第55話 予言者の一族
「今のオグレスと比べたら驚くでしょう。
昔昔、この星は未開の星でした。他の星と比べても文化や技術のレベルは低く、人々の暮らしは貧しいものでした」
現在の、科学は発展し人々が豊かに暮らしているオグレスとは大違いだ。
「昔のオグレスの特徴は、宗教星。
星全体で、毎日毎日祈りを捧げ続けていました。いるかどうかも定かではない神に対して。
そんなある日、ある少女が産まれました。それは神などではない、普通の少女。しかし、彼女には特別な力が宿っていました」
「それが、予言能力ということですか……?」
俺の質問に、ウララさんはこくりと頷く。
「突然変異。この世界では、極々稀にこの世の理を超えた力を持った人間が産まれます。
彼女もその1人。
当初の予言は大したものではありませんでした。しかし、年を経るにつれてその能力は強力になり、オグレスという星に様々な恩恵をもたらしました。
そしてその力は今日まで受け継がれています。これこそがオグレス最大の武器なのです」
なるほど。オグレスの圧倒的な科学力。
それはこの特別な力によるものだったのか。
確かに予言の力を使えれば、未知の科学を事前に知ることができ、急激に星を発展させることが可能だろう。
「我々がどのようにしてゼラのスパイを排除したのか気になってはいなかったでしょうか。
あれも私の予言によることです。
私は、ある人物がオグレスの重大な情報をゼラに流し、オグレスに致命的なダメージを与える場面を予言しました。
この予言によって、事前にゼラのスパイを見つけ出しオグレスの危機を救うことに成功しました。
彼を操ったり、他のスパイを見つけ出した方法については、オグレスの科学力です、想像もつきますよね……?」
「まあ、なんとなくは……」
ここで俺は1つ疑問を覚える。
「予言ができるなら、この大会が開かれることも事前に知れたのではないですか?
いや、それどころか、この大会の結末がどうなるのかも予言できたのでは!?」
隣で未来も確かに! と呟く。
自然な疑問だ。事前に知っていたのなら、こんなギリギリに俺たちを集めずもっと早くからこの大会のために準備しておけばいい。
「残念ながら、それは不可能なのです。理由は2つ」
「2つ?」
「ええ、まず1つ。この力はそこまで便利なものではありません。
これを予言したい! 予言できた! なんて事例は稀中の稀。
もちろん、こんなの予言しても……なんて微妙な予言は滅多に無く、基本的には重要な事柄が大半を占めてはいます。
しかし、少なくとも予言内容を私たちがどうにかすることはできません。完全なランダムです」
ふむふむ。確かに知りたいことを全て予言できたら流石に便利すぎるか。
重要な事柄が大半と言っているあたり、俺の求めた事柄が予言される確率は高いのだろうけど、残念ながら予言はできなかったということか。
「いや、それでも疑問は残ります。
いくら予言内容がランダムとはいえ、重要な情報はそこまで無いはず。
数打ちゃ当たるの精神で試行回数を稼げば望む予言を行うことは可能だと思います。しかし、実際それはできていない。
つまり、もう1つの理由というのは……」
「ふふっ、流石ですね。
そう、あなたの推測通り。この予言にはインターバルがあります。それは6年」
「6年!?」
予言、これは大きすぎる武器。故に連発はできないと考えていたが、一度の予言に6年もかかるのか。
いや、予言という力の影響を考えると6年でも短い方か……。人一人の一生で1回とかでも違和感は無いもんな。
「私たちの一族は生まれたときから修行を始め、ある一定の年齢に達したとき予言能力が発現し、初めての予言を行います。
そして、その予言から6年経つとまた新たな予言が1つ行われる。こういった流れになっています」
「ちなみに、その年齢とは?」
「30歳です。30歳に達すると同時に、修行が充分できていれば初めての予言が始まります。
そして、この能力は60歳で失われます」
「ほう、60歳」
「この能力は強大すぎる力ですから。結構仕組みが難しいのです。
あなたのことですから、その30年間の間にできるだけ多くの予言をするために、子どもをたくさん作ればいい。
いや、今までの流れからそう上手くはいかないか、子どもは複数人作れないのかも。くらいには予想していると思います」
「……ええ、まあ」
「そうなの!? すごい! 私もう半分くらいしかついていけてないよ〜」
「流石、キャプテンだとは聞いていたけれど、やはり頭もキレるのですね」
……嘘だよ! 俺もついていくのに精一杯だよ! 途中から相槌しか打たなくなった時点で察してほしいよ!
いや、子ども複数人作ったらいいんじゃね? とは思ったけど、流れ的に無理かもだなんて考えてなかったよ!
……俺のことをやけに買ってくれているウララさんに恥をかかせないためにもここは黙っておこう。
決して俺が見栄を張りたいわけでは、ない!
「この力には制限がありまして、予言能力が発現してから1人目に産んだ子どもしか能力を受け継がないのです。
つまり、子どもを産むことはできますが、能力持ちの子を増やすことはできません」
「もしかして、この子がその次の予言者さんですかっ!?」
そう言いながら未来はミコトと呼ばれた少女に近づく。
「……ええ、そうです」
「わぁ〜! 小さいのに頑張ってて偉いねぇ!
お姉さんがよしよししてあげますよ〜」
めげないなぁ、未来は。
「だから馴れ馴れしいと言っておるじゃろうが。
不快じゃ、我から離れい」
案の定というかなんというか。
「うええ、ダメだったよぉ」
「あのくらいの歳の子は色々と繊細なんだろ。諦めも肝心」
「えぇ〜、ミコトちゃん可愛いのに……」
「そして、もうお察しだとは思いますが、直近の予言は数ヶ月前にゼラのスパイを見つけた予言です。つまり、今はインターバルの時期。今後試合について私たちが貢献することはありません。
お役に立てず申し訳ないです」
「いえいえ、そんな、謝らないでください。
スパイを見つけ出したってだけで充分な功績なんですから」
「そう言っていただけると嬉しいです。
それで、山下様、白花様、これからどうなされますか? とりあえず予言者に関しての話はこれくらいですが……。そういえば連れてきたのはあなたよね? カグラ。何か用事で――」
「ちょっと待てええぇぇい!」
「? 突然なんですの? お婆さん」
「ウララ! お主今なんと言った!?」
「今ですか? カグラに何の用事があるか――」
「その前じゃ! 人名を呼んだじゃろう!」
「ええ。地球人には"ミョウジ"というものがございまして、そちらで呼ばせていただきました」
「いいからもう一度言えい!」
どうしたんだ? 急に焦りだして。何か変なことでもあったか?
隣の未来の顔を見てみたが、未来も不思議そうな顔をしていて何もわかっていなさそうだ。
まあでもこの状況的に引っかかったとしたら2択……
「ですから、山下様と白花様と」
「や、山下じゃと!?」
俺かあ。
「は、はい! 俺の名字は山下ですが……」
「山下!? 本当に山下なのか!?」
「え、ええ」
「ま、まさか……」
トメさんは突然ペタンと床に座り込む。
俺たちはわけがわからず困惑するのみだ。
「まさか……あの"山下"が生きておったとは……!」
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