第63話 氷の惑星の大きな罠

 「到着! 一番乗りーっ!」


 「ちょっ、ラーラ、滑るわよ!」


 「大丈夫! こういう環境は慣れてるからーっ!」


 俺たちは無事フロージア星に到着した。

 見渡す限り白一色。当然のように雪は降っていて、地面は凍っている。まさに氷の惑星だ。

 雪国出身のラーラは大丈夫なようだが、こういった環境に慣れていない俺たちは歩くだけでも苦労しそうだ。

 そして、このジャージの機能は想像以上に完璧で、寒さは全くと言っていいほど感じなかった。

 まあ、これだけの景色の真っ只中にいながら、少しも寒くないというのは少し違和感はあるのだが。


 「彼女、かなりはっちゃけてますね」

 「みたいだな」


 「ん? クレ、アラン、何か言ったか?」


 「いえ、特に関係の無い話です。

 それよりキャプテン、僕たちの代表なのですから、先導してください」


 「わ、わかってるって」


 アランに急かされ宇宙船から降りる。緊張する暇すら与えてくれない。


 先に降りていたラーラたちとも合流し、俺たち全員がフロージア星に降り立った。


 上を見上げると、銃士隊のみなさんが飛んでいる。整った動きは彼らを信用するこれ以上無いほどの理由になる。


 そして向かいには出迎えのフロージア星人。

 ユニフォーム姿の……恐らく選手が16人。この寒々とした景色の中で半袖のユニフォームを見ると、暖かいはずなのに寒く感じてしまうな。

 肌はかなり白いが、事前情報通り他の要素は俺たちと同じ。ギガデスのように体格差で苦戦するということは無さそうだ。


 「初めまして。オグレス代表のみなさん。

 僕はアマト。フロージア代表のキャプテンを務めさせていただいています」


 アマトと名乗る青年に話しかけられる。

 年齢は20代前半くらいで比較的若い。歴戦の猛者のような見た目をしていたギガデスとはまた違った雰囲気だ。

 凄く好青年な見た目をしていて、それは話し方にも表れている。


 「これはご丁寧に。

 俺は山下龍也。オグレス代表のキャプテンです。

 どうぞよろしくお願いします」


 「こちらこそよろしくお願い致します。

 突然で申し訳ないのですが、1つ、僕たちから謝罪しなければならないことがあります」


 「謝罪……?」


 「はい。実は、最近星が少し荒れていまして。反サッカー派の勢力が急増しているのです」


 「……はぁ」


 何だ? 謝罪? 話が見えない。


 「彼らの活動は過激化する一方、そしてつい先日、事件は起きました」


 「…………」


 「サッカー反対、ゼラ反対の札を掲げた彼らは、あろうことか、この星のサッカースタジアム、その全てを破壊してしまったのです」


 「……え?」


 「流石に行き過ぎた行為。彼らの団体は既に捕まりましたが、失ったものは戻りません。

 したがって、今のフロージアにはサッカースタジアムがありません」


 「えっ、ちょっと……それって」


 「安心してください。試合ができないというわけではありません。

 急造ですが、サッカーのコートは作らせていただきました。しかし、ここでまた1つ新たな問題が発生しました」


 「……はぁ」


 「彼らは想像以上に用意周到でした。

 僕たちの星には、フォノウという装置があります。

 これは地面の下を通り様々な建物や道路に熱を与え氷を溶かす装置。

 寒さの厳しい僕たちの星では、この装置が本当に大切なものでした。

 これが無ければ、建物や道路は常に凍っていて寒さもより厳しくなります」


 「まさか……」


 「……察しがつきましたか。

 その通りです。

 彼らは、このフォノウを破壊したのです。これもまたこの星の全てのものを」


 「そんな重要なもの、少ない数ではないのでは?」


 「ええ。

 彼らはかなり大きな組織だったようで。

 全く、やられましたよ」


 「…………」


 「フォノウの破壊は、当然サッカーコートにも影響してきます。

 あの広いコートを、フォノウも使わず凍らせずに保つ方法が無いからです。

 つまり、今回の試合で使用するサッカーコートは、地面が凍っている状態になります」


 「…………」


 「こんな事態になってしまい、本当に申し訳ありません。

 サッカースタジアムがあればまだマシな状態だったのですが、こちらも破壊されてしまった状況。

 コートの状態は悪くなってしまいますが、ご容赦ください」


 「それ、ゼラは把握してるんですか?」


 「ええ。スタジアムとフォノウが破壊されたときに報告はさせていただきました。

 彼らは、緊急事態ならば仕方がない、と。オグレス星には事前に伝えるようにとも言われましたね」


 「……にしては、伝えるのが遅くないですか? 今日は試合の前日ですが」


 「そうですか?

 まあ、コートが決まったのが昨日ですし、誤差ではありませんか?」


 「……コート、こんな状況なら無条件で相手側のコートになるとかも無かったんですね」


 「そのようですね。

 ルールはルールなのでしょうか。今回の大会は参加数もかなりの数です。特例を認めるのはゼラ側としても面倒くさかったりするのでしょうね」


 「…………」


 「質問は以上でしょうか?

 では、改めて謝罪を。この度は我々の至らなさによりこういった状況に陥ってしまい、本当に申し訳ございません」


 アマトさんに合わせて他のフロージアの人々も俺たちに頭を下げる。


 「すみません。では、時間も惜しいので、本日泊まっていただくホテルへと案内させていただきます。

 こちらのホテルも、フォノウを破壊された影響で寒くなっておりますが、悪しからず。

 あ、足元滑りやすくなっていますので気をつけてくださいね。

 では」


 その後、俺たちは何度も転びそうになりながら、ホテルまで案内された。

 今回の試合、予想以上に厳しいものになりそうだ。

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