第4話
「Wi-Fi?」
「へぇ、結構電波飛んでんだねー」
覗き込んでいた由紀の表情が凍る。
たくさん並ぶ野良Wi-Fiの名前の最上部に「YO_is_Here」(YOはここだ!)という名前を見つけたのだ。
「え? なにこれ」
「最近スマホとか送られてこなかったかい? コジキ系ゆずチューバーさん」
「ない……と思うけど、まだ開けてない段ボールがある」
引き出しからカッターを取り出し、由紀と麻美が段ボールへ向かう。
2つ目の段ボールから、電源の入ったままのスマホが見つかったのは、すぐのことだった。
「え? 電源入ってる?」
「じゃあそれだね」
「うそー。だってほしいものリストにスマホなんか登録してないよあたしー」
気味悪そうに電源を切ろうとする由紀の手を止め、正義はその何世代か前のスマホを取り上げた。
そのまま、いくつかの設定を確認する。
麻美も由紀も、正義が何をやっているのかも聞かず、ただじっと待った。
「……うん」
数分後、納得したようにうなずいて顔を上げる。
そこで初めて、二人の幼馴染にじっと見つめられていることに気づいた正義は、バツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「ごめん、ちょっと夢中になってた」
「かわんないよねー、正義ってさー」
「で? もうわかったの? 解決?」
麻美に
由紀のPCを借り、『よーちゃん』のほしいものリストを開くと、一番最初に目についた商品を無造作にカートに入れた。
「まずどうやってスマホを送りつけてきたか、だけど。それは簡単。こうやってほしいものリストの商品を入れて……」
支払画面からブラウザの戻る機能で、適当にリストにない商品のページへ移動、それもカートに入れた。
もう一度支払画面へ進む。
最初にカートに入れていた商品を削除すると、そこにはリストになかった商品だけが『よーちゃん』へのギフトとして選択された状態になっていた。
「うわマジこれー?」
「こんなに簡単に何でも送れるんだね」
二人は納得した様子でわいわいと話をしている。
その間に正義はスマホをもう一度手に取り、操作を始めた。
しかし、麻美はふともう一つの問題に気づいた。
「あれ? でもさ『テザリングの設定までした電源の入ってるスマホ』なんて売ってるお店ある?」
もっともな疑問だった。
由紀も「ほんとだー」と今更ながらに相槌を打つ。
しかし正義はスマホから目も上げずに答えた。
「何も不思議じゃないさ。ジャングルドットコムの『マーケットプレイス』はね、銀行の口座番号さえあれば誰でも登録できるんだよ」
「うそ?! ちゃんとしたお店じゃなくてもいいの?!」
「うん。だからこのショップもストーカーのものだろうね」
そう言いながら、正義は立ち上がる。
不思議そうに見上げる幼馴染たちに向かって、唇の前に人差し指を立てると、そっと窓へと近づいた。
カーテンの影に隠れながら、スマホの画面と外を何度か確認する。
ふぅ、とため息をつき、正義は元の場所へ戻って腰を下ろした。
「……どうしたの?」
「うん、ストーカーが由紀の家を特定した手段は、ゴーグルアカウントの端末追跡機能だったよ」
「端末追跡?」
「そう。端末をなくしたり盗まれたりしたときにね、同じゴーグルアカウントが登録してあれば、簡単にGPSでその場所を特定できるんだ。だから、逆にこっちの端末からも相手の場所がわかる」
正義が二人へ向けたスマホには、ゴーグルマップの画面上に、『端末1』『端末2』と並んで表示されていた。
「……そこに、居るの?」
「マジで?! 正義、どうしよー?!」
GPSを信じるなら、それは目の前の路上。
二人はあまりの急展開にパニックになり、警察を呼ぼうとスマホを取り出した。
難しい顔をした正義が二人を止める。
そのあまりに真剣な表情に、麻美も由紀も落ち着きを取り戻した。
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