第24話 失敗と次の策

 次の日も宿の一階で村民からの情報提供を待っている。


「今日も晴れているのに・・・こんな室内に缶詰とは・・・」


 ルークははばかること無くそう呟いた。昨日行った情報提供を呼びかける案についてルークには詳細を知らせていなかったので、ルークから見たらレオが発案したか僕が発案したか不明だった。だから特に大きな不平不満を口にしていなかったわけだが、今日はそれを考えたのが僕であることを察したようであからさまに文句を言っている。


「今日も誰も来そうにないね」


 僕がそう言うとレオは頷いた。


「本当に誰も来ないな。悪い案では無かったように思えたが・・・」

「だったら、僕は村民の気持ちを全く理解できていなかったということだね」

「それは僕も一緒だ」


 正直、僕らは落ち込んでいた。そのため会話の内容は重苦しいものとなる。そんな僕らを見かねたヒューゴが口を開く。


「逆に考えてみてはどうでしょう?もしかしたら本当に提供する内容がないかもしれませんよ」

「提供する内容がない?」

「ええ。メグお嬢様はこの村を通っていない。そう考えると情報がないことは頷けます。嘘をつこうにも1から全てでっち上げるのは難しいですから」


 ヒューゴの言葉に僕とレオは顔を見合わせた。


「それは・・・ありえるのか?この村は屋敷から首都まででは必ず通るんだろ?」


 レオがヒューゴに質問した。


「確かに道を知っているものなら必ずここは通ります。ですが、ここを通っていないということは極めて特殊な道を進んだかあるいは・・・」

「あるいはこの村に付く前に事故なり攫われたりしたってこと?」


 僕の言葉にヒューゴは頷いた。それを聞いて次に口を開いたのはルークだった。


「なーるほど!確かにそれは考えられますな!だったら襲撃されたのはこの街に来る前!」


 ルークは面白くなってきたと言わんばかりの明るい口調でそういった。そのルークに対してレオは冷静な表情で口を開く。


「襲撃されたとは限らない」

「ですが王子。屋敷からこの村までは特に事故も起こりそうにない街道です。しかもしっかりと整備されている一本道。事故や迷子の可能性は極めて低いのではないですか?」


 ルークの言葉には確かに一理あるように見える。


「もし、誘拐されていたなら一刻の猶予もない!今すぐにでも動き出すべきです!」

「しかしルーク。動き出すと言ってもどこに?」

「そんなのは村民に聞けばいい!このへんで活動している山賊を聞き出すのです」


 ルークはすこし興奮気味にそう進言した。よっぽどこの宿で待つのが暇だったのだろう。


「お待ち下さいルーク様。ここはノーランド家お膝元のとも言える村。ここで手荒な真似をするのは・・・」


 ヒューゴは慌ててルークの蛮行を止めようとした。しかし逆効果だった。


「なんだと?もしお嬢様に何かあったらお前はどう責任を取るつもりだ!?執事は黙っていろ!」


 ルークの声には怒りの感情が乗っている。よほど自分より下のものから何かを言われることが嫌いな男なのだろう。


「ルーク。ここは今回私が世話になったノーライア家の領地でヒューゴ殿はその家の執事。控えろ」

「はっ!」


 レオがルークをたしなめ、ルークはそれを了解するように返事をして頭を下げる。だがこめかみ辺りに青筋が立っている。レオの言葉はこの男の自尊心を傷つけたようだ。

 ルークの内心には正直興味ないからどうでもいいが、ヒューゴの指摘は考慮に値するものだと思う。僕はレオに提案してみる。


「レオ。昨日を話してたとおり僕は聞き込みに出かけるよ。ヒューゴの言う通りここの村民は何も知らないかもしれないから、別の角度から探してみる」

「別の角度?」

「うん。こういう村には得てして村民になれない人たちが村の周辺に暮らしている。その人達に聞いてくる」


 それを聞いてヒューゴは驚きと恐怖の表情を浮かべる。


「お坊ちゃま・・・危険です!」

「わかってるけど、情報が来ないと手をこまねいているわけにはいかない」

「たしかにそうですが・・・」


 レオは僕の話を聞いて少し考えた後、ルークの方向を向いて口を開く。


「ルーク。プランツ騎士団からセオに一人護衛を付けてくれ」

「は?」


 ルークにとっては不意の命令だったので素っ頓狂な声を上げた。そして数瞬考えた後やっと理解が把握できたようで、真顔に戻った。


「ご用命なら喜んで。プランツ騎士団の精鋭をつけましょう」


 ルークはそう言うと宿の外へでかけた。レオはルークが出ていったのを確認した後口を開く。


「村の周辺に住んでいる人々というのは、首都で言うとスラムみたいなものか?」

「系統的にはそれに近いけど、首都のスラムほど荒れてない。ここは人数が少ないから。単純に村民権がないとか、過去に罪を犯し排斥されたとか、特殊な仕事に付いているとか」

「それだけ聞くとスラムと同じように聞こえるが」

「村民の罪といっても殺人や強盗は領地の法で裁かれるから、それ以外のルールを守らなかった程度のもの。特殊な仕事は・・まぁはばからずに言うなら娼館で、建物だけがその地区にあるだけで村民が経営していたり働いていたりもする。首都のスラムほど大きな仕切りはないよ」

「ふぅん?あんまりよくは分からないがそこまで大きな危険が無いと思っていいのか?」

「うん。その認識で大丈夫」


 僕がうなずくと横に立っているヒューゴが口を開く。


「危険は少ないですが無いわけではありません。人間がいる以上、殺人や強盗は必ず起きます。身なりの良い子供はまっさきに標的になるでしょう」


 ヒューゴは真剣な顔をしている。僕はそのヒューゴの方を向く。


「大丈夫ですよ。ヒューゴ。騎士団も護衛についてくれるというし」

「あの騎士団は信用できるのですか?」

「それは同じ意見ですが、僕だって魔術は使えます。危険を感じたらすぐに離脱してきます」

「お坊ちゃんの力量を信じていないわけではないですが、標的にされやすいのとされにくいのでは危険度はまるで違います」

「その為に騎士団の人間を連れて行くんです。必ず無事に帰ってくることをお約束します」


 ヒューゴはしかし・・・と食い下がる。それを見ていたレオが口を開く。


「セオ。やれるか?」

「もちろん」

「わかった。ヒューゴ殿。心配はごもっともだが僕はセオのことを信用してみようと思う。現状を考えるとセオの言っている場所を調べないことには事態が進展しないだろう」

「だったら、私もお連れください!」

「こう言ってはなんだが、セオは子供で貴方は初老だろう?一番標的にされやすいペアといえる」

「たしかにそうですが・・・・」


 ヒューゴは険しい顔を浮かべている。


「大丈夫ですよ。すぐ帰ってきます」


 僕がそう言うヒューゴは渋々了承した。そのタイミングでルークが宿に帰ってくる。


「おまたせしました。腕の立つ部下を連れてきました。おい挨拶をしろ」

「どうも・・・アーロンと申します」

「なんだその挨拶は!やる気があるのか!?」

「ひぃ!もちろんあります!」


 ルークに怒鳴られたアーロンは怯えたように叫んだ。アーロンは背も低く背中が曲がり気味のおどおどした青年だった。顔にはそばかすがあり、一般的な騎士のイメージとはかけ離れた印象を受ける。

 なるほど。こう来たか・・・。ルークは僕への嫌がらせとこのアーロンに対するイビリを同時にやるつもりなのか。まったく子供っぽい人間だな。


「僕の名前はセオ。アーロン。よろしくおねがいします」


 そう言って手を差し出して握手をしようとした。アーロンはそれが何か分からなかった様子でキョトンとしていいる。


「ほら!」


 ルークがアーロンの背中をドンと小突く。そうするとアーロンはやっと理解したのか僕の手を取って握手をした。


「じゃあレオ。早速行ってくるよ」

「ああ、わかった。気をつけろよ」

「わかった。じゃあ行こう。アーロン」

「は、はい・・・」


 アーロンはどもりながら頷いて僕の後に続く。

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