第11章―少年が見たのは―7 

 体を揺すっても、少年が目覚めることはなかった。体からは力が抜けていて、手はぶらりと下にさがっていた。そこにいた誰もが少年の死にやり場のない思いを募らせた。ハルバートは悲しみに暮れる彼に、そっと声をかけた。



「もうよせリーゼルバーグ。坊主はもう……お前だって解ってるだろ…――?」


 ハルバートは後ろから声をかけると、彼は悲しみに暮れながら言い返した。


「お前がもたもたしたばかりにユングは助からなかった……! もっと早く処置をしていれば…――!」


「おっ、俺だって坊主を必死に救おうとしたさ……! でもいくらやっても無理だった! それなのに俺を責めるのかよ!?」


 ハルバートはついムキになると咄嗟に言い返した。悲しみと沈黙がはりつめる中、彼らは少年の死にそれぞれのおもいを馳せた。リーゼルバーグは瞳を閉じて心痛な表情で呟いた。


「そうだな……お前を責めるのは間違っている。責めるならそれはきっと私だ。自分の判断が間違っていた。この子を救えるのはお前ではなく、私だった…――!」


 リーゼルバーグは、少年の亡骸を両腕で抱き締めると不意に呟いた。


「――まだ命が潰えたとは限らない。まだそこにあるなら、ユングは救えるかもしれない」


「何だって……?」


「我が不屈の竜の魂をこの子に分け与えよう。それでこの子が目覚めるなら私は構わん…――!」


「リ、リーゼルバーグ……! あんた本気で言ってるのか……!?」


「ああ……!」


 ハルバートはその言葉に突然、耳を疑った。


「ハルバート隊長、竜の魂とは一体何ですか……!?」


 部下の一人が不意に尋ねてくると、彼はそこで話した。


「優れた竜の使い手である、聖竜騎士のみに与えられた神秘の力。竜の魂――。一度死んだ者を奇跡の力で復活させると言われる。古により伝わる神秘の力だ。普通の竜騎士でさえ到底そこまで辿り着けない。だが、優れた素質と竜に選ばれた者はその力を会得することが出来ると言われている……! つまり、リーゼルバーグはそこまでの力量に達しているってことだ…――!」


 彼その言葉に部下達は、一斉に驚いて唖然となった。


「俺ですらまだ会得していないのに…――!」


 不意にそう呟くと、悔しげに自分の唇を噛みしめた。


「それにこの力は人から与えられるものではない。竜の魂を会得するには自身の竜との絆が大きく関係しているんだ。竜が自分の命を主君に捧げる事で、それが竜と人の絆になる。竜は屈強な生き物だ。その生命力は人の生命力を遥かに凌ぐと呼ばれている。つまりその力を会得した者は、不死の力を手に入れたと言ってもいい。死からの復活こそが、この力の大きな役割を持つんだ……!」


「つ、つまり……! ユングは生き返るってことですか…――!?」


「ああ、事実上はな。だが、本当に生き返るかは、坊主の魂次第だ。魂が完全にこの世から消えれば蘇ることもない。だが、坊主の魂がこの世にまだ、留まっていればきっと蘇るはずだ!」


 ハルバートは部下達にそのことを話すと、リーゼルバーグに目を向けた。


「――お前、本気でやるのか? その力を半分与えると言うことは、もしもの時どうするんだ?」


 その質問にリーゼルバーグは、真っ直ぐに答えた。


「昔の私だったらそれを他人に分け与えるか迷うが、だが今の私は、それを迷うこともないだろう。何より私は、この子を救いたい。それだけが私の望みであり希望だ」


「リーゼルバーグ、お前…――!?」


 そこで彼の心の奥に隠された過去を見透かすと、何も言わずに黙った。


「この坊主にそこまでの価値があるのかは、俺にはわからない。だが、アンタのそのやり方を否定するつもりもない。やりたきゃ、やれよ。それでアンタの気が済むなら」


 ハルバートは彼にそう告げると、背中を向けた。リーゼルバーグは自身の剣を前に掲げるとそこで祈りを捧げて唱えた。すると、彼の全身から蒼炎の光が突如放たれた。

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