第41話王都へ行こう

 スライムから連絡の入った僕は理由をつけて一人王都へ向かうことにした。レティに危害を加えようとしていたのは王宮と闇ギルド。


 闇ギルドは潰すのが確定事項として、王宮を潰すわけにもいかない。それでは王都が混乱してしまい観光どころではなくなってしまう。せっかく平和な世界で暮らしているというのに自らの潰してしまうのは避けたいところ。


「それにしても、市場調査ですか? ルミナス産の野菜は王都で人気ですからね」


「すみません、無理を言ってしまいまして」


「いえいえ、全然構いませんよー。レン君にはいつもお世話になってますからね」


 数日家を空けることになるので王都への市場調査という名目でレティにお許しをもらってきた。馬車に乗せてもらったのは僕の野菜を王都に運んでもらっているクロノスさん。


 いつもの納入のタイミングで連れていってもらうことになったのだ。さすがに徒歩で王都に行くわけにはいかない。本当はその方が断然早いんだけれども。


「高級レストランのシェフや市場の売場担当者を紹介しましょうか?」


「あっ、場所だけで教えていただければ十分です。いきなり行ってもご迷惑だと思いますし、あくまでも王都で今どんな食事が流行っているのかを知りたいんです」


「なるほど、そこまで考えて農業をされている方はあまりいないと思います。さすがレン君ですね」


「いえいえ、そんなことないですよ」


 市場調査はあくまでもついでだけど、食に興味があるのは本当だ。美味しそうな野菜や穀物があれば種を持って帰って生産したいと思っている。


「最近はこのルートもかなり安全でしてね。王都に近いというのもあるのでしょうけど、モンスターを一度も見ないなんて日もあるんです。これも神獣様のおかげなのでしょうね」


 リタはそこまで広範囲に狩りをしていないので、この辺りは以前テイムしたカメレオンフロッグが頑張っているのが理由だろう。


 ゴブリンは滅多に現れないし、ジャンピングフロッグとバイオレンスドッグが中心だ。駆け出し冒険者でも倒せるレベルなので、奴らも人を襲うケースは稀。ある程度の群れで調子に乗ってちょっかいをかけてくるケースか、休憩中の馬車の積荷をこそっと狙ってくるぐらいのもの。


「げこげーこ、げこ(お久しぶりでやんす旦那)」


「ふぉっ、ジャンピングフロッグの声!?」


「き、気のせいですよ。何もいませんよクロノスさん」


「そ、そうでしたか。近くで聞こえたような気がして驚いてしまいました」


「モンスターが近づいてきたらすぐに伝えますよ。こう見えてちょっとぐらいなら戦えますし」


「は、ははっ。それは助かります。その時はお願いしますね」


 まだ成長途上の筋肉を見せて安心させようと思ったのだけど、軽い苦笑いをもらってしまった。畑仕事で少しは力もついてきているんだけどね。


『周りに人がいる時は念話で頼むよ』


『すまねぇっす』


 カメレオンフロッグは現在透明な姿で僕の目の前にいる。馬を操っているクロノスさんの真後ろともいう。


『見つからないようにね』


『大丈夫でさぁ。それで旦那はどちらへ?』


『ちょっと王都にある闇ギルドを潰すのと王宮にプレッシャーをかけにいくところなんだ』


『それは、ちょっととは言わないでやんすね。あっしでよければ手伝いますよ。ほらっ、擬態したり透明になって潜入とかも得意ですし』


 確かにそれは便利そうだ。闇ギルドを潰すのは僕がやるからいいとしても、王宮にプレッシャーをかけるのには何かしら役立つかもしれない。


『わかった。じゃあちょっと手伝ってもらおうかな』


『任せるでやんす』



「レン君、そろそろ王都に到着しますよ」


「おお、やっぱり大きいですね」


 はじめて見る王都は大きな壁に覆われていて、奥の方には立派な城がそびえ立っている。近くで見るとそれなりに迫力がある。


 門番のチェックを抜けると馬車は市場方面に向かうようでクロノスさんとはここでお別れとなった。


「帰りは乗り合い馬車でいいんですか?」


「はい、大丈夫です」


「うん、何か困ったことがあったら、うちの店まで来てください。私で出来ることでしたら力になりますから」


「ありがとうございます」


 クロノスさんは王都近郊の村から仕入れをして王都のお店に品物を卸す問屋業を営んでいる。野菜や穀物が中心らしいけど、面白いものがあったら紹介してほしいと言っていた。


『ルミナス村で珍しいものとか思いつかないしな……。さすがにリタの糸とかルミナス村以外で販売したらまずいだろうし、温泉は運んでる途中で冷めちゃうよね』


『商売というのは難しいでやんすね』


「とりあえず、スライムと合流しようか」


『スライム先輩っすね』


『知ってるの?』


『この界隈では有名っすからね。黒いスライムが現れたら決して戦おうとするな。逃げるか、あきらめるかの二択っす』


『スライムたちはあまり王都の方には来てないはずなんだけどな』


『森の方にはフォレストフロッグがいるでやんす。同じフロッグ系のよしみで情報ぐらいは入ってくるっすよ』


 フロッグコミュニティがあるのか。モンスターの世界もいろいろあるのかもしれない。


 さて、待ち合わせ場所は地下水路だったね。まずは闇ギルドから片付けようか。

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