第三章 謎と試練
第44話 豹変
「「「かんぱーい!」」」
ギガデスとの試合に無事勝利した俺たちは、宿舎へと戻りそこで開かれた祝勝会に参加する。
目の前には豪華な料理。オグレスでもトップクラスのシェフたちが腕によりをかけて作った料理だ、美味しくないわけがない。んー! 美味い!
試合にも勝ち、料理も美味い。文句無し! ……そう、こいつらさえいなければ。
「りゅ、う、や、く〜ん」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら俺に話しかけてくる影が3つ。無視し続けるわけにもいかないので仕方なく言葉を返す。
「……なんだよ将人」
「いやー、今日の試合は6-5の大勝利! でも俺は途中出場で1点しか決められなかったのが残念だなぁ。龍也くんはフォワードでのフル出場で羨ましい限りです! えっと、何点決めたんだっけ? 3点? 4点?」
「……0点だよ」
「えええっ!? ぜぜぜ0点!? 龍也キャプテンともあろうお方が!? 0点!? た、体調でもお悪いのですか!?」
まーたわざとらしい反応しやがって。予選で俺に負けたのがそんなに悔しかったのかねえ。まあここは大人の余裕を見せつけて、あのアホを惨めにしてやるか。
「いや、俺の実力不足だよ。あはは。将人は凄――」
「ふふ、やめてあげなよ将人。点を決めるのが苦手なフォワードもいるからね。シュートを決められなくても活躍はできるから、さ。ふふっ」
「ガハハ、確かに2点決めた俺様に比べたらお前ら3人は少し劣るが、だからといってフォワードとして雑魚なわけじゃないもんな!」
「「あ? 誰が劣るっ――」」
「おい!!! 誰が苦手で誰が劣るんだ誰が! いいか? 俺は今回の試合作戦立案を考える方に比重が偏ってたから本気が出せなかっただけだ! お前らにあんな優秀な作戦立てられるか? ああ!?」
「はっ、んなもんフォワードの仕事じゃねえな。点を決めて決めまくる。それがフォワードの仕事だぜ! ま、今回は運悪くベンチスタートだったから1点しか決められなかったがフル出場なら5点は決めてたな」
「ふん、そんなのボクだって最初から実力だせてたら6点は決めてたし」
「もし俺様が最初からあのパワー発揮できてれば100点は決めてたぜ!」
「俺だって作戦とか考えずにフォワードに集中してれば――」
「「「「勝負だ!」」」」
ダメだ。結局熱くなってしまった。俺もまだまだ子どもだな。でもこうやって馬鹿みたいに言い合うのも楽しい時間だ。
凛とブラドは悩みが解決しても負けず嫌いの煽リストのままである意味安心したよ。
さて、じゃあこの三馬鹿を黙らせてくるとするか。
そう思い宿舎を出ようとしたところで、壇上から大きな声が聞こえ立ち止まる。
「えー、皆様、祝勝会いかがお過ごしでしょうか。6-5での素晴らしい勝利を記念して、私ヘンドリック・ゲーデから皆様に言葉を贈りたいと思います」
「なんだなんだあ、面白いことやってんなあ」
「ヘンディー! いいぞー!」
「ヘンディくん頑張って〜」
野次を飛ばすレオとペペに可愛いアリス。
3人だけじゃない、他のみんなも楽しく祝勝会を満喫している。
普段通りの光景だ。
ただ3人を除いて。
1人目はヒル、こういう場からはすぐ帰りがちだったが、勝利の喜びか料理の美味さか、今回は会場に残っている。少しでも俺たちに心を開いてくれたのなら、それは凄くいい傾向なのではないだろうか。
ヒルとは逆に不穏なのが2人。そのうち1人はヘンディ。明るいヘンディがこういう盛り上げ役を務めることには違和感はない。しかしギガデス戦後のヘンディはずっと元気がなかった。それが急にこの変わりよう、変だな。
そしてもう1人はザシャ。いつもはヘンディと一緒に騒いでいるが、今回は不安そうな目でヘンディを見つめている。どうしたのだろうか。
馬鹿三人組と勝負もしたかったが、少し気になってしまったため中断。俺はザシャに話しかけようと近づく。するとそのタイミングでヘンディが話を始める。
「今回の得点は6点! 得点に関与したフォワード、ミッドフィールダー、ディフェンダーの皆様! 本当に素晴らしい! あなた方のおかげで勝てました! 感謝しかない!
そして失点は5点!」
この言葉を聞いたザシャは焦りヘンディに向かって叫び始める。
「ダメっス! ヘンディさん! 1回降り――」
「失点に関与したゴールキーパーのヘンドリックくん! あなたは……ゴミだああああああああああああ。
みんなああああああああああああ、本当にごめええええええええええええええええん」
「「「へ?」」」
ヘンディの突然の豹変に会場の全員が呆然とする。もちろん俺もその1人。ヘンディ、ど、どうしたんだ……?
「わあああああ、みなさん、お騒がせしましたっス。なんでもないので忘れてほしいっス。あはは」
ザシャが急いで誤魔化しにかかるがもうヘンディは止まらない。マイクを離さず話を続ける。
「打たれたシュートは……5本! 決まったシュートは……5本! つまり、キーパーが止めたシュートは……0本! なんだこの無能! クビだクビにすべきだああああああ」
喚きながら壇上から降りたヘンディは、端の方で一人座っているルカに話しかける。
「ルカ、これからは一人でキーパーすることになるけど頑張れ! 不安な時は、あのヘンドリックとかいう無能よりはマシだって思えば大丈夫だ!」
「え……は?」
当然困惑するルカを気にも留めずヘンディは会場から出ていってしまう。
「ヘ、ヘンディ先輩!? どうしちゃったんですか!?」
そんなヘンディを未来とミアが追いかける。
会場は大混乱だ。とりあえず俺は諦めた顔で壇上から降りてくるザシャに話しかける。
「ヘ、ヘンディのやつ、何があったんだ?」
「あ、龍也先輩。あー、えっと、ヘンディ先輩は、その、豆腐なんス、メンタルが」
「……はあ!?」
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