婚約祝いの場にて

【い-14】文学フリマ京都_筑紫榛名

(一)

「お父さん、あなたは、今、どこにいますか?」

 小松美代は砂浜で海を見つめながら、そう呟いた。

 遠くには養殖場や、船の往来が見えていた。

 右手からやってきた小舟が左手の方へ去り、手前の海岸線に消えていくと「ミヨさん」と声をかけられた。

 美代が振り向くと小松有美恵が立っていた。

「なにかあったんですか?」

 息を切らせながら有美恵が言うと、美代は「ううん」と首を振った。

「ゆみえさんこそ、どうかしたの?」

「ミヨさんの携帯が鳴っていましたよ」

「本当?」

「ごめんなさい、勝手に持ってくるわけにもいかないと思って、置いてきちゃいました」

「ううん、いいの。教えてくれてありがとう」

 そう言うと、美代は砂浜を陸地に向かって走りだした。有美恵もその後に続いた。


(続く)

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