第26話

 1人で下校していると、ふわっと甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 香水かな?誰だろう?

 立ち止まって周りを見ると、女の子が立っていた。


「えっ…」

「お会いしましたね、琴坂ことさかさん」

つぐみ…さん…」


 この地域では高嶺の華と言われる女子高の制服を着ている鶇 雅深まさみさんだった。


「何ですか?」


 警戒しないと。


「別にたいしたことではありません」


 なんだろう…この前より、丁寧な対応をしてくる。

 何か意図があるのかもしれない。

 注意をしなきゃ。


「琴坂さん、もう雅虎まさとら君に近付かないで」


 ピキッと、ガラスにヒビが入るような感覚が身体中を刺激した。


「どういうことですか?」


 負けちゃいけない。

 震えそうになる足に力を入れて、懸命に踏ん張る。


「どうって、そのままの意味ですが」

「嫌と言ったらどうなるんですか?」


 どうせ何にもしてこないでしょ。

 そう思っていると。


「だったら、徹底的に彼を落とすのみ」

「落とす…って…」


 この人は頭が弱いの?と言わんばかりに、挑発するような表情だ。

 ムカつく。怒りが湧いてくる。

 でも、抑え込んだ。


「分からないなら、見ていなさい?彼の事を」


 そう言い残して鶇さんは去った。

 残された私は急いでのんちゃんにメッセージを送った。

 すると秒で返信がきて見てみる。


『分かった。その言葉に隠された意味を、調べられる所まで調べとく。何か情報掴んだら教えるし、杏子きょうこちゃんも呼んでみんなで一緒に考えよう』


 安心した。頼れる友達がいて、助かる。

 私1人じゃ何にも出来ないから。

 少しだけ気持ちが軽くなった。


 徐々に彼の様子がおかしくなっていく所を目の当たりにする事になろうとは、この時の私には想像出来なかった。



 指定された場所である喫茶店に俺はいて、雅深を待っていた。

 すると「ごきげんよう」と声をかけられた。


「制服だから、そんな言葉遣いか?」

「そうね、この服を着たら背筋が伸びるので」


 彼女は向かいに座る。その後直ぐに紅茶を注文した。

 脅されたわけでもなく、しつこくされたわけでもない。

 『話したい』と連絡がきたから、俺はこいつに直接、「俺に関わるな」と言う為に会う事にしただけ。


「雅ちゃん」

「何?」

「私の話を聞いて?」


 聞いたとしても惑わされない。

 そんな自信があった、この時までは。

 自分がどうなるかも知らずに、今の俺は警戒しながら雅深の話を聞くことにした。

 温かそうな紅茶が雅深の前に置かれ、さっそく一口啜る。

 それから「あなたと別れてからなんだけど…」と切り出した。

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