笑い合った。
「満足してもらえて嬉しいよ、マリノティス領では、世話になったからその御礼をしたかったんだ。デマルシア帝国には、サリバンから隠し玉をもらい思わぬ尻尾を掴んだから、こちらとしては、交換留学も無くなったし、条件のいい取引が出来た」
「それでも、御礼が贅沢です。こちらはたまたま豊富だった芋とそれに釣られてやってきた猪を支援しただけでしたのに」
と言えば、フリップ王子様は
「マリノティス侯爵には、先程も言ったが、助言をもらった。こうして学園も通えているし、仲間も増えている。大変貴重な意見だった。それと…もう一つ侯爵の大事な者を貰うわけだから、守れるように全力を尽くす。ルイーゼ・マリノティス嬢、フリップ・トリノの名にかけて貴女を幸せにしたいと誓います。どうか、私の婚約申し込みを受けて頂けませんか?」
「はい、フリップ様、私も全力を尽くして貴方を幸せにしたいと思います」
「ヴルフゥー」
「おい、バード邪魔するな、今一番大事なとこだろう」
「ヴルフゥー」
「頭つくな」
「ふふっふふふ楽しいですわね、バード」
「なんでバード、痛いよー」
と痛がるフリップ王子様を見ながら、私が憧れていた世界がここにあった。
「はいはい、バード、お肉ですよ」
と言って渡す。
「ヴルフゥー」
「バードめ、急に入ってきて、本当は、あちらの花壇にシンビジウムが見頃で綺麗な黄色の花が咲いているから、あそこで宣言したかったんだが、気が先走った」
「そうなんですか?ではシンビジウムも是非見たいですね。案内して下さいますか?またこんな姿を見られたら、フランツ様やソリオ様、サリバン様に笑われてしまいますね」
と言えば、
「本当だよ」
と笑う。王宮の庭園では、ピンク色に色付くシクラメンの花が咲いている。甘いお菓子と目の前のフリップ王子とバードは私を幸せへと連れて行く。
ただ幸せだと感じる時間を過ごしていた。
「こんにちは、ルイーゼちゃん」
「うっ、わ、王妃様」
ふわっと横から現れたのは、王妃様だった。
「少し、子供らしくなったと思ったら、婚約者は決めました。母上よろしくお願いします、でしょう。息子の告白を邪魔する気は無いの。でも、ルイーゼちゃん、わかっているとは思うけど、2年間ビッシリ、ガッツリ王妃教育があります。もう少しゆっくりでもいいかなぁと思っていたのに、フリップ睨まないでよ。早くに王太子になるそうで、頑張らないといけないのよ、ルイーゼちゃん」
と言われれば、否定はできない。こちらに伺うという事は、その覚悟をしなさいとお母様にも言われた。この話を聞いた時、お母様がすぐに歓喜すると思ったのに、最後まで私の心配をしてくれた。
「よろしくご指導、ご鞭撻のほどお願いします」
と礼をした。
甘い世界は、(世知)からい世界へと簡単に味変をした。
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