第14章―魂の在りか―5

 

「そんなことはありませんよ。ローディンの国民にとって、貴女は絶対なくてはならない存在なのですから――。貴女は未来の女王になるお方です。もっと胸を張ってもよろしいかと思います」


「アレン…――。ええ、そうね。私はいつかは、この国の女王になるのね」


「ええ、そうです」


 アレンはそう答えると手綱を持って前を見た。ミリアリアは彼の横顔を見つめながら、切なさを込み上げた。それは生まれながらに女王としての運命を背負わなくてはならない少女の心の叫び声だった。



 私、本当は女王になんてなりたくない。でも、そんなことを言ったらお父様や皆を困らすわね。私の未来に希望はあるのかしら? その時、アレンは私の隣にいてくれるのかしら? それとも違う人が私の隣にいるのかしら――?


 私はアレンが好き…――。彼の青い瞳も、彼の長い髪の色も、彼の優しい声も全部。たった一度の恋を貴方としたいの。それで燃え尽きても、私はいい。この恋に後悔はしないわ。大好きよ、アレン。大好き…――。私はずっと貴方が好きだった。アレンは私の気持ちに気づいてくれてるのかしら……? 私は貴方の前では普通の女の子でいたいだけなの。このまま何処か誰も知らない場所に貴方と一緒に行けたらいいのに。教えてアレン、貴方の気持ちはどこにあるの――?


 ミリアリアは彼の近くで胸がときめくと、それは愛しさと切なさが一つに混ざり合うような淡い恋心を彼に抱いた。首に回した両手をギュッとさせると、少女は大好きな人の腕の中で愛を囁いたのだった。小さく呟いた言葉は風の音にかき消された。彼にはその呟きは聞こえなかった。


「姫様、今何かいいましたか?」


「ええ、言ったわ……。でも、聞こえなかったみたいね?」


 ミリアリアは、彼の横顔を見ながら答えた。


「アレン離さないでね。離してしまったら、馬から落ちてしまうわ」


「ええ、わかっています。しっかりと私に掴まってて下さい――」


「アレン……」


 ミリアリアは彼の首にしがみつくと小さく名前を呼んだ。少女の心は愛しさと切なさの間で揺れた。いつか夢から覚めても、この恋が永遠だったと信じたい。その想いだけが彼女にとって、嘘も偽りもない本当の気持ちだった。少女は自分に課せられた運命の中で、もがきながらその答えを探そうとしていた。馬を走らせて間もなく先頭に到着すると、アレンはシュナイゼルに声をかけた。


「シュナイゼル団長!」


「おお、ついに来たか。遅かったなアレン。私は待ちくたびれたぞ?」


「すみません。ちょっと抜け出せなかったもので……」


「ほう、それは女か? 確かにお前は女にモテるからな。まっ、女に言い寄られても無理もないか。そうだな。槍騎将のアムリアはどうだ? 彼女はきみにゾッコンとの噂があるが、本当のところはどうなんだ?」


「アムリアですか? はははっ。ご冗談を――」


 シュナイゼルの冗談にアレンは苦笑いしながら否定した。


「彼女はその……男には興味がないそうです。彼女は女性にしか興味がないそうです。もしそんな事を彼女に言ったら、私が槍で串刺しにされますよ…――!」


「ガッハッハッハッハッハッ! アムリアはそうだったのか! そうかそうか、なるほど! それは確かにまずいな!?」


「他人事だと思って笑わないで下さい……!」


 シュナイゼルが豪快に笑うと、彼の前にいたミリアリアが口を挟んだ。


「そうよ、そんなことは私が絶対に認めないわ!! アレンは私だけのものなんだから!!」


「ん?」


「ミ、ミリアリア様……!」


「アレンは黙ってなさい!!」


「しっ、しかし…――!」


 シュナイゼルは目線を下におろすと、そこで小さな少女に気がついた。



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