第59話バフォメット戦
正々堂々といった言葉が相応しい。バフォメットの突進を避けることなく張り手で応戦するカメレオンフロッグ。
おいっ、得意の擬態はどうした。
すると、勢いを止められたバフォメットが首を上げ下げしながら猛烈に角攻撃をしてくる。
「隙ありでやんす!」
その動きをあらかじめ知っていたかのようにバフォメットの懐に潜り込むと、カウンターの右アッパーが一閃。
バフォメットの足元が一瞬ぐらつく。
しかしながらバフォメットの目は紅く光り輝いたまま死んでいない。というか、フッと軽く笑みを浮かべている気がしないでもない。
それはカメレオンフロッグも同様で口角を上げながら、次はお前が来てみろと言わんばかりに仁王立ちしていた。
カメレオンフロッグとバフォメットが笑いながら拳で会話をしている。
ねぇ、何やってるの!?
前脚で地面を引っ掻く仕草をみせるバフォメット。カメレオンフロッグへの挑発なのか、それとも自分への鼓舞なのか。首を軽く下げ、睨みつけるようにその瞳は熱くバーニングしている。
いや、その姿は先程までとは違って、黒い毛に稲光が纏われて最早全身凶器になっている。
雷属性の魔力を全身に纏っている。あれは触れただけでも危険を伴うだろう。
周囲にはバリバリっと異様な音と、更に目を鋭くさせるバフォメット。
勝負は一瞬だった。
「アベベバァァァ!」
僕ですら目で追うのがやっとの猛烈な突進は正面にいたカメレオンフロッグをあっさりと吹き飛ばす。
雷だけでも危険なのにあの突進力。雷属性によって身体強化もされているとみていいだろう。
「アバァァァ!!!!」
勝利の雄叫びをあげるバフォメットに周りの仲間たちも集まってくる。
「アベバベバッ!」
「アベバベバッ!」
勝者を称え、仲間が勝った喜びを分かちあっているのだろう。仲間たちが駆け寄ってモフりあっている。何だかとても暖かそうだ。
しかしながら、カメレオンフロッグもそう簡単にやられるモンスターではない。
ボフンッ!
吹き飛ばされたはずのカメレオンフロッグからそんな音が聞こえたかと思ったら、それはカメレオンフロッグと同じぐらいの大きな岩。
新技なのだろう。擬態ではなく、自らの姿を岩に身代わりさせるっぽい魔法をこの土壇場で使ってみせるとはなかなかやる。
すぐに周りをキョロキョロと窺うバフォメットだが、突如、急所と思われる内臓に豪快な一撃がクリティカルヒット!
その大きな巨体が宙に浮かぶほどの一撃は、仲間のバフォメットから繰り出されていた。
ボフンッ!
いや、現れたのはいつの間にか仲間に擬態して共に喜びを分かちあっていたはずのカメレオンフロッグだ。
何だかズルい気がしないでもないが、これはこれでカメレオンフロッグの真骨頂ともいえる。
油断させておいてからの逆転勝利。満足気に右拳を空へと突き出している。周りに集まっていたバフォメットたちは困惑顔でカメレオンフロッグから少し距離をとる。
正々堂々とした戦闘から一転、変則技での勝利。もちろんそれだけバフォメットが強かったということではある。わかる、それはわかるのだけれど、これからの交渉を考えると良い勝ち方とは言えない。
まあ、カメレオンフロッグにそこまでのことを求めてはいけないか……。ここから仕切り直しだ。
「ダークネスヒール!」
群れのボスと思われるバフォメットの怪我を一瞬で治すと、カメレオンフロッグを通じてボスとの会話を試みる。
内臓に致死的なダメージを受けていたボスは僕の魔法に驚きながらも立ち上がると、何やらカメレオンフロッグに話し始めた。
「えーっと、何て言ってるのかな?」
「何故助けた? って、言ってるでやんす。勝負はついた。殺せって。ただ、他の仲間たちだけは助けてもらえないかって言ってるっす」
何とも男気のあるボスだ。カメレオンフロッグとは比べものにならないほどの男気。
もちろん殺すつもりなんてこれっぽっちもない。むしろ全員生きててもらえないとステーキビジネスが頓挫することになるのだ。
「カメレオンフロッグ、僕の説明をボスにしてもらえるかな?」
「へい旦那。任せるせるでやんすよ」
そこから二体の会話は群れを巻き込んでの話し合いに発展していく。
僕のことは人のくせに治癒してくれるいい奴。あと、この強いカメレオンフロッグをテイムしているヤバい奴という認識っぽい。強く思われているなら今はそれでいい。交渉ごとには自分を強く見せることも重要だと聞く。
「アベベバァァァ」
バフォメットとしては山岳地帯の地形は好きなのだけど、山の高度的な問題なのか大好きな草があまり生えていないので困っていたらしい。完全に住む場所を間違えているとしか思えない。
でも、山を下っていくことは人との争いが激化することを理解しているようで決断できずにいたようだ。これも群れを守る為ということか。
見た目に反して人との争いを避ける考えを持つあたりは草食動物なのだろう。戦い方は完全な肉食系だったけれども。
ブラックドラゴンもそうだけど、その巨体をどうやって草や実でまかなえているのか不思議でならない。魔法なのか! 魔力があれば何とかなるのか?
「旦那、とりあえず自分と奥さんだけでいいからルミナス村に連れて行ってくれって言ってるでやんす。あと食事についてはシビアみたいっすね。奥さんが納得しないと移住は出来ないって」
どの世界でも女性の意見は大事なのだろう。僕は割と自由にやってきたとこもあるけど、最近はレティや聖女を納得させなければ意見を通すことが出来ない。世知辛い世の中になってきたものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます