第80話 ひとり武蔵野文学賞

入浴剤に書いてある

地名に男は詩情を感じている。

草津

箱根

登別

あと、読めない地名のもの etc.

想像をたくましゅうすれば、

桃源郷にだって行ける。


男は緑色の小袋を手に取った。

地名は書いていない。


開けると、苔のような色をした粉が

苔のような匂いを充満させる。


浴槽にどばーっと撒く。


すると、窓から人がどばーっと、


もう、そこは温泉地である。


夕闇から、枯れたラッパのとともに

女将の唄声が聞こえる。


“ここは~むさしの~。ひと~のち~、あ、ソレソレ♪”


独歩も太宰も、童謡の旗手たちとともに

今度は気持ち良さそうに浸かってる。


“ここは~むさしの~、あ、ソレソレ、あ、ちょんちょん♪”


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る