第28話 密約書

何だろう。

何か引っかかっているのに出てこない。部屋でウロウロ歩き、疲れて寝てしまった。

朝になっても状態は改善されていなかった。

お父様は、王宮に行ったまま、騎士団の人がいて、執務室からは執事が出て行った。

「お父様…」

執務室の扉を開けようとしたら、鍵が閉まっていた。執事が閉めたのね、何の為に?内政官が来て調べているのよね、内政官が閉めたのかしら、でも出てきたのは執事。

内政官が来る前に何の用があった?

気になる。


扉の鍵のノブごと柔らかくして扉を開けて入る。きちんと整理されている机に書類。内政官が入ったけどあまり変わってないようだ。ただ一冊のファイルを除いて。

紙が飛び出ている、慌て差し込んだように。

その紙を見る。


『密約書』


私は、自分の部屋に行った。リマにお母様の具合を聞き、どうしても聞きたいことがあると伝えた。


「体調が悪いところ、すいません。お母様」

と気遣うと、お母様は、

「大丈夫、我が家の一大事に私、情けなかったわ。ごめんなさいね、ルイーゼ。外部と連絡はとってはいけないとの事でしたが、お祖父様は良いとの事で、朝方早馬で知らせました。それで聞きたいことって何?」

「はい、執事のステファンですが、誰かの紹介ですか?出身地はご存知ですか?」

「もう、10年以上前ね。紹介だったわ。頼まれたのかしらトルネス公爵様に、確か。そうよ、あちらで勉強して、貿易に興味があってステップアップの為に来たのよ。出身地は、ガルバン共和国のどこだったかしら?お父様の貿易もどんどん上手くいったのは、ステファンからの紹介人がいたおかげのはずよ」

「10年以上前からですか。ありがとうございます、お母様」

「どうしたの?急に」

「いえ、執務室に入るところを見たので」

「そう?」

お母様の部屋から自分の部屋に戻る。


10年以上前から計画されていたのではないか。

何故お父様が狙われた?

いや、お母様?自称ヒロイン達が結婚先からお父様の取引に関わり始めたのも10年前。

お父様が転生者として気づかれたと言っていた。

どこで、トルネス公爵とぶつかるのか?

『密約書』を見る。

トルネス公爵の名前はない。

もちろんお父様の名前も。あるのは、ガルバン共和国とカトロ侯爵とマゼラン侯爵のみ。

そしてこれを我が家におけば、取り仕切りがマリノティス伯爵になる。

ステファンが置いた証拠はない。誰も見てない。

内政官に見つけてもらうつもりなのだろう。

これは現場を押さえるかの勝負だ。

内政官が帰った後、何故書類が見つからないか調べるはずだ。そこを確保するしかないだろう。もうじきお祖父様が来るかもしれない。

相談してみよう。


私は、お昼ご飯を取る為、食堂に行く。ステファンが廊下でウロウロしている。

おかしいと思っているのか、苛立ちが見てわかる。

お昼を食べ終わる頃に、お祖父様が早馬で来てくれた。ステファンががっちりとお祖父様の側につき、事の概要を説明している。

どうにかお祖父様だけとお話がしたい。

様子を見ているが、離れようとしない。騎士もいるし下手な真似は、出来ない。


「どうしよう」

と呟けば、スーッと窓に大きな鳥の影が映った。なんて綺麗な鳥でヒーローのようにサッと現れた。

乙女のようにポゥーとしたこの気持ち。

みんなが

「鳥だ、鳥だ中に入りそうだぞ。窓は全部閉まっているか」

と騎士の一人が言えば、ステファンも屋敷を見ないといけない。場を離れた、その瞬間にお祖父様に

「内密に話があります。危険人物は、ステファンです」

これだけ伝えて、部屋に戻る。

これだけ言えば、お祖父様ならわかってくれるはずだ。

窓から見える優雅に飛ぶ鳥に

「バードありがとう」

と言って手を振った。バードはわかったのか旋回して空の彼方に飛んで行った。

リマから伝言が来た。お母様の部屋でお茶会だ。

ステファンがいるかもしれないが、お祖父様がどうにかするのだろうか。

とりあえず、私は、メモ程度にまとめた紙を用意した。


お父様は、カトロ侯爵、マゼラン侯爵、ガルバン共和国、デマルシア帝国の繋がりの証拠を集めると言った後に捕まった。


情報が漏れている


今日の朝、執務室から出て行くステファンを見た。執務室に鍵をかけたのを外し中に入ると密約書が乱雑に差し込まれた。


密約書に、カトロ侯爵、マゼラン侯爵、ガルバン共和国のサイン。


ステファンはトルネス公爵の子飼いの可能性有り。


国王とトルネス公爵の話し合いでお父様の名前が出て、フリップ王子に伝わる


これを二枚用意し、折り畳んで用意した。

お母様の部屋に行くとお母様は不安気な顔をして、お祖父様は、憮然としていた。

リマやメイドがお茶を用意してくれて、扉は開いており、騎士が待機している。ステファンは扉の近くにいる。


お父様が心配だという話をして、場を繋ぎながら、テーブルの側面の厚さの部分を柔らかくしてお母様とお祖父様のところまで溝を作る。手紙を円筒にして滑らせた。音は出なかった。それぞれに渡ったのでテーブルを戻す。

ドキドキしながらお茶を飲み、リマが

「お代わりは、」

と言っている最中にフリップ王子様の一団が来たと連絡が入り、また大いに慌てることになった。


外部との接触禁止なのに何故?

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