第15話 まばらな拍手
自己紹介の翌日、朝飯を食べた俺たちはトール会長に連れられて地球へ。凛とラーラ、ルカにアイドルの2人は既に別れを済ませていたので地球へは戻らないらしい。加えてヒルも希望しなかったらしく今回は同行しない。
こうして俺たちは懐かしの地球へ帰還する。
今回乗ったUFOは地球人に見つかりにくくするための小さなもので、思惑通り地球人にバレずに地球に到着することに成功する。
地球に着いた俺はインタビューを受けるため他のメンバーとは別の場所へ向かう。みんなは直接別れの挨拶に向かうようだ。
タクシーで会場に向かう途中に目にした人々は活気がないように感じられた。宇宙人に襲われる不安を抱えているのだから当然か。
トール会長が言うには、そもそも茶番なんてせず宇宙人の存在を地球人に隠し通す案もあったそうだ。
だが俺たちがオグレス星に行く以上地球からいなくなるわけだし何かあるとバレるのも時間の問題。
だったら宇宙人の存在と自分たちの危機をバラして、その上で自信をつけさせる方が効率的だと考えたそうだ。そこで自信をつける言葉を言うのが今回の俺の役目。
「では言った通りに。インタビューは大体30分程度だ。大丈夫、君ならできる」
「はい、わかりましたトール会長」
「……緊張してるかい?」
「え、いえ……はい、少しは」
「だろうね。君たちはプロのサッカー選手とはいえまだ16.17の子どもだ。世間ではニューグレ世代だの言われているがそんなこと今は理由にならない。本来こんな役目は大人が負うべきなのに。本当に迷惑かけるよ」
「いえ、そんな。緊急事態ですし仕方ないですよ」
そう、宇宙人と戦う選手が全員17歳以下の子どもなのには理由がある。
17年前の2021年から、地球ではある変化が起きた。それは子どもの能力が以前と比べて飛躍的に向上したこと。この子どもたちは一般的にニュータイプと呼ばれ、社会に様々な影響を及ぼした。
この影響が1番顕著に現れたのはスポーツ。運動能力の明らかな高さに加えて技術の習得も早い若者たちに既存の選手が勝てるはずもなく、スポーツのメイン層は若者へ、競技人口の若年化が進んだ。今回の大会はほとんどが17歳以下の選手だったらしい。
そしてこの話はこれだけじゃない。優秀なニュータイプの中でも一際秀でた存在がいた。
それが俗に言うニューグレ世代。本来の呼び名はニューグレートエイジャー世代。ニュータイプが出現した最初の世代の人たちを指している。細かい基準は存在しないが、だいたい2021年度生まれが当てはまるとされている。2021年11月生まれの俺も一応ニューグレ世代だ。
ニュータイプが秀才ならニューグレ世代は天才。そんな声が飛び交うほどニューグレ世代の才能は圧倒的だった。
先程今年の大会はほとんどが17歳以下の選手だと言ったが、実際はほとんどがこのニューグレ世代の選手だ。他にも研究や政治、芸術など様々な分野で特異な才能を発揮してきた。Twinkle Starの2人もその1つ。彼女らもニューグレ世代の才能を活かし、16歳という若さでトップアイドルとなった。
つまり、ニュータイプとニューグレ世代の出現によって地球の理は変化した。
「とはいえ、大人としては情けなさはあるよ。
……そろそろ時間だね。頼んだよ、龍也くん」
トール会長に見送られながら俺は記者会見場へ向かう。
会場には数えきれないくらいの記者たち。
名前を呼ばれた俺は記者たちの前に歩き出す。
インタビューの練習は充分なはず。何を言うかは頭にしっかりと入っている。大丈夫。あとは自信をつけさせるためにドンと構えて応対すればいい。
記者たちの前に立った俺に容赦なくカメラのフラッシュが襲いかかる。
「では、これより記者会見を行います」
その合図とともに記者からの質問ラッシュが始まった。
「宇宙人と戦ったとお聞きしましたが宇宙人はどのような行動をしていましたか」
「宇宙人の容貌は」
「試合に勝つ自信はありますか」
「オグレス星とはどのような場所でしたか」
「まだ若いようですが地球の未来を背負っている自覚はありますか」
「あなたが負ければ地球は滅ぶんですよ? 大丈夫ですか」
「負けたらどうなるか覚えとけよ」
…………
頭が真っ白になる。
俺はサッカー選手として何度もインタビューを受けた。まだ高校生の俺には勝っても負けても最低限配慮されたインタビューが行われていた。
今回も同じ、まだ子どもの俺に対して応援の言葉が送られれつつ軽い質問に答える。そして一言言葉を送って終わり。そんなイメージだった。
だが現実は違っていた。配慮なんて欠片もなく、思い思いの言葉を口にするだけ。余裕のない大人たちの怖さ。宇宙人に対する恐怖から生まれた行き場のない怒りを俺にぶつけている人もたくさんいる。
「あ、えっと、その」
「聞こえねえよ!」
「大丈夫なの!? ほんとに」
宇宙人と戦った時以上の恐怖。初めて直接感じた大人からの敵意に頭が真っ白になる。声すら出なくなったその時
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃん」
会場にマイクの音が響き渡る。
その音で我に返った俺が前を向くと会場の奥にトール会長を見つける。
トール会長は何も言葉を発していなかったが、その目からは俺への心配が確かに伝わってくる。
この場にいるどんな大人よりも信頼できる目、どことなく安心感を与える目、俺は落ち着きを取り戻す。
「失礼いたしました。少し落ち着きを失っていました。
あなた方が不安に駆られているのはわかります。
しかしそんな今だからこそこの言葉を覚えていてください」
俺は大きく深呼吸しこの言葉を伝える。
「絶対に勝ちます」
この言葉で会場の空気が少し変わるのを感じた。
「絶対です。何があっても勝ちます。
だから、信じて待っていてください。
僕たちが勝って地球に戻った時、笑顔で出迎えてくれることを信じています」
嘘でもいい、虚勢でもいい。今必要なのは自信。少しでも地球人に安心を与える。それが今回の俺の役目。
改めて自分の役割を理解した俺は大声で叫ぶ。
「だから……絶対に諦めないでください……!」
しばしの静寂が訪れる。
そして、会場からぱらぱらと拍手が送られ始める。
俺は再び会場にいる記者たちの顔を見渡す。
確かにまだ不満そうな顔やイライラしている顔は見受けられる。
しかしそれでも俺の言葉で安心してくれたであろう人の顔は確かに存在する。
この小さな変化が地球にいい影響を及ぼすことを信じて俺は壇上から降りる。
まばらな拍手に見送られて。
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