第30話 恨みの理由

眩しい陽の光を感じた。

幸せな夢を見たようだ。すっきりしている。

リマが、

「おはようございます、さあ、顔を洗って朝ご飯ですよ。お嬢様」

「えぇ」

「旦那様がお戻りです。皆様で朝食を希望されてます」


「お父様、良かった。ご無事で本当に良かった」

と言うと、頬を掻いて、お父様は、

「ルイーゼ、君に気をつけろとばかり言って、僕が油断していたね、気をつけなきゃいけなかったのは僕だったわけだ。本当にみんな心配かけて申し訳なかった」

と言えば、お母様がここぞとばかりに

「私は、心配していませんよ。旦那様が悪い事をするはずないと知っていますから。私、見る目ありますからね、誤解だってわかってましたから」

と言う。お母様ったら。

お父様は、

「ありがとう」

と言った。今日の朝ご飯は、ジョーセルもメイドに抱き抱えられお祖父様もいて賑やかだ。お祖父様が笑い、お母様が高飛車風に笑い、お父様が穏やかに笑う。

パンもパリっとして美味しい。

今日は、何個でも食べれるかもしれない。


朝食後にお茶をいただいていると、王宮から手紙が届いた。

召喚状だ。

お父様、お母様、そして私。

「まぁ、大変」

とお母様が言い、この後の2時間、時間が飛ぶくらい忙しくて何故こんなお洒落をするのかわからないけどお母様に逆らえる者はいない。

準備を終え、見てみると、パーティーに行くのか?ぐらい派手な気がするけど、これでいいのか疑問。召喚ってすぐ来なさいって事だよね。


そしてお祖父様に家を守っていただき私達は、馬車で王宮を目指す。

馬車の中、お父様に聞いた。

「何故、10年前からトルネス公爵様に目をつけられていたんでしょうか?」

と私が聞けば、お父様も顎をさすりながら考える。

「わからないな」


お母様に学園にいた時の国王や王妃の様子を聞いてみると、

「ハーリー、話していいかしら、私の疑問に思ったことを含めて」

とお母様がお父様に確認して話し始めた。

「そうね、私とハーリーが一年生で入学した頃、国王様、トルネス公爵様は、三年の生徒会にいて、王妃様や国軍隊長は、二年生のメンバーで、三年生にはデマルシア帝国の王子と一年生に王女が留学に来ていた。二年生にマゼラン侯爵やカトロ侯爵もいたわね。公爵令嬢のシャディーヌ様がデマルシア帝国の王子と婚約されると噂があり、私が今の国王の婚約者候補筆頭と言われていて、私は、当然と思っていたの。ここで内約や口約束もなかったのに、私は、王子妃になると思っていた。一年生の伯爵令嬢と子爵令嬢が校舎内を走り回ったり、生徒会メンバーに付き纏ってる気がして、注意していたの。そこから、何故かみんな冷たくなったり陰口を言われたり、サマーパーティーではぶつかって、飲み物がドレスにかかったりして泣き責め立てられたわ」

とお母様が少し辛そうに話した。お父様は、肩を支えて、

「そうだったね」

と言った。

「それからハーリーの勧めもあって、しばらく休学するの。領地に行こうかと思ったんだけど、王都にいたわ。その時学園の様子をハーリーと文通していたの。うふふっ懐かしいわ。驚いたのは、デマルシア帝国の王女とシャディーヌ様にあの自称ヒロイン達が、私にやったみたいに突っかかりに行ったの。すると、今度は、自称ヒロイン達が悪いんじゃないかって陰口の対象があの子達に変わって、文化祭が終わった後に夏季休暇に国王やデマルシア帝国の王子と会っていたとかトルネス公爵やマゼラン侯爵達とも付き合っているとかポロポロ証言が出てきて、当時の宰相と前国王などがその二家に警告をし、領地静養と聞きました」

「今の話の中では、トルネス公爵は自称ヒロイン達と付き合っていたしかないですが、それが恨みですか?」

と私がお父様に聞くと、肩を窄めて

「違うと思うんだけど」

「そう言えば、私は、そこから学園復帰してその時は、デマルシア帝国の王子も王女もいませんでした。不思議だったんですわ」

とお母様が言えば、お父様は、

「夏季休暇中に色々、事態は動き始めた。この国を思案した時今の国王の危なさを元王妃が一番嘆いていた、そこでシャディーヌ様にお願いしていたのは、ある。僕が父に相談して、シャディーヌ様の父に伝わったのもあるが、みんな心配していた今の国王に」

とお父様もお母様も遠い目。

そして一つわかったこと、国王陛下かなり不安視されるような人だという事。


思い起こせば、フリップ王子を監禁して成り代わったキース。


『傀儡』


わからないがこの言葉が出てきた。この国を操っていきたいのか?それが邪魔になるのがお父様なのか?


王宮に案内される。お母様に背中を正しなさいと言われ、意識する。

国王陛下の印象は底辺にある今、あまり緊張していない。大きな広間の会議室みたいなところに通された。

まだ誰もいない。


そこにトルネス公爵一家が入ってきた。サリバン様は、下を向いている。こちらを見ない。アリサ夫人は、睨みつけてきた。

驚いたのはお母様の仕草。扇子をパンと広げ口元を隠した。これが悪役令嬢の仕草か。かっこいい。

トルネス公爵は、国軍隊長に一緒に連れてこられて、お父様を見た。

「何故お前がいる。捕まっているのはお前だろう」

と言った。これだけで密約書の指示を出したのがこいつだとわかる。

手の握りに力が入る。


国王陛下、王妃、フリップ王子が入ってきた。

そして国王が

「どうなっているんだ。これは」

と言った。フリップ王子が平然と言った。

「今回の私の誘拐と監禁、殺されかけた件、首謀者は、トルネス公爵、マゼラン侯爵、カトロ侯爵、ガルバン共和国です」

一息入れ、

「大きく巻き込まれたのは、マリノティス伯爵、ルイーゼ嬢、レイラ嬢、デマルシア帝国」


えっ、デマルシア帝国って巻き込まれたの?ナタリア王女って一体。

「いえ、私は違います」

とトルネス公爵は、国王陛下に向かって言う。アリサ夫人も

「私は何も知らないです」

と言った。サリバン様は無言。

フリップ王子様は、

「ここに密約書がある。これを持っていたステファンは、トルネス公爵家に昔いた人間だな。公爵に執務室に書類を入れろと命じられたと自供している」

トルネス公爵は、首を振って、

「違います、ステファンは、マリノティス伯爵の執事。私には何も関係ない、マリノティス伯爵に脅され嘘を話してるんだ」

と言った。国王もたまらず、

「トルネス公爵、何故」

とぼそっと言った。

フリップ王子は、

「現場を押さえたんだ、トルネス公爵。今、カトロ侯爵確保、マゼラン侯爵とガルバン共和国には、外政官と国軍がついた頃だろう。ガルバン共和国も自国を守る為に差し出すと思う」

と言えば、サリバン様が口を開いた。

「手配が良すぎる」

と小さな声で、フリップ王子様は

「あぁ、夏季休暇は私の側近達も地獄のスケジュールだったさ、デマルシア帝国にバックアップを頼んだ。ナタリア王女の件も仕組まれたと言えば、打倒ガルバン共和国になる」

と言った。サリバン様は、顔を上げて言った。

「全て予定通りだった、全て、いやただひとつ、悪役がルイーゼからレイラにいつの間に変わって、いや二人とも悪役令嬢だから物語は進んでる、こんな結末は知らない。俺が裁かれる結末は、どのルートもない」

とも言えば、お父様と顔を見合わせた。


サリバン様お前か、転生者。


この人がフリップ王子様の近くにいる転生者?敵だけど。

「残念だよサリバン、友達だと思ってた。ずっと」

とフリップ王子が言えば、サリバン様は、なんとも言えない表情で言った。

「嘘言うなよ。表面上では高位貴族と付き合っていたが、お忍びで行く時は、フランツやソリオ達だったろう。本当の意味の側近を隠していたよな」

苦笑いしているフリップ王子。

「学園を卒業する際には各場所に着いてもらう手筈になっていたけどね」


私はそれより転生者は、サリバン様だったことをまだ飲み込めていなかった。

お父様が、

「何故、トルネス公爵様に私が10年前から目をつけられていたんですか?」

と言った。トルネス公爵様は、

「君が言うかね、サリバンと仲間だろう。転生者。昔ある令嬢も言っていた、私、この世界知っているんですと、これから先を言っていた。夢みがちな令嬢だと聞いていた。その令嬢に関わるようになった時にデマルシア帝国の王女とも仲を深め始めた。すると、事態がいきなり動いた。楽しかった日々が終わった。デマルシア帝国に王子王女は帰り、令嬢達は領地静養。何が起きたか分からず事が進んだ。学園での令嬢とどこかの夜会で会った時、マリノティス伯爵が全ての元凶だと悪役令嬢を庇った為に全て物語が変わったと聞いた」

何だこの人、自分がモテモテで楽しかったから、それを壊したお父様が憎いということ?

たったそれだけでステファンを仕込んでいたの?

ブルブル震えているのは、アリサ夫人だ。

「あなたって人は、今あなたが言っている事が恥ずかしい事だとお分かりですか?」

と言えば、トルネス公爵は、

「アリサ、君にはわからないよ。あの楽しかった日々を体験してないんだから、ね、国王陛下」

と国王陛下に話を振った。

「私は、そんなものは知らない」

と横を向いた。

攻略対象者って楽しいんだ。

へーそうなんだ。呆れるばかり。

みんな沈黙だ。

国王陛下がたまらず、

「後で処分を言い渡す、トルネス公爵は貴族牢へ、公爵家は謹慎」

とさっさと部屋から出ていく。あんな10年前からの恨みが楽しかった日々、モテモテだった頃とか呆れるばかりだ。

サリバン様達も出て行った。

「サリバン様、何故レイラ様にライラ様を当てたんですか?回避は出来たはずなのに、お父様のように」

と言えば、こちらを見るわけでもなくただ

「物語のストーリーを楽しんでいただけだ」

と言った。恋心なんて感じなかった。いや、生徒会室でそう言えば、少し迷っていたような仕草態度はあった。そう思いたい。


「私達も帰るよ」

とお父様に声をかけられる。なんとも言えない顛末に私よりお父様が悲しい顔をしていた。お父様はゲームの作成者だ。こんなゲームではなかったんだろう。


馬車は、揺れ、そして朝が来る。

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