新生Don't mind 01
皆の期待に背中を押され、メルクリウスはこの度、ライラのパーティ“バティンお掃除隊”のパーティ資産権の過半数を取得。
その後すぐ、元のリーダーだったライラが脱退した為、自動的に全資産権がメルクリウスのものとなった。
書類の上でもバティンお掃除隊から、Don't mindにパーティ名を上書きした。
やはり、この名前が一番しっくり来ると、メルクリウスは感慨深く思った。
ライラの事は残念だった。
しかし、メンバー達の意見を蔑ろにしていた彼女を、誰も、どうする事も出来なかった。
むしろ、悪意があるならまだ説得の余地もあったと、メルクリウスは考える。
ライラのそれは、そもそも、間違いを認識すると言う発想すら無かったのだ、と。
メンバーだって食べていかなければならない。
船頭が道を踏み外した時、新たに頼れる、絆を強固に守ってくれるリーダーを求めたのは無理もない話だった。
メルクリウスにその気は無いのだが、周囲のメンバーがメアリーと自分との間を祝福するムードにあり、実戦でも欠かせないパートナーになって久しかったので、資産権の2割を彼女に与えた。
旧Don't mindにおけるレインの時は、4割も与えたのが間違いの元のだったのだと、メルクリウスは結論付けている。
船頭が多ければ、船は山に登る。
そして、なまじ大きな権限を与えられた事で思い上がりが生まれてしまったのだろう、と。
メアリーは寡黙で、穏やかな気性だ。レインとは正反対ではある。
けれど、欲望は人の目を曇らせる。
仲間を手放しで信じたい。だが、旧パーティが崩壊した時に負った心の傷は、未だ癒え切ってはいなかった。
いつかまた、盲目的なまでに、このサイコーの親友達とバカやって、背中を預けられるようになりたい。
その為には、慌ててはならないとも思った。
まずはライラによって崩れかかったパーティの体制を立て直す。
メルクリウスは、ライラの傘下に入ってすぐに、フリーランスで優れた知己を何人かスカウトしていた。
特に魔術師のエドワール・射手のジェイ兄弟とは家族のように仲が良く、そろそろこの一大スカウトを持ち掛けるべきだとは思っていた。
旧パーティの時は既存メンバーとの兼ね合いで難しかったが、一度パーティが壊れて再編の時期になったからこそ実現したと思えば、悪い事ばかりでは無かった。
それによって、お掃除隊からのメンバーが何人か脱退したのも残念だった。
疎外感を感じるだとか、身内贔屓だとか、若干数名に言われたが、メルクリウスだって万人を等しく愛せる聖人のつもりはなかった。俗欲にまみれた凡人に過ぎないと自覚している。
何人か辞めたのは無念だが、エドワールとジェイと言う最高の戦友が加入した喜びは、何物にも代えがたい。
パーティは遊びではなく、命懸けの戦いだ。
個人の小さな不満全てを聞いて、連携を乱すわけにもいかない。
そりゃあ、ずっと同じ面子でやっていければ理想的だ。
けれどメルクリウスは、理想を追究しながらも、現実を知っている。
パーティメンバーとは、どうしても“流動的”なものなのだ。
しかしながら、今回のパーティをまとめるのには正直なところ苦戦していた。
何だかんだで、旧パーティでは、レインと言う存在が皆を引き締めてくれていたのだと思い知らされた。
メアリーのパーティでの立ち位置、自分との関係も安定したし、そろそろ戻ってきて貰うのも手かも知れなかった。
結果的に、レインと排他的な関係にあったライラが居なくなったのだから、誠心誠意懇願すれば、きっと解ってくれるだろう。
そして、探偵のリチャード・プリチャードが接触して来た。
彼を雇う金も、結構な負担になってきた。
パーティの誰かに“協力”して貰おうと、メルクリウスは思った。
何せ、今調べさせている事は、パーティの絆と言う根幹に関わる問題なのだ。
利子などと野暮な事は言わずに助けてくれる筈だ。
「調査対象は執聖騎士団に入団。順当に活躍しているようだ。
既にAランクの殺害実績を打ち立てている」
「本当かい? にわかに信じられないな」
自分と、パーティそのものを否定して去った者が新天地で上手くやっているなど、メルクリウスには想像も付かなかった。
どちらかと言えば、やはりオレが正しかったのだ、と確認する為に雇った探偵なのだが。
そこでリチャードは、報告書を手渡してきた。
「もう一つ、この情報はオマケにしておくが。
執聖騎士団で、新たな戦術の確立が見込まれている」
バックアップ要員を大聖堂に置き、ごく少数の人員で魔物と戦う、新たなパーティ様式。
これが本格的に実用化されれば、魔物戦の形は大きく変革するだろうと、リチャードは考えた。
これまでのように、先発隊が敵の出方を探りながら、長期で戦う必要も無くなるかも知れない。
「そりゃ、スゴいな。さすがネベロン。前々から変わった挑戦をたくさんしてるよね」
「……そうだな」
興味の無い話題を適当に受け流す魂胆が見え透いている。
リチャードは、これをもって依頼主の底を見切った。
賢いパーティリーダーであれば、多少なりとも危機感を覚えるべき話だ。
大手ならともかくDon't mimd程度の規模であればおまんま食い上げ、と言う事も考えられた。
このタダでくれてやった情報こそ、メルクリウスの要求してきた本命の調査よりもヤバい橋を渡って手に入れたものだ。
あの准将の事だから、リチャードその人が必死で掴んだこの情報すらも、ただの撒き餌である可能性が高かった。
そんな世界がある事を夢想だにせず、自分が謙虚で賢いと思い込んでいるお坊ちゃんの、何と滑稽で、幸福な事か。
メルクリウスからは、もう少し楽をして稼がせて貰えそうだ。
同時に、後学の為の人間観察も捗ると言うものだ。
メルクリウスのようなタイプは、リチャードからすれば世の中に掃いて捨てるほど居た。
だが、馬鹿を貫いてなお生き延びるのは一種の才能でもある。
そして大抵、それが行き着く先には、ワクワクとドキドキが満載だったりするものだ。
これだから、この仕事はやめられない。
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