第20章―消せない罪―19

「兄さん私だ。ラファエルだ。このドアを開けてくれ」


 ドアをノックすると返事は返って来なかった。ラファエルはそこでため息をつくと、強引に扉を開けて中へと入った。アールマティは一緒に部屋の中には入らずに、彼らを外から見届けた。


 部屋の中は薄暗かった。白い長いカーテンは閉ざされていて、足下には割れた花瓶や割れた鏡の破片が散らばっていた。2人は異様な雰囲気の中を歩くとその中央に誰かが剣を持ちながら立ち尽くしていた。


 よく見るとそれはウリエルだった。彼はブツブツと、独り言を呟きながら、目の前の石像を剣で叩き割った。そこにはいつもの冷静な彼がいなかった。凛とした凛々しさもなく、あるのは取り乱した後の姿だった。


 長い髪を結んでいたリボンはほどけ、そのまま髪は下に垂れ下がっていた。そして、いつもは身に付けている手袋さえもしないまま、彼は剣を素手で握っていた。


 憔悴しきっているような表情で、彼はそこに立ち尽くしていた。ラファエルが後ろから声をかけるとウリエルはゆっくりと後ろを振り返った。目の前にラファエルがいることがわかるとウリエルは持っていた剣を床に落として、そのまま彼の方へと手を差しのべて歩いた。


「ラファエルお前なのか……?」


「そうだよ兄さん、僕だ…――」


「ううっ…ラファエル……!!」


 ウリエルは両手を広げたまま、抱きついた。憔悴した兄の顔を間近で見ると、ラファエルは少し動揺した。


「お前が宮殿から居なくなったと聞いて、僕は心配したんだぞ…! 兄さんがどれだけお前のことを大切にしているのかわからないのか…!?」


「兄さん…――」


 ウリエルは弟のラファエルを腕の中に抱き締めると、震えた声で話した。


「大事な弟に何かあったら僕は耐えられない…――! それを知っていて、お前は兄さんを困らすのかっ!!」


「知っているよ。兄さんが私達兄弟をどれだけ大切にして思ってくれているかを……。兄さん心配をかけてすまなかった。反省してるよ」


「っ…ラファエル――」


 ウリエルは余程、心配したのか。弟の顔に触れると、顔を撫でて頭を撫でた。


「でも、お前が無事に戻って来てくれて安心した。もしもお前の身に何かあったら、兄さんは誰であろうと絶対に許さないからね…」


「兄さん……」


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