第36話レティの能力

 レティが目を覚ましたのは翌朝のことだった。他の人たちもちゃんと目が覚めたらしく、勇者に関しては大司教様を通してレティに会って謝りたいと言ってきてるようだが、丁重にお断りさせてもらっいる。


 さっさと王都に戻ってくれたまえ。アシュレイのせいではないのはわかるが、そもそもお前が要因の一つでもあるのだ。今後近づかないようにするにはどうすればいいだろうか。悩みはつきない。


「んん……お兄ちゃん? あれ、私……」


「リタとミルフィーヌが助けてくれたんだよ。あとでちゃんとお礼を言うんだよ」


「う、うん。そっか、リタさんとミルフィーヌお姉さまが……。二人は?」


「さっき仕事に出かけたよ。気分は悪くないか?」


「うん、頭もすっきりしてるし、体調も良さそう。ピースも無事なの?」


「うん、全員無事だよ。怖かっただろう」


 そう言って頭を撫でてあげると、いつもは恥ずかしがるレティなのにそのまま僕に体を預けてくる。家には誰もいないしたまには甘えたいのだと思う。それと、やっぱり怖かったのだろうな。


「今日はずっと家にいていいからな。お兄ちゃんも一緒にいるから」


「ううん。私が元気に外で動いていた方が村のみんなも安心すると思うし」


「そっか。でもあまり無理するなよ」


「うん。じゃあ畑に行って魔法を教えて」


「えっ、魔法?」


「うん、野菜を元気にする魔法」


 レティが言っているのはダークネスグロウのことだ。小さい頃から割と普通に使っている魔法なのでレティもよく知っている。


 ただ、僕が知っている魔法というのは全て暗黒魔法なのでレティが使えるかというと魔族でもないので難しいだろう。人が暗黒魔法を使っているとか今まで聞いたことがないんだ。


「レティに出来るかな」


「ミルフィーヌお姉さまがね、私には魔法を扱う素質があるって言ってくれたの。最近来た神官さんで聖女見習いのルーミィちゃんと同じぐらいかもって」


 ルーミィちゃんって誰よ。それよりも何気なくミルフィーヌに神官に勧誘される可能性があるのか。


 レティの選んだ道であれば応援してあげるつもりだけど、こうも聖光魔法を操る者が身近に多くなるのは正反対の暗黒魔法を使う僕にとって肩身が狭くなる。今のところバレてないけど、お兄ちゃんの魔法変だよね? とか言われたらショックでしばらく寝込みそうだ。


「ちょっと調べてみようか。少しじっとしててくれよ」


「えっ、うん」


 レティの頭の上に手を乗せて心の中で念じる。使用する魔法はダークネスリサーチ。これは対象となる者の能力や属性を調べるものだ。



 レティ ルミナス村出身の十二歳

 動物やモンスターと心を通わせる能力

 属性、聖光魔法を覚える可能性が高い



 なるほど。ミルフィーヌに先見の明があるということはよくわかった。同じ属性だから何か感じるところもあったのだろう。


 この動物やモンスターと心を通わせる能力というのはテイマースキルの一歩手前の段階なのかな。小さい頃からスライムと暮らしてきた影響が反映されているのかもしれない。


 それにしても聖光魔法か。聖光魔法に植物の成長を助けるような魔法ってあったっけ?


「何かわかったの?」


 僕が何をしたのかは、なんとなく理解しているのだろう。レティは僕がいろいろ不思議な魔法を使えることを知っている。一緒に生活しているので隠すのも限界がある。


「ミルフィーヌには言うなよ」


 うちの家訓のようなもので、お兄ちゃんの魔法については他言無用というのが根づいている。


 レティも僕がとんでもない魔法を使えるとか、実は元魔王であるとかは知らないし今後も言うつもりはない。多分だけど魔法を人よりも器用に扱えるぐらいの認識なんじゃないかと思ってる。


「わかってる。誰にも言わない」


「レティは聖光魔法を覚えやすいみたいだ。あとは今後の成長次第ではテイム魔法を扱える可能性がある」


「聖光魔法にテイム魔法だね。聖光魔法はもう使えそう?」


「うん、多分大丈夫だと思うよ」


「じゃあ今日は畑でトマクの実を大きく育てようね」


「お、おおう」


 えーっと、聖光魔法で植物を育てるのか……何かあったっかな。魔王時代の知識を思い出しながら畑へ行く準備をする。


 聖光魔法というのは、はるか昔に神殿が聖女育成の折、光魔法から派生した属性だと聞いたことがある。なので、攻撃魔法の数はかなり少なく回復や防御魔法に振り切った属性だったはず。


 ただ、回復させる対象はあくまでも人なんだよね。人も植物も同じ生き物ではあるのでまったく効果がないということはないんじゃなかろうか。


 僕の使うダークネスグロウのように魔力消費を極限まで抑え、且つ、植物の成育を促すような聖光魔法。クイックキュアを試してみるか。


 あれは回復魔法の中でも威力が微妙なだけにちょうどいい。確か傷ついた皮膚を再生させたりする補助的な魔法だったはず。最初に覚える魔法としては申し分ない。


「うきうき! わくわく!」


「楽しそうだな」


「だって魔法だよ、魔法! これで私も一端の農民デビューだね、お兄ちゃん」


 レティ、普通の農民は魔法を使わないんだ。でも日除けの麦わら帽子が可愛いから許そう、我が妹よ。


「詠唱は長いの? すぐに出来るかな」


「覚えてもらうのはクイックキュア。詠唱はね、再生の光よ、闇を祓い清めよ。クイックキュア」


「魔力を込めながら、その詠唱を言えばいいんだね」


「魔法はイメージも大切なんだ。詠唱がそのイメージを補助してくれるんだけど、実際に頭の中で想像した方がより効果は高くなる。魔力、詠唱、そしてトマクの実が元気になるイメージを思い浮かべながらやってごらん」


「わかった」




 結論から言うと、レティのクイックキュアはすぐに成功した。元気のなかったトマクの実も軒並み瑞々しくぷっくりと成長を遂げた。


 ダークネスリサーチの結果からも見事レティに聖光魔法の属性が生えている。レティにこんな才能があったとは驚きだ。


 今後、我が家では聖光魔法を操る二人に囲まれて暮らすことが確定した。暗黒魔法とは相性が悪いので一緒に寝ている間は少しだけダメージを受ける。


 これはミルフィーヌと寝てる時にわかったことなんだけど、朝起きたら少しだけ僕にだけダメージが入っていたんだよね。なんなら魔力もちょっとだけ減っていた。


 僕に聖光魔法の耐性がつくか、毎晩ダメージを喰らい続けるかの勝負。お兄ちゃん、軽く絶望入ってるよ。


 いや、たいしたダメージではないんだけどね。でもレティとミルフィーヌのローテーションにより僕にしばらくの間休息の日々は訪れないことが決定した。

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