第11話 「真っ赤に覚醒」
ギルドの納品窓口に行きシロギリソウを渡した後、僕は元いた場所に戻った。しかし待ち合わせていたギルドカップの前には誰もまってなかった。
(待っててって言ったのに…… )
仕方がないので、僕はマイン達が行きそうな場所をしらみつぶしに探すことにした。
僕は彼の行きそうな場所には大体の見当がついていた。だからすぐに合流することができると思っていたのだけれど、どうも姿が見当たらない。
二人を探して街中を駆け回った。マインの家にも立ちよった。
しかし二人は見つからない。こうも見つからないと少しイライラしてくるものだ。
こんな気持ちでは見つかるものも見つからないな。一旦、コーヒーでも飲んで、頭を切り替えるか
そう思った僕はある場所へと向かった。
「ガチャリ…… (リンリン)」
レインはカフェド
そしていつも使っている右端の席へと座ると、喫茶店の顔見知りのマスターへコーヒーを注文した。
「マルマル いつものコーヒーをいれてくれよ ……あれ?」
そこで僕は店の中の違和感に気が付いた。いつもより人の気配を多く感じたのだ。
そう思って周りを見渡すといくつかの見知った影が目に入った。
(……あっちにいるのはミーシャじゃないか。マインもカウンターの向こう側にいるし。なんだ、ここにいたのか)
やっと合流できたことで僕は少し安心した。しかし、みんなの様子がどこかおかしいことに気づく。
僕の隣にいた店主のマルマルはさっきからミーシャに説教のような事をしていた。マルマルの向かいにいたミーシャはなにやら俯いてどんよりとした様子だった。
一方でカウンターの向こう側では、マインがコミック本を読んでゲラゲラと笑っていた。
僕は席を立ちマインのところにいった。
「マイン おいッ マ イ ン!!!」
「っははは うあっ、レインッ…… えっとぉ、何?」
マインは読んでいたコミックを近くに置いた。彼はどこかおずおずとしてぎこちない様子をみせた。
「何じゃないだろ 僕はギルドで待っててくれっていったじゃないか」
「あっ、わっりーわりぃ…… (ニシシ」
僕はマインの隣に椅子を持ってきて腰かけた。
気分屋の彼が約束の場所にいないことなんて今までに何度もあった。だからそれは気にならなかった。
しかしだ。
僕はカウンター席で向かい合っていたミーシャとマルマルに目を向けた。僕のいない間に一体何があったんだ? あれはミーシャが怒られてる風にも見えるけど……
「……マルマルはなんでミーシャを叱っているんだ?」
そのときすでに、マインは再びコミックを手に取っていたが、僕の質問には答えてくれた。
「ああ、初見客だからっていつもみたいにマルマルが大金を吹っ掛けてんだよ。 そんなんじゃいつまでも閑古鳥が鳴きっぱなしだってのになっ ははは……」
「ああ……いや、いやいや! 止めないのかよ?!」
その時、うつむいていたミーシャが僕のことにに気づいた。彼女の目はうっすら潤っていた。
「ねえ、この人達おかしい…! 本当にレインのお友達なの?」
ミーシャは駆け寄って来ると僕の背中に隠れた。しかしマルマルはそれでも諦めず、僕の後ろにいるミーシャに対し金銭の催促を続けようとした。
「君ぃ、茶ぁ飲んだんだから、しっかり出すもの出してもらわないと、困るんだよね。50万ゼル」
「えっ 50万?! この店にそんな高価なものあるのか」
僕はマルマルの吹っ掛けている金額の大きさに驚き、つい口に出してしまった。それに気づいてマルマルが僕の方をじろっとにらんだ。
「あ……」
僕はハッとして咄嗟に口を押さえた。
別にミーシャを庇うつもりはなかったのだけど、これだとまるで彼女を庇ったかのように聞こえてしまったかも。
僕のせいでミーシャをカモれなかったとなれば、後でマルマルから嫌味を言われてしまいそうだ。
しかし時すでに遅く、僕の言葉を聞いていたミーシャが嬉しそうな顔をしていたのが見えた。
「ほらぁ! レインも違うって言ってるっ! やっぱり嘘だったんだねっ」
「っいやいや、本当に高級品なんだから」
マルマルはそれでも強気の姿勢を崩そうとしなかったが、ミーシャはふとカウンターテーブルの隙間に挟まっていたある物を見つけた。
「あれ? なんだろ、これ……」
偶然みつけたそれは、ミーシャが飲んだ紅茶の茶葉を購入したときの領収書のようだった。
「えっと……、『ソルゲープ物産のプュスンムグ茶葉 一袋5万ゼル、危険、極めて刺激の強い甘味。人獣種以外の飲用に関して一切の責任を負わず』
これって、私が飲まされたお茶だよね? 」
「ん……一杯100ゼルってとこかな」
僕はそう言うと、ピュスンムグ茶を少しだけすすってみた。
確かに香りは悪くないが、痛いほどの甘さですぐに口の中が何も感じなくなってしまう。正直まずい。
昔、この茶で大量の糖分が取れるのでは無いかと、軍などで
しかし、実際に甘いと感じているのは糖ではなく別の直接脳に作用する成分だと判明したため、今ではその麻薬成分に耐性のある種族が娯楽として使うのみであった。
ミーシャはその紙をカウンターにタンと短い音を立てて置いた。そして冷ややかな目でマルマルを睨んだ。
「ねえ、これどういうことなのっ?」
「…………」
マルマルは口を閉ざした。流石にもう証拠が出てきて、これ以上騙し切れなくなったのかもしれない。
だがマルマルはそんなに素直な奴ではない。
「ププッ 何か勘違いしていないか」
「……何よ」
「この茶を出すように言ったのは、そこの赤毛だぜ? 」
「ぶッ お、おお前それは言わないはずじゃあ……」
そのことを聞くと、ミーシャはゆっくりと首をマインの方へと動かした。その身体は小刻みにプルプルと震えているように見えた。
マインは会話に名前が出た途端に動揺して体が一瞬ビクンと震え、そのとき持っていたコミックも床に落としてしまった。
すぐに拾うとミーシャに自分の表情を悟られないようそれで顔を隠した。
「え? いや、俺、知らないけど…… (ヒューヒュー……)」
マインの声は微妙に裏返っていた。明らかにごまかしているときの態度だ。
「……マインさん」
「ち ちゃいッ!」
「なんでこんな事するの? さっきギルドで謝ってくれたばっかりじゃないッ!」
ミーシャは悲しそうな表情で目の前の男を問い詰めた。それを聞いてマインは親に怒られたときの小さな子供のように俯いていた。
「…………」
マインのその様子が、先ほどまでと打って変わってあまりにもどんよりと落ち込んでいたので、ミーシャは少しかわいそうに思ってしまった。
(少し、言い過ぎたかな?)
そう思った彼女は慰めるつもりで声をかけようとする。
だが、その瞬間。マインはミーシャの顔を見て思いっきり噴き出した。
「ぶッ アハハハハハハハハ……!!!」
「……ふぇ?」
ミーシャには何故、彼が急に笑い出したのか、すぐに分からなかった。
「はは、なんだよその顔! アハハハハ!!! あ~ ごめんごめんッ ふふふ、うけるわ~~ もうしないから! 許して? な!」
そうしてマインはミーシャの肩を軽くポンポンと叩く。
プツン。
マインが笑っている理由が分かったとき、ミーシャの中で何かが限界を超えてしまった。
――ブゥッ ゴオオオオオオオオオオオ!!!
彼女の身体中から炎のように赤く煌めく
たぶん彼女の感情の高ぶりがトリガーのなって?発現したのだと思うけど、それほど怒っているという事なのか??
そのとき彼女が何か喋っているのが聞こえた。
「 コ ロ ス…!!!」
(そうだった……)
マインは彼女の目の前で、今にも襲われそうだった。
何故彼女にこんなに高い
とりあえず辞めさせなくては。けど何て言えばいいか分からなくて、焦ってしまいどこか片言になってしまう。
「え~と、落ち着いてぇ……! 争いは良く無ーい!」
「あっはっはっは レインそれ、キャラがおかしいだろッ」
「五月蠅いよ! 誰のせいだと思ってんだよ…… っ あ!」
カクセイしたミーシャがマインの首を掴んだ。そしてそのまま、片手で宙に持ち上げる。
やばいッ このままじゃ、確実にスプラッタだ!
「マイン! もう精神誠意、謝るしかない!」
「お、おお! そうだな……!」
ミーシャの怒りはもう限界まで達している。ここまできたら部外者のできることはほんのわずかだ。
(キチキチ フシュウーーーー)
ミーシャの口から熱い息が吐き出される。
マインとってこれが最期の返答の機会となることは間違いないだろう。僕はマインを見た。
(うるうる……)
「ごめんなさいの瞳! ぴえん!」
……その直後、マインを掴んでいた腕がぴくりと動き、強い力が入れられた。
「グルルルル……きるゆーー!!!」
その後、どれほどの時が経ったであろうか。何度も繰り返しマインは痛めつけられ、その度に彼は悲痛な叫びを上げていた。
しかししばらく見ているとだんだんと飽きてしまったので、僕とマルマルは街へ食事を買いにいった。
その後、僕らが帰ってきて最初に目に入ったものは、ミーシャが屑切れのように横たわるマインの頭部を打ち砕く瞬間であった。
「あひぃ! いやん、あぎィィ!!」
南無南無。安らかなれ。
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