第61話王都見学1
■■■リタ視点
今日は待ちに待った久し振りの休日。休みの日はご主人様に相談してユリイカとブラドちゃんとも合わせている。
「うき、うきっ」
「何だか楽しそうね。そんなに王都に行くのが嬉しいのね」
「リタはルミナス村と森しか知らない。人がいっぱいいる場所は避けていたから」
仕事は聖女に丸投げしているので少しだけ申し訳ない気持ちがある。でも、リタは好きな時に出勤していいと言われているのであまり気にしないことにする。
代わりといってはなんだけど、祈りの間の台座の上には小さな神獣様人形を置いておいた。今後、私がお休みする際は置いておこうと思う。我ながら可愛らしく作れたと思う。
「そうよね……。お休みも久し振りでしょ。ゆっくり楽しんできてね。あと、王都で暴れちゃダメよ」
「リタ暴れない」
「何かあっても神殿が守ってくれるとは思うけど、物事には限界というものがあるのよ」
心配というか失礼なことを言ってくる聖女だ。彼女が指示をして神殿関係者を見張りにつけているのは知っている。王都に行けばかなりの数の神官が私たちを離れた場所から警護するのだろう。
まあ警護というより、問題が起こらないように陰ながら対処してくれたりという感じだと思う。それもユリイカが暴れたら難しいと思うけど。
「いってきます」
手を振ってくれるのは聖女だけ。今朝は早くからお祈りの修行があるとかでレティ様はもういない。聖女見習いのルーミィが早朝から迎えにきていた。
ルーミィとは神殿でよく顔を会わせる機会があるから少しだけ仲良くなった。ルーミィがやる聖女の決めポーズというピースサインは私もお気に入りだ。
ご主人様は最近牧場のことで頭がいっぱいなので、今日も朝から牧場の柵作りとかを進めているのだろう。実は何かに使えるかと思って糸を束ねてロープにしている。王都から戻ったらご主人様に渡そうと思っている。喜んでもらえると嬉しい。
「あっ、リタさんおはようございます」
「おはようブラドちゃん。ユリイカは?」
「ユリイカさんまだ寝てて。起きてくれないのです」
「乗合馬車の時間があるから叩き起こそう」
「叩くのはやめた方がいいかと……」
私はこんなにも楽しみにしていたのに、ユリイカは寝坊するぐらいどうでもよかったというのか。
扉を開け、ずんずんと中へ入っていくと寝相の悪い姿でリビングのソファーで寝ているユリイカがいた。
「ユリイカさん、お出掛けが楽しみ過ぎて眠れなかったみたいなんです。王都とか人がいっぱいでこわいと思うんですけど……」
「そうか。眠れなくて寝坊したのか。なら許そう。ユリイカは私が馬車まで運ぶからブラドちゃんは乗合馬車のチケットを準備しておいて」
「は、はい。わかりました」
私たち三人にはちょっとした共通点がある。一つはご主人様の部下であるということ。次に友達が少ないということ。ユリイカも若くして四天王とかになったらしく、友達というより部下が多いと言っていた。ブラドちゃんは人見知りだし言わずもがな友達はいない。
私自身、今までがモンスターだったから人と友達になるというのはハードルが高い。私が友達だと思っているのはこの二人とルーミィ、あと聖女も入れておこうか。つまり、まだ四人しかいない。
でもたった四人だけなのに、こんなに楽しい日々を送れるということに驚きを隠せない。友達がもっと増えたらどんな暮らしが待っているのだろう。想像もできない楽しい世界が待っているのかもしれない。
「大人二枚と子供一枚」
「はいよー、チケット確認オッケー。トイレは済ませたかい?」
「問題ない」
「そちらの子は寝てるのかい?」
「うん、寝坊」
「寝坊はわかるけど、寝たまま馬車に乗せられる子は初めてみたよ。後ろの席が少し広いから連れていきな。揺れるけど少しは寝られるはずだよ」
「ありがとう」
馬車でしばらく暇な時間ができる。手提げ袋の中から作りかけのお人形を取りだして糸を編みこんでいく。
「わぁー、これはレティ様とルーミィちゃんですか?」
「うん、ルーミィに頼まれた」
レティ様は頭の上にスライムを乗せた可愛らしい姿で、ルーミィは決めポーズのピースサインをしながら杖を構えている。
「リタさんは器用ですねぇ」
「ブラドちゃんにも何か作る?」
「いいんですか! じゃあ、ボクは神獣様人形が欲しいです」
「私?」
「はいっ。あの小さくデフォルメされたのが可愛らしいのです」
「わかった」
一度作った物なので、時間もかからずにすぐ作れると思う。子供服の完成に合わせて間に合うように作りあげよう。
「ん……ううん……」
「ユリイカ姉さん、そろそろ起きてください」
「ブラド、あとちょっと……」
「何で揺れる馬車の中でまだ寝てられるんですか」
この調子だと王都に到着するまで起きそうにないな。私は今のうちにお人形を完成させてしまおう。帰りの馬車は子供服のデッサンになると思うし。
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