第9章―ダモクレスの岬―13

 

 大空では竜と幻影の火の鳥との力と力のぶつかり合いがより一層、激しさを増した。深々と降る雪の中で、静寂を切り裂く様に互いの力をぶつけ合った。火の鳥は竜が口から吐いた氷結ブレスを全身に浴びると、一瞬だけ動きを封じ込められた。しかし、火の鳥は体の奥から炎を燃やすと、瞬く間に全身の氷を溶かして呪縛をふりほどいた。


「くっ……! 幻影とは言え、さすが火の精霊の力だ! 氷結ブレスを浴びても微動だにせぬとは……! だがしかし、我が竜を侮るではない! これより強い氷結ブレスを浴びてみるがよい! リューケリオン、氷結ブリザード・ブレスを仕掛けるのだ!」


 リーゼルバーグが大きな声で命令をすると、竜は大気を揺らす程の力強い雄叫びをあげて息を吸い込んだ。


「我が氷竜は氷の使い手! 火の力など恐れぬ! 水の精霊の加護を得た我らに火の技など通用するはずなかろう! ましてや、それが幻影の力なら尚更だ! 幻影の火の鳥よ、我が氷竜の力を喰らがいい!」


 竜は翼を大きく広げると氷結ブリザード・ブレスを火の鳥に向かって勢い良く吐いた。その冷たい氷の息は、周りを氷点下までに一気に気温を下げると、空気はやがて凍てつく程の寒さに変わった。火の鳥の周りを取り囲むように暴風雪が襲いかかるとたちまち触れたところからみるみる氷った。そして、火の鳥を氷の柱の中に一気に封じ込めたのだった。リーゼルバーグは剣を構えると、剣に秘められている力を解放した。火の鳥は覆われている氷の柱を炎の力で溶かすと、氷の柱の中から脱出した。


「敵ながらに見事なやつだ。だがしかし、この闘いは私が勝たせてもらう!」


 戦況を極めた戦いは、互いに一歩も引かずに、より激しく力をぶつけあった。火の鳥は氷の柱から脱出すると、天へと高く舞い上がってそこで大きく雄叫びをあげた。そして、頭上の空から火の雨を降らしてきた。それは火の鳥が使う技、フレア・ボールと呼ばれる大技だった。


「いかん! リューケリオン、今すぐ氷結界をはるのだ!」


 リーゼルバーグが咄嗟に命令をすると竜は全身を覆うように氷の結界を即座に張り巡らせた。氷で出来た結界をはると同時に、頭上から火の雨が容赦なく降り注いだ。その高温の炎は、周りを焼き尽くす程の強烈な威力だった。


「くっ、幻影ながらに見事な技だ……! 氷結界をはらなくては、ひとたまりもない! 早くあやつを討たなくては…――!」


 彼は火の鳥の攻撃を素早く回避しつつも、相手の隙を伺いながらそこで一瞬のチャンスを待った。


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