第16話 「メッセージ」

 

 翌朝、僕はマインと一緒にミーシャが泊まっている”綺麗岩のおしゃべり亭”へと向かっていた。



 僕はソーサーズランドにいる間、マインの住んでいる部屋に厄介になっていた。


 先に予知を授かり、住処へと帰っていた僕は、しばらくマインの事を待っていたが、彼はなかなか戻ってこなかったので仕方なく僕は眠った。


 翌朝、目を覚ますと、いつの間にか彼は家の中にいた。いつの間に帰ったのだろう……。

 そしてごく簡単に朝食を済ませると、二人で家を出たのだった。



 昨日の最後に、普段と違う様子をみせたマインの事が気にかかっていた。

 あんなに激情にかられた姿を見たのは初めてだった。もちろん、僕自身の予言の事も頭を悩ませていたがやはり気になってしまった。


 それにテラはマインにと、確か言っていた。

 これは一体どういうことなんだ……。 これだけフラグが立って、気にするなと言う方が難しいだろ?



 ――……それで肝心のマインはというと、未だどこかピリピリと話しかけづらい雰囲気であった。


 僕は彼に話かけようかと悩んだが、簡単に立ち入っていい話題じゃないかもしれないと思って、そのまま黙っていた。



 そうこうしているうちに、僕達は全く会話をせずにおしゃべり亭の正面までやってきてしまった。


「……」


「………。」


 本当ならここで何か気の利いたセリフが出てくるといいんだけど、あいにく僕にはそんな才能は持ち合わせていなかったのだ。


 なのでとりあえず、僕は横目でマインの顔を伺ってみた。

 気まずい展開を予想していたが、思いもよらずにマインの方から話かけてきてくれた。


「……聞かないのか? 」


「え゛っ」


 聞けないんだよ!


「俺の予知だよ。 気になるだろ?」


そりゃあ気になる。しかし僕は少し悩んで、


「………いや。 聞かないよ。 余計な厄介ごとは、ごめんだからな」


「フっ  ……ッらしいぜ」


 結局、僕は何も言えなかったが、マインの様子はいつも通りの元気に戻っていた。

 マインにつられて僕の口からも楽しい息が出ていた。



~~~~



 綺麗岩のおしゃべり亭の一階のフロアは、冒険者ソーサーも多く利用する酒場になっている。しかし昨晩とは違い今はまだ朝だったので、人の姿はほとんどない。


 いや、一人だけいた。そいつは部屋の隅で、こんな朝方から一升瓶を片手にして酔っぱらっている。


 黄色いベストにチェックの黄色いズボン。ボッタくりカッフェの店主マルマルであった。声をかけようかと思ったが、マルマルもマインと同じく、昨日ミーシャともめたばかりだ。


 これからミーシャと会うのにまたもめる事になるのはめんどくさい。というか彼の性格からマルマルが余計な事を言ってミーシャともめるのは目にみえている。もうもみもみだぁ……。


「……無視しよう」


「らージャっ 」


 僕達は酔いつぶれているマルマルのすぐ後ろをそおっと通ると、光のささやき亭のサラがいる店の奥へと進んだ。



 部屋の戸を開け中に入ると、女主人のサラは店の帳簿をつけている様子だったが、彼女は途中で切り上げ僕達を快く出迎えてくれた。


「レインさん! それにマイン君も、いらっしゃいなっ!」


 年の割には幼い顔付きで、艶のある桃色の髪に黄金の瞳をしているサラは、遠目から見ても一目でわかるほど美しい見た目をしていた。


「ミーシャちゃんの迎えにいらしたんですよね? あ、待ってて。今、お茶出しますね」


「ああ、それより昨日は急に彼女を預けてしまって悪かった。 いつかお礼をさせてくれよ」


「いえいえ! お礼なんて……私今でも、あのとき救って頂いたこと、感謝してるんですよ」


 会話の間もサラは忙しく動き回り、お茶やお菓子などを長机に出していた。それで彼女は慌てすぎたのか、飴玉がたくさん入った籠を持ったまま、何も無いところでつまずいてしまった。


「危ないっ! 」


 すかさず態勢を崩したサラの体を、咄嗟にマインが支えた為に彼女は転ばずに済んだが、運んでいた飴玉は全て床に零れ落ちてしまった。


「ふう、相変わらず危なっかしいなあ」


「てへへ、ごめんごめん」


 マインがサラを抱き起してから、僕達は三人で飴玉を一つ一つ拾っていった。


 それから僕達は長机に着き、少しお茶とお菓子を食べて話した。

 話の内容はお互いの近況報告など他愛もないものだった。三人とも見知った中だったし、マインと

 サラは以前は少しだが男女としての付き合いがあったと聞いていた。ということでそこそこ会話も弾んだ。


 しかし僕ら二人がテラから授かった予知については、二人とも語ることはしなかった。



 その後、サラは化粧棚から鍵を取り出すとおもむろに言った。


「そろそろミーシャちゃん呼んでくるね。 ちょっと待っててっ」


「ああ」 「おう」


 サラは部屋を出て廊下の突き当りの階段を登って行った。



 綺麗岩のおしゃべり亭は一階が酒場で二階が宿屋になっていた。サラはミーシャがいる二階の部屋に向かった。


「み、みんなっ! 来てっ!!!」


 突如、頭上からサラの悲鳴が聞こえた。僕達は急いで二階の彼女の元へと駆け付けた。


「どうしたんだ……っ!」


 サラは扉が開けっ放しになっていた部屋の前に立っていた。そこがミーシャが一晩を過ごした部屋だったのだけど、ミーシャの姿はどこにも無かった。


 扉の向かい側に一つだけある窓が全開になっていて、そこから風が部屋の中に吹きこむ風で、天井の隅の蜘蛛の巣が小さく揺れていた。

 床には机の上にあったと思われるスイレンの花と花瓶が落下していて、それが細かく砕け散ってしまっていた。


「ミーシャちゃん……!」


「この部屋の荒れ具合、……何かあったのかもしれないぜ」


 僕も辺りをくまなく見渡してみる。

すると机の上に門番のアジ・フライ達が検問のために使っていた物と同じ薄い板状のギアボックスが置いてあることに気づいた。


 僕はそれを手にとった。

 これは情報を記録しておくことに特化した超電伝達板テレパスボードといわれるもので、もしかしたら何かミーシャがここに居ないことの原因が分かるかもしれない手がかりか伝言のようなものが残っているかもと思ったのだ。


 しかし超電伝達板テレパスボードは、テレスを使えない人間が使用することを想定していない。僕は一年前に始祖のせいでテレスが使えない身体になっていため使えなかったのだ。しかたなく僕はテレスが使えるマインにそれを託した。


「…………」


「どうしたんだよ?」


「なんかこうゆう、女の子の秘密を覗いてる感じ、たまんないよな!」


「……早くしてくれ」


 マインは超電伝達板テレパスボードを起動した。


 マインは余計な情報まで見るつもり満々だったようだけど、目的の情報は起動したらすぐに表示されたので余計な心配だった。


 そしてそこに表示されたのは、僕達に宛てた彼女の別れの言葉の伝言だった。



(「………勝手に出て行ってごめんなさい。

けどこれ以上みんなに迷惑はかけられなません お家に帰ります。

さようなら ………」

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