第89話 小祝聡希視点&弓削澪那視点

 ここに入学して、1学期は静かで不自由もなかった。

 2学期は席替えで周りの状況が変わった。

 元気いっぱい涙脆い絢子あやこ

 カッコつけが似合う友達想いのみなと

 そして、僕にハッキリと指摘する本好きで心優しい澪那みおな

 一緒にいるようになって、うるさいようでうるさくない。

 居心地が良くなっていた。

 喋んなくたって良いし、居なくなっても何も言われないし。

 本当に楽で、楽しくて。

 こんな想いになるのは初めて。

 かけがえのないって、このことを言うのだろう。

 みさきちゃんにこのことを伝えると『良かったね!』と返ってきた。

 それともう一言。

『安心しちゃった♪』

 どんだけ心配されていたのか。

 これからも、岬ちゃんに逐一報告する。

 前に言っていたな。

 私は2番ってー…。

 ずっと考えていた。でも分からない。

 だから、思いきってやってみる。

 目を瞑って、頭の中を空っぽにして、自分に問う。


 僕の中の“1番”って、なーんだ!


 バッと目を開けた。


 えっ…


 心臓がバクバクしてきた。


 今、何時だ?

 午後ー…4時30分…。


 僕は慌てて教室を出て、走り出した。



 図書委員の仕事を終えた。

 もう1人の当番の先輩が「あとはよろしくね!」と言って居なくなって、1時間は経過した。

 誰も来ない。少しゆっくりしよう。

 あと30分で終わるから。誰も来ないだろうし。

 まだ肌寒いこの季節。春はもう少し先。

 ふと、この1年を振り返る。

 最初は隣の湊君を見て、学校間違えたって本気で思った。

 でも、話してみると真面目で素直な所があった。

 2学期に、まさか忠告を受け入れて、制服を正してきたのには驚いた。

 元気で明るい涙脆い絢子ちゃんと友達になれたこと、私にとって幸せなこと。

 こんな感情のままに生きている人、なかなか会えないからね。

 そして、2学期から席替えでやって来た聡希さとき君。

 無口で指摘すると直ぐに直して、一緒にいて話さなくても大丈夫で、いざって時に頼りになって。

 横顔なんか綺麗なんだよなぁ。

 何言ってんだか、バカだな私。

 この3人が居てくれたから、学校は楽しい。

 素敵で頼りになる先輩方にも恵まれて感謝しかない。

 大ピンチの時も助けてくれて…。

 お姫様抱っこを思い出すと、今でも倒れそうになるけどね。

 ようやく信頼しても良いって思えるようになった。

 初めましての人には、まだまだ警戒心から始まるけど。

 前よりは警戒心が解かれるのは早い気がする。

 余裕があるからかな。

 4月からも変わらず楽しく学校生活を送れそうだ。

 ところで、思い出すと、雅虎まさとら先輩とみやび先輩が下校中に手を繋いでいて、仲睦まじかったなぁ。

 私も好きな人とあんな風に出来るのかな?

 憧れだなぁ…。

 好きな人…か…。

 居たとしても難しいかも。

 こんな、腫れ物に…。

 ただでさえ、自分に自信なんてないし。

 はぁ…恋愛なんて、程遠いようだ…。

 窓の方を見ていると、夕焼けが広がっていて綺麗に見えた。

 哀愁を感じつつ、少し早いけど、誰も来ないし、後片付けを始めた。

 荷物もまとめた所で鞄を持って、ドアを開けると、廊下から誰かが走っている音が聞こえてきた。

 どっかの運動部だろうって思っていたら、だんだん図書室に近付いていることに気付いた。

 急ぎの返却かな?

 と思い、ドアを開けて待っていると。

「えっ?」

 走って来たのはー…聡希君!?

 図書室に飛び込んで来た。

 ぜえぜえと息切れが。

「だ、大丈夫!?」

 心配すると「大丈夫」と返ってきた。

「と、とりあえず、椅子に座ろう?」

 彼を椅子に座らせた。

「一体どうしたの?」

 聞いてみると、俯いている聡希君だった。

 少し呼吸が整った時。

「話が…ある…」

 そう彼は言った。

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