第20章―消せない罪―11

『うぐっ…! くっ、屍食鬼グール如きが…――!』


 親玉のグールはラジエルを大木に叩きつけると、ニヤリと不気味に笑った。闇の夜空に満月は不気味に輝いた。その月の満ち欠けが彼らに力を与えていた。ラファエルは結界が張り巡らせた魔法陣の中でラジエルの窮地を静観した。



「月の力が奴らに影響を与えているのか、ならば…!」



 ラジエルは魔導書を片手に再び呪文を唱えた。すると、背後から3匹のグール達が襲いかかった。グールはラジエルから魔導書を奪った。そしたら、奪われた魔導書は地面に投げ捨てられた。


「くっ…!」


『ラジエルっ…!!』


「いけませんラファエル様、その魔法陣から外に出てはなりません!」


「ギャヒャヒャヒャヒャッ! よくぞやったお前達! さあ、そこの天使の血を全部喰らい、肉を全部喰らうのだ!」


 親玉の命令を聞いたグール達は一斉にラジエルに襲いかかった。


『ギェエエエ――ッッ!!』


 グール達はハイエナのように襲いかかった。そして、手足に噛みつくと容赦なく牙を向けて噛みついた。


「ぐわぁああああ――っ!!」


『ラ、ラジエルっ…!!』


 目の前でラジエルが襲われると彼はそこで動揺した。怪物達は彼の手足に噛みついた。そして、その生き血を吸いながら獣のように体中を次々に噛み千切った。


 それは目を覆う様な悲惨な光景だった。辺りには血飛沫が飛び散り、グール達は彼の血と肉を貪った。静寂に沈む森の中で彼の悲鳴と呻き声が響いた。


 ラファエルは唖然となって凍りつき、戦慄が走る光景に思わず言葉を失った。ハイエナのグール達にラジエルが喰われていく様子を見て、ラファエルは唖然となって見つめた。



――ラジエルが喰われていく。



 彼の瞳にはその姿が映った。様々な思いが駆け巡ると同時に、彼の脳裏にはラジエルとの記憶が蘇った。遠い記憶を思い出すとラファエルは立ち尽くしたまま、身体を震わせた。


「なっ、なんてことだ…!? バカな、ラジエル…! 私の…――!」


 喰われていく彼を前に、絶句したまま立ち尽くした。グール達は彼の血を浴びながら、奇妙な声を上げながら雄叫びを上げた。おぞましい姿をさらす怪物に良心などない。あるのは残酷なまでの本能だった。グール達は、彼の手足をもぎ取り身体に食らいついた。もう彼が生きているのかさえもわからない状態だった。ラファエルは彼とのさっきの出来事を不意に思い出した。あの時、肩に触れた手の温もり。もうそれは全て「幻」となった。


『ラジエルっつ!!』


 両肩を抱き締めるとラファエルは悲しみに曇った声で彼の名前を叫んだ。グールの親玉は、その無惨な光景を見ながらニヤニヤしながら笑った。


「もう良いだろ。さあ、最後はワシがその生き血を全部吸いとってやる! お前らそこを退け!」


 親玉の命令に周りにいたグール達は死体の傍から一斉に離れた。 するとそこにはラジエルの死体ではなく、別の死体が地面に横たわっていた。


『なっ、なんだコレは…――!?』

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