第32話 ヒロインは王道を走る
「あなたが、レガシー王子様ですか?」
と言えば、
「油断したなぁ。やはり似てるだろう?」
と笑った。
「はい、双子ですか?クリスティーナ様とレガシー王子様って事は、王女様」
「あぁ、僕は、このゲームを知っているよ。だから妹と反対に転入した。フリップは知ってるよ、当たり前か。幼い頃から一応付き合いはあるからね。ゲームのことアドバイスしたのは僕さ。探していたかい、転生者?」
「はい、サリバン様が告白されて」
と言えば、
「サリバンは1の経験者で2はそれほどやってないんじゃないかな。実は、僕も途中までで、デマルシア帝国が戦争をしない為に動いていたよ。転生者と元悪役令嬢の娘さん。フリップ王子様は、妹に譲ってくれないかな?」
と言われた。
衝撃的だった。色々辻褄が合うような気がした。
お父様が、フリップ王子様の側にゲーム経験者がいるってこの人の事だった。
フリップ王子を譲れってどういう意味?
ただ呆然として、クリスティーナ様は、いやレガシー王子様は、笑って、
「また今度かな、この話は」
と言った。
私は、雛の孵し方の本を借りて図書室からでる。
そこから、どうやって家に帰ったかは覚えてない。
わかっているのに、飲みこめない何かの正体を言いたくないし、言えないでいる自分に腹が立つ。結局、その日、お父様には言えなかった。
朝から我が家は、賑わっていた。昨日、王宮から使者が来て、この度の事件解決の貢献で、陞爵が決まったそうだ。カトロ侯爵領の三分のニの領地が与えられることになって、お母様は、高笑いが止まらない。
「お母様ったら、はしたない」
と言えば、
「ルイーゼ扇子で口元隠しているから大丈夫」
って溢れる喜びを全身で表現しているから、何を言っても駄目だろう。
これで私も高位貴族になるのか。
複雑な気持ちのまま学園に行く。
「おはようございます」
と言えば、やはりシーンとする教室にもう慣れた。随分寒くなって来た。もうすぐ冬季休暇だ。そんなことを、考えていたら、
「おはようございます」
と大きな声で教室を驚かせた。
現れたのは、ライラ様だ。
カトロ侯爵家の分家が子爵位を持っていて、今は、カトロ子爵だが、ライラ様は、どうなんだろう。
疑問を解決するのは、ライラ様の声だった。
「少し前にカトロの家からは籍を抜き、平民になりました、ライラです。学園にはそれなりの成績で転入しているのでそのまま奨学制度で通います。よろしくお願いします」
と一礼して席に着いた。
その瞬間からあちこちでこそこそ話が止まらない。
凄い本人目の前にしても言うんだなと思う。クリスティーナ様も来て、そのまま席に着いた。レガシー王子様にはなってない。
転生者だから巻きこまれないようにしている為かな。
フリップ王子様も来てそのまま席に着いた。きっとお二人は知っているんだ。
そして生徒会には、レイラ様が来た。今日から復学だ。事件の事は、話したくなったら話せばいい。
事実が守ると思ったけど、何が誤解かは結局のところ本人達しかわからないのかも、クリスティーナ様の言う通りだったと思う。
後は、サリバン様のみだけど、こちらはどうなっているのかわからない。
アリサ夫人が体調を崩して実家に戻られたのは知っているが、一緒に付いていったのだろうか?
野次馬心はあるが、いろんな意味でグッと我慢している。三年生メンバーはたまに来て引き継ぎでわからないところを教えるのが通年だけど今年は人が足りない。レガシー王子様やフランツ様も手伝うぐらいの時もあった。フリップ王子様が
「やはり2名増やそう、執務ばかりになったら生徒会に来れないし、誰か推薦は、いるかい?」
と言った。すると、レイラ様が
「ライラさんが良いのでは」
と言った。みんな驚いた。遺恨相手じゃなかったの?
「皆様にこんなにご迷惑をおかけした上で、言い争いをした令嬢を推薦するなんてと思われるかもしれませんが、自分の愚かさを指摘されて、逆上したのは確かです。そしてあの時、足がよろけて倒れる際、手が彼女の頬に当たった。誠に申し訳ないことをしたと三か月の謹慎と謝罪文をライラさんには送っていて、交流を交わすようになり友達になりました」
生徒会室に
「えっえー」
響く声。フリップ王子様まで驚いた。
そうしてライラ様のメンバー入りが決まった。
この前の本を返す為、図書室に向かうと、壁にライラ様がいた。
「阻止すると思ったわ。フリップ王子様から誰からも不満の声なく決まったと言われて驚いたわ」
「何故私が阻止なんてすると思ったのですか?ライラ様」
と言えば、ライラ様は
「もう、様付けやめて、ライラでいいわ。侯爵令嬢だって養子縁組っていう設定なわけだし、平民からのスタートで成り上がり、これこそ王道」
「王道…」
私にゲームを進めた後輩も言ってた。
「ライラさん、課金した?」
と思いきって聞いた。ライラさんが驚いた顔をした。
「えっ、やっぱり転生者だったの?それにしては、ふらっとしてパッとしなくて、ただ上にいっぱい肩書きが乗っている令嬢だって思ったけど、ゲーム経験者なの?」
と言えば、首を横に振る。
「わからないの、ただ、後輩らしき子に無料だし、こういった恋愛ゲームも体験した方が面白いって進められた記憶だけ」
「その中に課金って言葉が出てきたのかしら?」
「えぇ、そうよ。覚えてはないけど断片的にきっかけをくれた子のことは思い出したの」
「まぁ、私も断片的ですが、一つはっきりした事がわかりました。私達はライバルです。ヒロインの座を争うライバルです。あなたの事、悪役令嬢だって思ったけど違うんですね。ではよろしく、正々堂々戦いましょう」
と宣言された。廊下を走って消えた。
どうして、こうなったのかしら?
何をどう戦うのかしら?
お父様に言われたアクション系恋愛ゲーム…
もう無理です。既に容量がオーバーしています。
図書室で本を返し、そのまま帰った。
そしてお父様に伝えると
「大変そうだね。でも楽しいかい?ルイーゼ」
と聞かれた。
黙っているとお父様が言った。
「あまり目立たず、ゲームを終わらせたと思ったら、20年経ってツケが返ってきたりする。人の気持ちはわからないと思ったよ。ルイーゼ、せっかく君は、ゲームストーリーを知らないのだから思うまま、生活していいんだよ。きっとそれが答えになるよ、ゲームなんか関係ないでいいのさ」
「お父様、なんか変わりましたね。以前なら陞爵や領地を受けなかったのではないですか?」
と言えば、
「今回の件は、僕の転生者として招いた事だったし、反省だね。それに素直に認められると嬉しいしね。領地が広くなると大変だけど、やりたい事もあるしね」
「お父様が良ければいいのです。では、私も私らしくいきます」
と言った。
私は、ヒロインではないし、ライバルにもならない。レガシー王子様に言われた、クリスティーナ様に譲れだって、私にはどうも出来ない。
一人怒って溜息を吐くだけだった。
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