第73話 フロージア代表キャプテンアマト
「クレええええええええええええええ」
なんてことだ……恐れていたことが……。
とにかく俺たちは急いでクレの元へと駆け寄る。
「ぐっ、うっ」
「大丈夫か!? クレ」
「ちょっと通して、ヒリラさん、お願いします」
「かしこまりました。少し診させていただきます」
ベンチ裏からヒリラさんがやって来る。
クレの容態は……
「はい、大丈夫です。これならすぐ治りますね。とりあえずこちらを貼っておいてください」
「は、はい。えっと……なんですかこれは」
「それはフィップ。皮膚に特製の液を染み込ませ痛み止めと治癒の効果をもたらすものです。
それを貼って安静にしておいてください」
どうやら致命的な怪我ではないようで一安心だ。
流石オグレスの科学。本当に感謝しかない。
しかし……
「いや、安静になんてしていられません。
まだ負けているんです。彼らのスピードについていけるのは俺とラーラだけ。ここで俺が倒れるわけにはいかない」
「……ダメよ。それは聞き入れられないわ」
「何故ですかフィロさん!
大切な試合ですし、今貼っていただいたフィップのおかげでもう足も痛くありません! 俺はまだやれます!」
「……まず、痛みがないのはそれのおかげ、決して治ったわけではないわ。科学力があるといっても、最終的に頼れるのは人間の治癒力。治癒力を促進させることはできても、魔法のように一瞬で回復させることはできない。
それに、ここで無理して試合に出れば今後更に長い間辛い思いをするかもしれないのよ」
「……それでも」
「そしてもう一つ。先に言わせてもらうわ、ごめんなさい」
「え……」
「こうなる可能性はあったのに、あなたを止められなかった。私の判断ミスよ」
「いえ、俺も承知の上での作戦だったので……謝らないでください」
「ありがとう。
そしてその上で言うわ。ベンチに下がりなさい。ここだけは退けない」
「ですが……」
「大丈夫だって。このチームにはまだまだ頼れる仲間がいるでしょ?
そうよね、凛ちゃん」
「はい、いつでも出られます」
「凛ちゃん!? さっきまでどこ行ってたの? 姿見えないから心配したんだよぉー」
「うん、ちょっとね」
「クレートくん、あなたの代わりに凛ちゃんが試合に出るわ。
もっとも、彼女が信頼できないというのなら否定してくれても構わないけど」
「……いえ、大丈夫です。
頼んだ」
「頼まれた」
「そして、ラーラちゃん」
「は、はい!」
「私的にはあなたにも退いてほしいの。理由はわかるわよね?」
「……確かに、わたしも心のどこかではこんな……スポーツマンシップに欠けることはしてこないんじゃないかって油断していた部分はありました。
でも今は違います! それに、こんな戦い方をするチームが許せない! 覚悟は決まってます! まだ戦わせてください!」
「……わかったわ。
レオくん!」
「はいっ!」
「ラーラちゃんがヤバそうだったら守りなさい。あなたなら可能でしょう?」
「当然、ラーラちゃんには1ミリたりとも危害を及ばせないことを約束致します」
「よし。
じゃあ、いってきなさい!」
「「「はい!」」」
結局、クレに代わって凛が出場、ラーラもベンチに下がらないことが決まる。
当然俺にもラーラにベンチに下がってほしい気持ちはある。しかし、ここでクレに続いてラーラまでいなくなると俺たちの勝率は0に等しくなる。
フィロさんもそれはよくわかっているのだろう。だからこそのこの選択だ。
頼んだぞ、レオ。
一旦状況も落ち着いたところでフィールドを見ると、先程クレに衝突した選手がレッドカードを出されている場面が目に入る。
「今のプレーは故意に衝突したと判断しました。
何か異議はありますか?」
「故意に衝突したわけではないと思います。恐らく彼もボールを奪おうと必死になりすぎてしまったのでしょう。
しかし、その結果相手の選手を傷つけてしまったのも事実。危険なプレーの結果レッドカードと判断されてしまったのは仕方のないことだと思います。
よって、この判断に異論はありません」
「お前、ふざけんのもいい加減にしろよ。
どうせお前が仕向けたんだろ! 白々しいんだよクソ野郎が!」
「なんですか? 汚い言葉ですね。審判に報告しましょうか。迷惑です」
「てめぇ……!」
「よせ将人、それ以上言ったら今度はお前が退場になるぞ。
こいつには、プレーで見返してやればいい」
「懸命な判断ですね。
それでは、この悲しい事故のことは忘れて、正々堂々とした勝負をしましょう」
懲りずに煽り続けるアマト。
将人が怒りを抑えられないのも無理はない。
仲間を傷つけられて俺だって怒りで溢れている。
絶対に勝つ。
強い気持ちを胸に抱き、フィールドへと戻る。
後半24分。ファールのあった場所からオグレスボールでスタート。
一見チャンスだが、そうもいかない。
攻めの要であったクレはもういない。
どうやって攻めようか考えていると、凛に声をかけられる。
「ボクに策がある」
***
「ピィィィィィィィィィィィ」
試合再開の笛が鳴る。
キッカーはレオ。ということは……
「ええい!」
自信なさげに蹴られたレオのボールは
「ホントに上手いんだ。やるじゃん!」
凛へと届く。
褒める凛、知っていたのか……?
いや、レオの反応を見るに、あの後自分がパスが上手いって凛に自慢でもしたのだろう。
肝が据わってるなあ、ほんとに。
こうして凛にボールが渡り、受け取った凛はドリブルで前に進む。
「大丈夫です。
その方は普通の選手。囲めば終わりです」
アマトの指示の元、2人の選手が凛のディフェンスに当たる。
囲まれた凛、しかし……
「はっ、その程度?
なめてもらったら困るんだけど!」
見事。フェイントを駆使し、2人のディフェンスをものともせず凛は突き進む。
「何をしていますの! たった1人ですわ!」
3人、4人……5人! 前線の選手も戻ってきて凛のディフェンスに当たるが、凛からはボールを奪えない。
「くっ、なぜ奪えない。
もう1人当たってください! ここで絶対に止めます!」
「いやいや、1人に対して6人は愚策でしょ」
相手が集まってきたところで凛はパスを出す。
氷の上という慣れないフィールドで、あれだけの人数に囲まれながら、それでもボールを奪われず進み続け、一瞬の隙を見つけてパスを出す。
先程ベンチにいなかったのは、裏で氷の上でのドリブルを練習していたからだろうか。
中園凛、上手いとは思っていたが、これほどとは……。
そしてそのパスを受け取るのは……
「おっしゃあ! ぶち決めてやるぜえ!」
将人! ダイレクトで蹴ったそのボールは、的確にゴールの隅を狙い撃ち……
「させません」
「なっ!?」
狙い……撃てない。コースが読まれていたのか。アマトによってギリギリのところで弾かれる。
「わかりやすいですね。
僕に怒り、僕に一泡吹かせたい。故に僕側のゴールを狙ってくる。そこまでわかっていれば止められます。
単純そうなあなたを散々煽った甲斐がありました」
大きなチャンスをまたも逃し、試合は0-2のまま。
試合終了時刻は刻々と迫ってきているのだった。
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