第二部 終章「女神と理と使命」その②



 勇者は神になったけど、その姿は老人のままのはず。元の若い姿になったなんて問題のどこでも言ってない。

 で、黄金のエリクサーをガブガブ飲んだのなら若返ったはず。いや、ただ若返っただけじゃない、いっぱい飲んだ、というのが引っ掛けだ。若返りすぎて赤ん坊まで戻ってしまう、っていうのが答えなんじゃないの。

 まさか、無に帰り消滅する、なんてバッドエンドとか……マリウスだけにあるかも。正解させる気ないんだから、ぶっ飛んだ答えのはずだ。

 ケイティの時は死んでいる状態からだから、一本全部使っても若返りが途中で止まったのかも。もしも生きている時に大量に飲んだら、赤ん坊までいったかもしれない。ただこれはクイズだから答えは真実じゃなくてもいい。きっとその先が正解だと思う。普通に答えちゃだめだ。

 よし決めた、勝負だマリウス‼

「赤ん坊まで若返って更に通り過ぎて無になり、その魂は転生して人生をやり直した」

 って俺、無茶苦茶なこと言ってるな。これは正解なわけないか。

「…………」

 だから沈黙長いんだよ。こっちは間違ってて当然だし、それほどドキドキしてねぇし。

「答えは本当にそれでいいんですか?」

 おいおい、ファイナルアンサー的なの挟んできたよ。じらさずさっさと進めろっての。

「それでいいです」

「本当に?」

「いいですよ‼」

「本当に本当にいいんですか?」

「うっせぇわっ‼ いいって言ってんだろ」

「…………」

 またしても沈黙。引っ張るの好きだなぁ、とか思ってたら、いきなりドラムロールの効果音がド派手にしてきた。

「最終問題だから音付きかよ」

 と声に出した瞬間、ピコピコピコーンと高らかに正解音が鳴り響く。

「正解‼」

「よっしゃー‼ ってマジか⁉」

 やってやったぜ。ざまぁみろ。本当に当たるとは思ってなかったよ。

 後ろではまた三人が拍手喝采。これは自画自賛していいぐらいの奇跡の正解だ。これまでのカオスな冒険が役に立った。

 勇者タケヒコの息子の俺もマリウスとは色んな意味で相性良いのかも。

「ってコラコラコラ、なぁーんで正解すんだよコンチクショウが。空気読めよな空気。てか天才かお前は、いやもう変態だ変態。普通は分かるわけないからな」

 ははっ、スゲー悔しがってるよ。

「もう好きなだけゲート使ってよし。でもここだけだからな。次は絶対に負けんっ‼」

 もうクイズはお腹いっぱいですよマリウスさん。

 しかし正解が出た時のために、こんな言葉まで録音してあったのか。普通に会話しているみたいだ。とりあえず天才が暇だとロクなことしないのは間違いない。

 でも答えからしてマリウスは若返りの効果を知ってやがったな。そんなチート薬には取説つけとけバカヤローが。

 恐ろしいのはいま俺が言った答えが現実にあるかもしれないことだ。黄金のエリクサーで無になるまで遡ったら本当に転生するかも。

 あまりにもバカげているけど、ありそうだと思わせるマリウスが凄い。これは思っているより恐ろしい秘薬だ。分量に気を付けないと危なすぎて使えない。

「ご主人様、また何か召喚されるのにゃ」

 クリスが言った時には地面に現れた魔法陣は光の柱を上げていた。

 魔法陣が消えてその場に残ったのは、家庭用ティッシュ箱程度の小さな赤い宝箱だった。

 箱の大きさ的にランクの高い魔石か宝石の可能性がある。開けるのが楽しみだ。最終問題だしご褒美の素敵なアイテムとやらは間違いなくスーパーレア以上のはずだ。

「クリスさん、ゆっくりと、いや、ここは一気に開けちゃいなさい」

「はいにゃー」

 クリスは宝箱を手に取って元気に言った。そしてバカンっ、と音がするぐらい勢い良く開けた。

「残念っ‼」

 箱を開けた瞬間、マリウスの声が箱の中から大きく鳴り響いた。

「なっ……なに?」

「にゃん? なにも入ってないにゃ」

「ふははははははっ、バカめ、引っかかったな。こんな難しい問題を答えてしまう貴様のような変態にやるご褒美はない」

 更に箱の中からそのセリフが発せられた。

 こ、言葉がすぐに出てこない。呆れて物も言えず開いた口が塞がらないとはこのことか。

 マリウスめ、初めから無理だと踏んでアイテム用意してなかったな。なにしてくれてんだよ。俺の時間とドキドキ返せっての。

「なおこの箱は三秒後に大爆発し、自動的に消滅する。では、さらばだ」

 ってそんなお約束いらねぇー‼

 俺はクリスから素早く宝箱を取り上げ空高くへ投げた。

 超人パワーを制御する暇がなかったので箱は凄いスピードで上空へ飛んでいき、あっという間に見えなくなるほど小さくなった。

「あれ? なにもないぞ……」

 程なくして森の中に落ちた宝箱は三秒すぎても爆発しない。

「あるじ様、きっと騙されたのだと思います。賢者様はそういうイタズラが好きな方なので」

「ははっ……そ、そう」

 やられたぁ、爆発すると思って焦ってしまった。すっげぇムカつく。

「あの、ご主人、扉が開いています」

 スカーレットは俺の顔色を窺いながら恐る恐る言った。俺って今どんな顔してたんだろう。

 確認すると扉が開きゲートが使えるようになっている。

 やっとだよ。なんだか精神的にすごーく疲れた。向こうに行って少し休もうかな。

 光で満ちている扉の中に入ると、秘密のアジトがある巨大一枚岩の上の遺跡へと瞬間移動した。

 出口の扉は開かれており、光に満ちた空間から外に出ると程なくして扉はまた石化した。

 使ってみて改めて分かる、ゲートの便利さが。歩けば50日の距離が一瞬だもの。時間の節約にもなるし助かる。この世界ではこういう移動魔法が色々なところで使われている。本当に凄い移動や運搬システムだ。

 まあマリウスは基本的に他の人に使わせる気ないけどな。誰も問題解けませんからね。その前に問題にすら辿り着けないっての。

 今日は朝から色々あって疲れたけど、早く街に帰って鍛冶屋にアイテム持って行って武具製造の相談がしたい。だから日は暮れてないし休憩せず先に進むことにする。

 てか疲れてるとしたら超絶バトルしたアイリスさんだけですけどね。俺はただ見てただけだし、当分はこんな感じで出番はなさそうだ。例え相手が魔王でもな。

 で、それから日が暮れるまで歩き現在は森の中に居る。

 クリスが自然とリーダーとなりキャンプの準備を手早く終わらせた。この時ばかりはスカーレットも逆らわない。クリスの女子力を認めているようだ。

 食材も調理道具も万全なので、森の中でも美味しいご飯を食べれた。その後は皆でお茶を飲んでゆっくりと過ごす。

 こういう時間にアイリスの昔話を聞いたりするのは凄く楽しい。若い頃の勇者だった父さんの話が聞けるからだ。

 まあ相変わらずお調子者でマリウスと二人でバカばっかりやってたみたいだけど。

 ただ話の中の父さんは本当に異世界を楽しんでいる。マリウスの他にも気の合う仲間が何人も居たみたいだしね。

 最終的にはドワーフっ娘に手を出した変態だけども。大学生のノリで無茶しやがる。そういう鬼畜なところは息子として是非とも見習いたい。

 就寝する時には三人に、見張り番は交替でやってちゃんと寝るように指示した。

 半獣人の二人は二、三日寝なくても平気だから指示しないと朝まで番をしてしまう。せっかくテントや寝袋があるのに使わないともったいない。

 その日は肉体的に疲れてないのに、目を閉じると不思議とすぐに眠りについた。

 それからどれぐらいの時間寝ているのか分からないが、俺はいま夢と理解できる夢を見ていた。

 その場はまるで宇宙空間のようで夥しい数の星や銀河が煌めいている。なんとも神秘的で美しい光景の中に、今日の服装そのままの俺がフワフワと浮いている。

 いったいどういう夢なんだろこれは。と思っていたら、どこからともなく声が聞こえてきた。

 その声は大人の女性の声で、とても美しくて力強くもあり、穏やかな口調だった。

「私は女神エルディアナ、この世界を統治統制する者です」

「えっ⁉ ……これって夢……だよね」

「私があなたの夢の中、つまり精神世界に入り込んでいるのです」

「つまり夢だけど夢じゃないってことか」

「そういうことです」

 これってマジなやつじゃん。超ヤバい状況だ。

「当然だけど、何か大切な用事があるから出てきたんですよね」

 リアルガチにヤベーよ。俺はこの世界に勝手に入り込んでる不正入国者だもん、捕まって罰を受けることになるのかも。

 いつかこうなる事を恐れてたけど、最悪の死刑とかは無い方向でお願いします。できれば元の世界へ強制送還で許してほしい。

「はい、大切な話があります。心して聞いてください」

 怖いよぉ〜、いま目が覚めたら逃げられるんだろうか。だったら誰かミラクルで起こしてくれ。少しぐらい痛くてもいいから。

「あの、話の前に一つ質問、女神様の姿は見れないの?」

「今は声だけですが、あなたとはいつかきっと、直接会うことになるでしょう」

「そ、そうですか」

 女神様を見れるなんて滅多にないだろうし残念だな。とか思ってる場合じゃない。いつか会うことになるって、罰を受ける時なんじゃないの。

「まずはこの世界の覆せないことわりと、あなたの存在について話します」

「俺の存在?」

 思ってた話とは違うのかも。でも理はルールの事だろうし、やはり罪とか罰の話に最後はなりそう。

「この世界、エルディアナでは人間と他の種族との間に生命が誕生することはありません。半獣人同士でも犬系と猫系など系統が違えば無理です。獣人にエルフ、ドワーフなども例外なく同じです。絶対的な理として、他

種族間で子供はできません」

「それって……ドワーフと人間のハーフの俺はどうなるんですか?」

「問題はそこです。実は人間同士であっても、召喚された異世界の人間とこの世界の人間との間には子供はできないのです。しかし色々な理を無視して新しい生命が誕生した。その原因は母親となるドワーフがこの世界を出てしまったことです」

「そっか、異世界に行ったことで、この世界の理から外れたってことか」

「その通りです。ただ本来は女神の許可がないかぎり、こちらの者は別世界へは行けないのです。当然私は許可していません。何か特殊な方法を自分たちで見つけ出したんでしょう」

 ルール無視の特殊な方法……父さんの側には天才賢者のマリウスが居たわけだし、恐らく、っていうか絶対マリウスの仕業だ。

 俺がこの世に生まれたのって、マリウスのお陰でもあるのかも。

 待てよ……母さんはドワーフの異世界人だし、俺の日本人としての戸籍とかどうなってるんだろ。

 出生届とか役所に出してなくて無戸籍なのかな。スゲー気になる。怪我も病気もしないから病院に行くこともなかったし、学校も行ってないからな。そこんところ謎だ。まあ父さんの事だから適当に、というか要領よくやってたんだろう。

 たまに外に出る時は夜中だし、警察に職務質問とかされてたらヤバかったのかも。

 それにしても、あの可愛い半獣人やエルフとエッチなことしても子供できないとか、ある意味では気にせず遊びまくれるじゃん。やっぱここは天国だ。

 いや待て待て、それは普通の人間の場合だ。初めから理を無視してる俺にルールは適用されないかもしれない。だから調子に乗って遊んでたら、いつの間にか隠し子いっぱいの鬼畜パパになってるかも。その先にはドロドロのトラブルしかねぇよ。遊ぶにしても気を付けないと。

「コホンっ、ここは精神世界ですから、あなたの心の声は私に聞こえてますよ」

「えっ、マジ⁉ 先に言ってくださいよ、超恥ずかしいんですけど。普通にエロい事ばかり考えちゃったじゃないですか」

「別に気にすることはありません。人間の男とはそういうものです」

「いやいや、そういう事じゃないんですよ。隠れてやるのが好きなんですよ男ってやつは。後すごーくナイーブな生き物でもあるんで」

「面白い人ですね、あなたは。父親によく似ています」

「不本意ながらよく言われます」

「ふふっ、そうでしょうね」

 女神様に笑われてしまった。色々と恥ずかしすぎるぜ。

「でも俺が異世界人とするなら、将来的に人間相手でも子供ができないのは少し寂しい気がしますね」

「私の考えでは、あなたは理から外れているので可能性はあります。例えば人間かドワーフ、どちらかとの間であれば、いつか子供ができるかもしれません」

「なるほど、そういう可能性が……まあ童貞の俺がいま心配する事じゃないか」

「コホンっ、では話を進めますよ」

「あっ、はい、どうぞ」



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