幼馴染の飯田さん。

寧楽ほうき。

第1話 僕のとなりの飯田さん。

秀明ひであきー、香帆里かおりちゃん来てるわよー」

「分かってるってー!」


 僕の名前は、高宮たかみや秀明ひであき。そして、香帆里かおりちゃんというのは幼馴染である飯田いいだ香帆里かおりのことだ。

 僕らは同じ高校に通っていて、家が近いためこうして一緒に登校しているのだ。


「ヒデくーん、おっはよー!」


窓から外を見ると、香帆里かおりが玄関の前から僕に手を振ってきた。

 今日寝坊をしてしまい、急いで支度を済まして朝食を食べる暇もなく家を出る。


「早く行かないと遅れるよ!」

「あっ、うん。行ってきまーす」


 僕と香帆里は、玄関の前で見送りしてくれている母親に手を振って学校へ向かう。


 その道中、


「もう高校一年生だったんだね…」


 なぜか名残惜しそうに香帆里がそう言った。


「今頃?もう入学して二ヶ月は経ってるじゃん」

「そうだけどね…ヒデくんといつまでこうやって一緒に歩けるのかなーって」


 僕はその言葉を聞いて過去、僕たちの出会いを思い出した。ほんと今思うと衝撃的な出会いだった…。


◆ ◆ ◆


 幼稚園児の頃、公園で母と砂遊びをしているときだった。


「ねぇねぇ、わたしとおままごとしない?」

「ん、ぼく?いいよ!」


 これが僕と香帆里の初めての会話だった。

おままごとと言えば、よく小さい子たちのやる家族ごっこという平和な遊びなのだが、香帆里のものは少し違った。


「あっ、あなたおかえり」

「ただいまー」


 もちろん、僕が夫で香帆里が妻。

このとき母はベンチに座って僕らを優しい笑顔で見守ってくれていた。


「——ねぇ、ちょっと話があるの…ここに座って」

「う、うん…」


 これをするために香帆里が持ってきていたビニールシートの上に腰を下ろした。


「これ、なんだか分かる?」


 そう言って差し出されたのは、写真の代用品として使われていた一枚の紙だった。


「私、見ちゃったのよ…」


このときの僕の頭の中にはクエスチョンマークしか浮かばなかった。


「あなたがほかのオンナと一緒にいるところを!!」

「ひぃぃぃぃ!」


 そのときの香帆里は鬼の形相をしていて、僕はこのまま本当に殺されるんじゃないかと思った。

 こうして僕らはほとんど毎日一緒に遊んでいたのだが、


「え!?香帆里の家ここだったの!?」

「ヒデくんもここだったの!?」


と、お互いの家の場所を知ったのは中学一年生の頃だった。


◆ ◆ ◆


 ——にしても、あのときの香帆里は本当に浮気とか不倫とかのネタでしかおままごとしなかったな…もしかしてドロドロ系が好きなのか…?


「ねぇねぇヒデくん、聞いてる?」


 僕の顔を不思議そうに香帆里が覗き込んでくる。


「ん?あぁ、ごめん。ちょっと聞いてなかったかも」

「もー、せっかく小さいときのヒデくんの話してたのにー」


 頬を膨らませて、こっちを睨んでくるがリスみたいであまり怖くはない。


「ごめんごめん。で、どんな話?」

「えっとね、『僕は必ず香帆里ちゃんと結婚して、幸せにするんだ!結婚式挙げるんだ!』って言ってたの覚えてるかなー?っていう話だよ!」


 懐かしいなー、と香帆里はそう言った。


「——いや、そんなこと一言も言ったことないよね?」

「もう、ヒデくんはすぐ忘れるんだから」

「いや、言ってないから」


 こうして僕らの少しおかしな一日が始まるのであった。

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