15,暴走
光が落ちた場所に到着すると、周囲の木々はなぎ倒され、その中心にはすり
思い当たる人物はひとりしかいない。しかし、マゼンタたちはそうだと思うことができなかった。そこにいたのは、12歳の少年ではなかった。体は
「……あれが、もしかしてシアンくん?」
「もしかせんでも、そうじゃろうな……。」
「うそ……。」
「う、うう……。」
シアンはうめきながら体を震わせていた。白い肌のせいで、まるで生きた彫刻のようだった。
さらに近づいてマゼンタが変身したシアンに問いかける。
「……シアンくん?」
「う、う……。」
「……大丈夫?」
マゼンタは苦しんでいるシアンを心配してかけ寄ろうとするが、それをバン爺が制した。
「用心した方がええ、どうもあの子は理性を保っとるとは──」
「うがぁあああああああっ!!」
シアンが顔を上げるとともに、バン爺たちに
「いかんっ!」
バン爺は片足で地面をふみ鳴らす。
すると土壁が地面から
土壁は役目を終えるとボロボロと崩壊した。
「え、な、何でシアンくんがあたしたちを!?」
「……分かっとらんのじゃろう」
「分かってないって……ん?」
マゼンタが異変に気づいて空を見上げる。空には雷雲が広がっていた。
「さっきまで雲ひとつなかったのに……。」
「なんじゃと……。」
「うがぁあああああああああああああ!」
再度のシアンの
「きゃあああああ!」
マゼンタは目と耳への衝撃で、ダメージはなかったものの倒れてうずくまった。
「あ、ありえん。一体いくつの術式を使っておるんじゃ? こりゃあ人間の
体が筋肉の
空に昇るシアンをただ
「……あかん、こりゃああかんぞ」
バン爺がそうつぶやくとともに、シアンが激しく発光し、その体から無数の光球が発射された。
「間に合ってくれ!」
バン爺はマゼンタの体をつかむと術式を展開した。
まるで真下の地面が液化したかのように、ふたりの体はするりと地中の奥深くへと沈み込んでいった。
彼らの真上では、おそらくシアンの放った光球が作り出したのだろう、破壊の
暗い地中の中、マゼンタは恐怖のあまり、バン爺に抱きついて離れようとしなかった。バン爺もこの状態ではもはや神に祈るしかないと、ひたすら目を閉じ身をすくめていた。
しばらく地中深くで身をひそめていると、破壊音がぴたりとやんだ。
「……終わった?」
マゼンタが顔を上げる。
「何とも言えん……。」
このままさらに時間を置きたかったが、そういうわけにもいかなかった。マゼンタの村の
「なんということじゃ……。」
だが、
辺り一面が炎に包まれ、木々はなぎ倒されていた。そしてそんな業火の中、平然と立ち尽くすシアンの姿があった。
「シアンくん!」
マゼンタはシアンに近づこうとするが、強い炎と豪風に阻まれる。
「シアンくんいったいどうしちゃったの!? バン爺、村の皆は!?」
「あそこまでは火の手も煙も上がっておらん、まだ大丈夫じゃろう!」
「わ、分かったっ。……シアンくんっ! いい加減にしなよ! あなた、この国ごとぶっ潰すつもり!?」
「う、う、う……。」
マゼンタの言葉に反応したのか、シアンは両手で頭を抱え始めた。
「……シアンくん?」
「う、う、うおおおおおおッ!」
シアンが叫ぶと、両目が輝き光線が放たれた。
光線はふたりの隣の山を形を変えるほどに吹き飛ばした。
「ちょ……。」
ふたりは山を見て呆然とする。
「マゼンタ……逃げた方がええかもしれん」
「だって……あの子をこのままほっとけないよ! それに、あたし達が逃げたら村がどうなるか……。」
たとえ自分の力が及ばないと分かっていも、マゼンタは何もしないわけにもいかなかった。
「お願いシアンくん! あたしの声が聞こえないの!?」
その声に気づいたのか、シアンの顔がマゼンタの方を向いた。
「シアンくん! あたしよ! マゼンタ! 気づいて!」
シアンの瞳が再び強烈な光を放ち始めた。あの光線だ。
「……シアンくん」
強烈な光の前に、マゼンタは目をつぶった。
死を覚悟していたマゼンタ、しかしその光は直撃することはなかった。
目を開けると、彼女の前にはバン爺が立っていた。
「……バン爺?」
一体どうやったのか、周囲には光線が何かを破壊した
「……マゼンタや」
「……なに?」
「ここはワシが
「じいさんをひとり残して置いてけってのっ?」
「……五分五分じゃ」
「え? 何が?」
「あの子をおさえられる確率がじゃよ。じゃが、お前さんがおったらそれが出来ん。はよぉ逃げえ」
とつぜんの情報料にマゼンタは混乱する。破壊光線がそれたこと、バン爺が五分五分でおさええられると
数歩あとずさりすると、マゼンタは
「バン爺、生きて戻ってきたら、めちゃサービスしちゃう!」
「みなぎるのぅ」
バン爺は笑っていた。不思議な笑顔だった。後年、マゼンタがその老人の笑顔を、生涯忘れることがないだろうと
マゼンタが去ったことを確認すると、バン爺はゆっくりとシアンの方へ歩き出した。そんなバン爺を、シアンが雷鳴のような咆哮で
「……まったく、神さんはいつもワシに身に余る仕事を押しつけよる」
バン爺は構えた。
「来なさいシアン、反抗期にしてはちぃと行き過ぎとるぞ」
シアンが大口を開ける。のどの奥が緑色の光を放ち始めた。オドの気配から、先ほどの破壊光線より
(あ、無理じゃったかもしれん。)
ふと、バン爺は死を予感した。突然の死神のささやきは、そよ風のように
(まぁ、とっくに捨てた命じゃしのう……。)
バン爺は術式を展開する。せめてマゼンタたちに被害が及ばないよう、命を賭けた一時しのぎのために。
「がるるるるるるぁあああああ!」
シアンが吠える。膨張するあまり筋肉が光っていた。
「来いやぁ小僧!」
バン爺が
決死の勝負、バン爺の心臓の
「う、……ありゃ?」
しかし、シアンの攻撃は放たれることはなかった。体が一瞬はじけたように光ると、光の
「……シアン?」
バン爺が恐る恐る近寄る。シアンの体は元に戻っていた。そこにいるのはバン爺の見知った12歳の美少年だった。
バン爺はシアンを抱き上げる。暴れる前もその最中も、悪夢にうなされ続けていたような少年は、今では安らかに寝息を立てて眠っていた。
「なんじゃったんじゃ……?」
バン爺はシアンの胸に手を当てた心臓は正常に動いている。
「……むぅ?」
バン爺がオドのを探っていると、シアンの胸の奥が
「自分の子供に何ちゅうことをしおったんじゃ、あの男は……。」
バン爺はシアンを背負うと、村へ戻っていった。
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