第28話ルミナス村の賑わい
「へい、らっしゃい、らっしゃい! モロッコ焼き500ギルだよー。焼き立てのモロッコはいかがっすかー」
ミルキーちゃんの強気の値付けに引っ張られたのか、カールさんまでモロッコの実を500ギルで販売している。ただ塩を振って焼いただけのものに。
ところが、これが売れている。どちゃくそ売れてしまっている。
もちろん、ミルキーちゃんの冷やしトマクの実も絶好調に売れている。二人の笑顔がとてもまぶしい。
定食屋の軒先では大きく「神獣様の大好物」と書かれた看板を立てていた。ミルキーちゃんお手製の絵でホーリータラテクトがトマクの実を美味しそうに食べている姿が描かれている。
「はーい、お待たせしました。冷やしトマクの実、一本500ギルですよ」
「うん、美味い! やはり本場で食べるルミナス産の野菜は最高ですな」
「ええ、本当に。ほっぺた落ちちゃいますわ。神獣様の大好物っていうのも納得よね」
「いまやルミナス産の野菜は高級レストランでしか食べられないからな。こうして格安で食べられるのはありがたい」
な、なんだって。500ギルが格安だと!?
「あっ、遅いよレティちゃんのお兄さん! 冷やしてあるトマクの実はあとこれだけしか残ってないんだからね」
売場に残されている棒に刺さった冷やしトマクの実は三十本ぐらいだろうか。昨日の納品で百個も持って来たのに、一瞬で七十本が売れてしまったというのか……。
「ご、ごめんよミルキーちゃん。まさかこんなに盛況だとは思いもしなかったよ」
「甘い、甘いよレティちゃんのお兄さん。特に第一陣は王都の商人さんが中心なんだよ。つまり、味を知っている人達なんだってば。この人達の口コミが更に客を連れてくるんだからね!」
ミルキーちゃんの年齢はレティと同じ十二歳だったはず。農家から定食屋にジョブチェンジした両親の店の軒先で大行列を作っている。
この娘、天才か……。
反対側ではカールさんの厳しい視線が僕を捉えて離さない。モロッコ焼きも同様に行列を作り、その在庫状況はかなりひっ迫している。その目が早く持ってこいと言っている。
「凄いなぁ。ルミナス村の野菜って王都で調子良いとは聞いていたけど想像以上に人気だったんだね。何でみんな農家やめちゃうのかな」
「労働の割に販売価格が安いからに決まってるでしょ。汗水たらして毎日頑張って20ギル。それがここで売ったら500ギルになるんだもの」
一瞬値上げしてやろうかと思わなくもないけど、村の人たちが喜ぶのならこれでいい。僕はここで稼ぎたいわけではないんだ。レティとのんびり暮らせればいいのだからね。
でも王都に卸す値段は少し上げてもいいのかもしれない。今度業者さんに話してみようか。
「っと、そろそろモロッコの実を持っていかないとカールさんに怒られそうだね」
通りをはさんで睨みを利かせているカールさんの貧乏揺すりが止まらない。怒られる前に行動しなければ。
「しばらくはこんな感じだと思うから、明日からは三百個持ってきてくれる?」
「了解。じゃあ頑張ってねミルキーちゃん」
それにしても凄い行列だ。何気にこの棒に刺さっているスタイルがいいのかもしれない。歩きながら食べられるので、持っている人が勝手に宣伝してくれるのだろう。
買った人は美味しそうに食べてるし、それを見てる人は食べたくなる。よく出来た戦略だ。
「これを本人が考えていたとしたら恐るべき十二歳だよね」
先に念話を飛ばしてスライムたちにはモロッコの実を準備させておこう。
トマクの実やモロッコ焼きを手に歩いている人が向かうのは完成したばかりの教会。日帰りの人もいるようだけど、多くの人が泊まっていくらしい。
ライアンさんの宿屋も満員御礼の札が掛けられている。神殿から大きな借金をしているだけに頑張ってもらいたい。露天風呂にはかなり力を入れているようなので人気の宿になるといいな。
「おお、レン、ちょうど良かった。少し時間あるか?」
木彫りの神獣様を販売しているジャスティンさんが声を掛けてきた。
「いやー、カールさんの所に急ぎの納品があるんですよ」
「よし、ピース。お前、レンのところに行って代わりに納品してきてくれ」
「ええっ! 僕に運ばせるの」
「レン、どのぐらい運ぶんだ?」
「モロッコの実を二百個です」
「そうか……えっ? 二百個だと!? カールの奴そんなに売れてるのか」
「バカ売れですね。トマクの実と同じぐらい動いてるんじゃないでしょうか」
「ピース、お小遣いやるから頼む」
「もう、わかったよ父ちゃん。その代わり2,000ギルだよ」
「いーや、1,500ギルだ。いいから早く行ってこい」
「ちぇっ! わかったよ」
「ピース、うちの作業小屋の前でスライムたちが台車に積み込んでるからそれを持っていってくれ」
「はーい」
とりあえず僕の仕事は一段落しそうなので、これでゆっくりジャスティンさんの話を聞ける。
「何となくわかりますけど、どうしましたか?」
「レン……。木彫りの神獣様が一つも売れねぇ」
でしょうね。それなりに器用に造られてるとは思うけど如何せん素人に毛の生えた程度。いくら観光地といえど素人が彫る木彫りの品が簡単に売れるほど甘くはないのだ。
「いくらなんでも、それで30,000ギルはないと思いますよ」
「原価ゼロの粗利100パーセントの最高商品だと思ってたのによぉー!」
原価ゼロって、確かに木は森にいっぱいあるけど、それを切って運んで加工するジャスティンの作業代が抜けている。少しはミルキーちゃんを見習ってもらいたい。
「た、頼むレン。起死回生のミラクルな作戦を俺に授けてくれ。神獣様とか聖女様関連で何かお願いできることねぇか? そうしないと俺はレンの農作物運搬業に仕事を変えなきゃならねぇ」
「そんなこと言われてもですね……。はぁ、少し考えてみますから、それまでうちの野菜を運ぶの手伝ってくださいよ」
「ありがとう心の友よ!」
リタは手伝ってくれるとしても聖女はそうもいかないだろう。いや、よく考えてみたら、うちでタダ飯食って宿代ももらってなくないか。せめて何かいい案でももらわないとやってられないな。
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