第21話温泉の完成
あれからしばらくしてルミナス村に温泉が完成した。ライアンさんの豪華な露天風呂とやらはまだ建設中なのだけど、村営の温浴施設が一足先にオープンすることになったのだ。湯の温度も森からひいてくる間にちょうど良い温度に下がり湧出量も安定してかなりの量があるとのこと。
温泉に浸かるという風習がなかったルミナス村だけど、裸を見せるのが恥ずかしいという人も湯の色が黒いことで浸かってしまえばそこまで気にならなかったようだ。
温浴施設は今日も朝から満員で、特にご年配の方には人気となっている。温まることで血の巡り、魔力の循環が向上するようで体の調子が良くなると評判になっている。
「村長おはようございます。今朝も温泉ですか?」
「うむ。この黒い湯は癖になるようじゃ。身体が芯まで温まるからか近ごろ体調もいい。これも神獣様のおかげじゃな」
「ですね」
「聖女様とレティちゃんも温泉に入りに来てるのかい?」
「はい。聖女様は相変わらずのようですが二人とも朝晩の二回は必ず来てますね」
「それはそれは。聖女様も早く温泉に入れるようになるといいねぇ」
「ええ」
レティと聖女は仲良く温泉に入りに来てるのだが、聖女はまだほとんど湯に浸かれていない。今のところサウナエリアをメインに利用しているとのこと。やはり暗黒属性の湯は聖光属性の聖女とは相性が悪いようで、毎日少しの掛け湯でひぃひぃのたうち回っているそうだ。
聖光属性持ちの彼女にはピリピリとした痺れがあるようで足を一瞬浸けただけでもうギブアップらしい。それでもリタが普通に温泉を利用しているのが悔しいようで負けずに何度もチャレンジしている。
それはもう身を清めるとかではなく、修行の一環なのではないかと思っているぐらいだ。サウナと水風呂がメインの聖女、ちょっとだけ不憫に思わなくもない。
「はあー。やっぱり温泉は気持ちがいいですね」
湯に浸かりくつろいでいると、いつもの叫び声が聞こえてくる。もちろん聖女の声だ。毎度懲りずに温泉修行を積んでいる。
「ひ、ひやゃあぁぁぁあぁあぁぁ」
「はわぁー、今日も聖女様が頑張られておりますな」
「そうですねぇー」
男性用の風呂では恒例となった聖女の叫び声。これを耳にしながら男性陣は疲れを癒している。最初は何事かと心配したものだが、理由を聞いてからは誰も気にならなくなった。
観光客が来るようになったらきっと絶叫の湯とか名前が付けられてルミナス村の新しい名物になるかもしれない。
聖女が何故そこまで温泉にこだわるのかは不明だ。リタと張り合うだけでそこまで頑張るとも思えない。やはり昔入った温泉の気持ち良さが忘れられないとかなのだろう。温泉は気持ちいいものだからね。
「それでは村長、僕は先に上がりますね」
「うむ。わしはもう少しゆっくりしていこうかの」
村長はこれからサウナを満喫するのだろう。高齢者組は身体を整えるのにサウナを利用している人が多い。温泉は身体を清潔に保つだけでなく健康にもしてくれる。
ここ最近は数年前のルミナス村の状況からは想像ができないほどに活気が出てきている。寂れた村を知る僕としてはとても感慨深いものがある。
「ルミナス村が観光地かぁ……」
人が多く訪れるということは要らぬ争いを生む原因にもなる。利権や土地など揉め事の種は幾らでもある。
ところが、手馴れた感じで指揮をしているのが大司教様だ。第一印象はえっちでダメな大人だったのだけど、村長や村の重役と会合を重ねていきながら見事にその調整をしている。
今も建設中の宿屋をチェックしながら打ち合わせをしているのが見える。何気に神職よりも商人の方が向いてるのではなかろうか。
「大司教様は、あー見えて優秀なんです。お金も動かせる立場にありますので、決定から行動までが迅速なのです」
「聖女様、もうあがられたのですね」
「ええ、湯にほとんど浸かれませんから……ヒール」
ぽわっと光る魔法が手足を覆っていく。少し赤くなっている肌にヒールを飛ばす聖女。今日のチャレンジももちろん失敗だったようだ。今朝もサウナと水風呂がメインだったのだろう。さすがに少し可哀想に思えてきたけど僕にできることは何もない。引き続き修行を積んでもらいたい。
「教会ももう少しで完成ですね。大司教様から聞きましたよ。聖職者専用の宿舎を兼ね揃えていると」
「そのようですね。私には関係ないことですが」
「はあ!? いやいや、聖女様の新しい住まいですよね?」
「あれ、言ってませんでしたか? 私の役目は教会で祈りを捧げることと神獣様のお世話をすることです」
「なっ!? つ、つまり?」
「今まで通りレン君の家にご厄介になります。大司教様に話をして、間取りはそのままに部屋は広く変更してもらっています。街道から少し離れますので特別に庭付きで農作業用の小屋や倉庫も完備することになりました」
「ちょっと情報が多すぎて頭に入ってこないのですが……。聖女様は家にずっといるの!? そ、それから家が広くなるのに間取りは変わらない!? 小屋とか倉庫は助かるけど……うちだけそんな特別扱いして怒られない?」
驚く僕とは対照的にしてやったり顔の聖女。何か小さな声で独り言を呟いていた。
「……部屋の数が増えたらローテーション出来なくなっちゃいますからね」
僕たちの住む畑エリアに関しては土地が余っており少し広めの家にしてくれるらしい。これは聖女が一緒に住むことも一因していそうだ。小屋とか倉庫もきっとそのお陰なのだろう。
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