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「って言う事は、お前って良い男を探してるっていうよりは、どれだけ誠実そうな男を掌で転がせるかを楽しんでるって事か?」
わざとらしく嫌悪感をアピールするような表情を浮かべる圭介。
「はぁ? いや、それは先輩の友達であってあたしはち・が・い・ますー!」
「じゃあ今までで一番記憶に残ってる釣れた男は?」
「ん-っと。――既婚者でこれまで奥さん一筋……」
彩夏は騙されたと言わんばかりの表情を浮かべるとすぐさま圭介を睨みつけた。
「そ、その人とは一夜限りだったし! それにお酒が結構入ってたからで!」
その後、僕らへ視線を戻すと言い訳の様に説明を始めた。
「はいはい」
「でも――正直に言ってあたしは、最初にこの面子で飲んだ時、先輩もありかなぁって思ったしぃ」
何のアピールなのか? 最初はそう思ったが、そう言って先輩を見つめる彩夏の視線はあながち追い詰められ適当に口にした言葉ではない事を物語っていた。本当に若干ながら恍惚としていたから。
「あたし実は、女の子もイケるんですよねぇ」
それはこの中で一番付き合いの長い圭介ですら知らなかったのだろう、彼も意外だと言う表情を浮かべていた。
「そう言う意味では先輩もアリだったかもっ」
語尾を跳ねさせ依然と先輩を見つめる彩夏。と、そんな彼女へ向けられる四人分の視線。
「あぁーそう」
でも当の本人である先輩は表情一つ変えていなかった。そして冷静な口調で言葉を続けた。
「でももしあの日、アタシにそんな事してきてたら――アタシの全権力を使ってアンタをどっかに飛ばしてたわね」
その言葉に一瞬にして濁る彩夏の表情。
「や、やだなぁ~先輩ってば。でも、そう言う差別は良くないと思いますよ?」
「もしアンタが心の底から本気でそう思ってるなら別にいいけど。遊びでそんな事してるんなら――飛ばす」
先輩の容赦無い眼差しに心の奥深くまで見透かされたような気分になったのか、思わず視線を逸らす彩夏。
「あーっと。――でもしてないし、しないんでセーフかなぁ……」
あはは、そんな乾いた笑い声を零してはそれを潤すようにお酒を一口。
「だけどそんな彩夏でさえ途中で諦めたのが! この蒼汰君よ」
まるで自分の友達である有名人を紹介するが如く、翔琉は僕へ煌めかせた両手を向けていた。
「あぁ~。でも確かにあの時って結構早い段階で粘着しなくなったよな。普段なら狙った獲物は絶対に逃がさないっつー感じでしつこくいくくせに」
「いやぁー。まぁねぇ」
その自覚があるのかお酒を片手にしみじみとしたように答える彩夏。
「でもこれから先も一緒に仕事していく訳じゃん。そう考えたらここで落とせなくてもまだチャンスはあるわけで――まぁ長期戦ってやつ。それもいいかなって思ったのと、あとはシンプルに蒼汰が気を遣って快く接してくれてる感があったからかな」
そう言って苦笑いを浮かべる彩夏に僕は強く否定出来なかった。確かにあの日はまだ緊張してたし、これから一緒に働いていく同僚達と上手くやっていけそうかなんて不安とかもあったから。結構、接待モードと言うか極力いい印象を与えようとは無意識にしてたのかもしれない。
でもあの彩夏の行動自体を迷惑だとは微塵も思ってなかったのも事実だ。
「やっぱ折角の飲み会。楽しくしたいじゃん。これから何回もある訳だから、あたしの所為で来るのが億劫になったりとかしたら嫌だし」
「とか言いつつ、まず長期戦の為だろ、そしてワンチャン男を紹介してくれるかも、とかの思惑もあったんだろ?」
「まぁね」
即答でニヤリと浮かべたそれは彩夏らしい笑みだった。
「でも僕はあの時、嬉しかったよ。初めましての人に囲まれながら緊張してて不安で――そんな時あんな風に気兼ねなく話し掛けてきてくれて。みんなと打ち解けるキッカケを作ってくれたって感じで。だから改めてこんな事言うのもあれかもしれないけど、ありがとう」
当時を思い出しながらもちろん多少の酔いもありながら僕は素直な気持ちを口にしたつもりだった。
でも彩夏は感心したような表情で何度か頷いた。
「――へぇ。蒼汰って結構こっち系の才能もありそうだね。どう? 弟子にならない?」
「はい。なります!」
すると透かさず手を上げたのは翔琉。
「あんたはやだぁ~」
「なんでだよ! 俺もモテてーって!」
「だってセンスなさそうだし……何よりモテたら腹立つ」
「はぁー?」
翔琉は顔を歪めたかと思うと、急に天を仰ぎ手を組んだ。
「どうか神様! 俺にも可愛い可愛い彼女をどうかお願い致します」
そんな翔琉を他所に先輩は立ち上がるとドアへと歩き出した。
「煙草吸ってくる」
それだけを言い残し一人個室の外へ。
「今すぐに! この帰りにでも! どうか!」
一方で祈り続ける翔琉。
それは何だかんだこれまでと変わらぬ飲み会だった。プレゼンに失敗した時も企画を大成功させた時も、ヘマをやらかした時でさえ最後には声を上げて笑ってる。明日のやる気に満ち溢れ、落ち込んでたのなんて大昔みたいだった。そんないつもと変わらない飲み会。
でも僕は陽咲の事があってからは初めての飲み会。味の無い料理みたいで、抑揚の無い音楽みたいで、色の無い虹みたいな日々で誘われても行く気にはなれなかった。だけどみんなと笑い合いながら僕は密かに思ってた。あの日々の僕にこそ、これが必要だったんだと。もしかしたらあの頃の僕も分かっていたのかもしれない。でもそれすら抑え付け端へ追いやってしまうモノがそこにはあった。黯くて重くて、冷たくて悲しいモノが。
そしてそれからも僕らは料理を摘んでは酒を呑みながら色々な話に花を咲かせた。
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