カミノセカイ

寧楽ほうき。

第1話 謎の女

「クソッ!バグか!」

「このままではシステム全体に支障をきたすぞ!」


 騒がしい研究所。

無数に並ぶPCには、SELF-REPAIRと表示されていた。


 ・  ・  ・


「あっっぢぃ…。こんな蒸し暑い日に来るんじゃなかったな…」


 夏休みに入り、予定が空いた俺は実家に顔を出すことにした。もう長い間帰っていなかったような気がする。

 海と接しているこの島は相変わらず潮風が気持ちいいし、自然も多くて良い場所だ。


「ここに来るのは何年ぶりだろうなぁ…」


 ——思い出せない。

何故か、ここに住んでいたときの記憶にだけもやがかかる。


「まだボケるような歳じゃないんだけどなぁ…」


 ポリポリと頭を掻いていると、うしろから聴き慣れた声が近づいてきた。


「お兄ちゃ〜ん!」

「ちょっ、急に飛びついてくるなよ」

「へへー、だって久し振りにお兄ちゃんに会えるもん」


くぅ〜っ、知らない間に可愛くなりやがって!

心なしか背も伸びている気がするし、髪も伸ばしたのか。


「どう、久々の妹の感想は」

「あぁ!めちゃくちゃ可愛いくなってるぞ!」

「そ、そんなストレートに言わなくても…」

「どうしたんだ?早く行こうぜ」

「分かってます!お兄ちゃんのばか…!」


 なんでこいつは怒ってるんだ…?

乙女心はいつもよく分からんもんだ。

 俺たちはお互いの話をしながら家に向かった。

学校はどうだとか、最近あった面白い話とか、他愛のない話だ。


  ・  ・  ・


 カラカラと音を鳴らしながら、コップに注がれた麦茶を飲む。


「ぷはぁ〜っ!やっぱ、キンキンに冷えた麦茶は最高だなっ!」

「お兄ちゃんはいつからそんなオヤジくさくなったの……」

「いいだろ、それくらい」


 はぁ、と葉月はため息をついた。

 そんなにダメなことだったのか…?

——ん?なんかだんだん暗くなってきてないか?


「なぁ葉月、ここってもう日が沈む時間なのか?」

「なに変なこと言ってるの、お兄ちゃん。それだったらお母さんたちも草むしりやめて帰ってきてるはずでしょ。ちょうど日陰になってるだけでしょ」

「…なるほど」


 違和感を覚えた俺は、窓際まで行って外を眺めた。うん、俺の勘違いだったか。

 外では町内会の人たちが草むしりをしている。


「元気だねぇ…」


 そんなことを言っていると、だんだん外は薄暗くなっていき、突然島は暗闇に包まれた。


「葉月、大丈夫か⁉︎ただの停電だから、そこから動くなよ!」


 なにも見えず、葉月の声も返ってこなかった。


「どうしたんだ、葉月!」


 明かりが戻ると、そこには葉月の姿はなかった。

それどころか、外で草むしりをしていたはずの人たちの姿すら見えなくなっていた。


「……っ!」


 慌てて家を出て、あたりを見渡したが、やはり誰もいなかった。ずっと聞こえていたはずの子どもたちの笑い声も消えた、静まりかえった島。


「おいっ!誰かいないのか!」


 とにかく近くの家をまわってみることにしたが、どれだけ扉を叩いても、誰も出てこなかった。

 そこで、庭に置いてあった椅子に目をつけた。

これでガラスを割れば——!

そう決意していると、もう一つの足音に気がついた。


「おっと、脅かすつもりはなかったんだ。でも、そんなことしても意味ないと思うよ。この世界には人間はきみと私しかいないから」

「アンタは一体何者なんだ…?」


 二十代前半だと思われるロングヘアの女性。

少しボーイッシュな服装だが、ざっくりと開いた胸元から見える谷間はホンモノだった。


「おや、私に興奮しちゃったのかな?ここには他の人間はいないんだ。どんなことをしたってバレないよ」


 妖艶な笑みを浮かべ、俺の手を自分の胸まで持っていった。


「へっ⁉︎」

「女性の胸を揉むのは初めてなのかい?」

「べ、別にいいだろそんなこと!」


 慌てて手を振りほどいた。

危ねぇ、このままやってたら俺のムスコがどうなってたか……。


「——へぇ、いい傾向だ」

「どういうことだよ」

「そのままの意味さ。ほら、行くぞ」


 突然現れた謎の女は嘲笑して、俺について来るように言った。

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