第3話 初めまして❸
死後には幾つかの道がある。
一人見える形で一本ずつ明るく光る道がある。
だから、死んだ後は魂の状態で
その道を辿って来れば良いだけなのだが、
成仏出来ずに留まる訳でも無いのに、
偶に道を外れてしまう者が居る。
そういう者達を正しい道まで
誘導・護衛をするのが、
番人である僕の役目だ。その他にも役目は
幾つかあるが、優先順位の一番高い役目と
言ったら其れだろう。その役目の前では、
ルールが歪む程にその役目は重要かつ
責任重大だ。
「御魂様、此方です。付いて来て下さい。」
御魂様は、亡くなった方の魂の事。
この方をご案内している間は、
僕は神力を行使出来る。見つけたからには
安全に正しい道まで送り届ける為、自分のの通った所全てに一時的に聖域を作ってそこを御魂様には通って頂く。
今此処にいる者達は例外だが、本来魂の姿に戻った後は、一生の内の現に残して来た悔いなどを取り払い、記憶を消してまた新たな生を歩むまでの間所謂黄泉の国などと呼ばれている所に行く、が、黄泉の国と言っても実態は無い。そこはただの魂の溜まり場と言っても良いだろう。各々信じたいものを信じ、何にも囚われず魂を消費しながら好きな事を
するだけの世界。次の生までに消えなかった思いを抱えた魂は、形は変われど正しく
現の人であった。
きっと彼等はこの世界の自由さから、
極楽郷や楽園などと称したのだろう。
しかし、また其れも彼等の
信じたい世界の事だ。本当のところは誰も
知らないだろう。
いや、もしかしたらあの人は知っているかも
しれない。しかし、此れも憶測をの域を
出ない。道中、御魂様の思い出話を聞いた。
これも立派な番人の役目の一つだ。
これによって少しでも魂を軽くして、
その後にやる事を滞り無く進める為の一手段でもあるからだ。
「其れで、私が死ぬ間際に孫が手を握って
くれた事が嬉しくてね〜。
死ぬ気はさらさら無かったんだけど、
最期はもう、あっ戻れないんだって
悟ってね。みんな迷惑をかけるけど、
この子達ならこの先も大丈夫かな。って
思った時には、もう死んじゃってたんだ。」
「そうなんですね。こちら側にも、
貴方様の死を悼む声と、冥福を祈る声が
多数確認されてますよ。皆さん四九日
までにたっぷり悲しんだ後は、前を向いて
くれますから、大丈夫ですよ。きっと。」
「そうですよね。
ん〜、一人で大丈夫、大丈夫!って
言い聞かせても、少々自信が無くて、
何処か信じ切れずにいたので、
番人の方に言われると、
落ち着くというか、
自信が持てますね。有り難う御座います。」
「いえいえ、あっ、もうすぐ着きますね。
この光っている道が分かりますか?」
「はい。」
「では、この道に沿ってお進み下さい。」
「すみません。お手数をお掛けしました。」
「いえ、これが僕の役目なので果たせて
良かったです。その道から外れない様に、
それだけです。
行ってらっしゃいませ。」
「行って参ります。」
送り届けた後は、道を遡って
どこから道を外れてしまったのかを
確認して、あの人に報告にするべく
僕は御魂様の道を遡った。
「成る程、此処か。ここだけ何かしらの
不備が有ったのだろうか?
いや、これは違うな。収まり切らなかった
記憶か...。まぁ、其れなら良いや。
葉月ー薄ノ文ー百合ー子刻ノ一寸から
長月ー葵ノ睦ー福寿草ー寅刻ノ七寸まで...、
っと。これは...、勿忘草だっけ?
よし、報告に行こう。」
きっと、この期間に何か
あったのかもしれない。
なんだったら、これが一番の心残りかも
知れないから、必要に応じて調べてみよう。
御魂様は、ちゃんと辿って居られるから、
もう、心配ないかな?
僕はそのまま、あの人のもとへ直行した。
「ただいま戻りました。」
「それで、ですね。〜僕の心残りは...、」
「〜ええ、はい〜...。分かりました。
すみません。少し、失礼します。
お帰りなさい、お疲れ様でした。
向こうで休んでいて頂戴。
報告を聞きますから。」
「分かりました。御魂様...いえ、お客様。
もう、お決めになられた様ですね。
どうぞ、御ゆっくり。」
「息子さ、お孫さんですか?
しっかりしてますね。」
「いえ、彼は番人ですよ。でも、そう言って
頂けて嬉しいです。
あの子にも伝えておきますね。
では、お客様のお忘れ物は
此方でございます。
行ってらっしゃいませ。」
次の方までは、まだ時間がありそうだ。
これから今の方は三日かけて彼方に行き、
一日という限られた時間の中で
忘れ物(心残り)を持って、また此方に
帰ってくる。これは一瞬で、戻って来たら
直ぐに対価の記憶を払って貰う。と言う感じになっているので、先ほどの方は、
少なくとも、四日間帰っては来ないから
問題ない。
「おばあちゃん、ちょっと良い?」
「これ、少しは敬語を使いなさい。
お客様が来られたらどうするのですか?
今は、二人なので良いですけれど。
仮にも、貴方は番人でしょうに。」
「ええ、良いじゃないですか。
僕と貴女の仲でしょう。
もう、長いこと一緒にいるのですし、
このくらい、砕けても良いでは
ありませんか。」
「もう、はぁ。そうですね。
それで、何用でしょう。
報告と言っていましたが...。」
「はい、先程生きている女の子で此方側の
華切ノ境界(境界・狭間などとと呼ばれる所)
に、運悪く正しい手順を踏んでしまい、
水を通して迷い込んだ子が居たので、
その子を助けた後、穴を閉じると同時に、
巡回したのですが、その時、
道を外れたらしい御魂様を見つけたので、
誘導と護衛を致しました。
その御魂様を盾にして隠れていたモノが
居たので、それらも消しておきました。
それと、これが御魂様の外れた場所と理由
を記したものです。」
「分かりました。、受け取ります。
それにしても貴方、今日は吉日だと
言うのに、ウキウキしてますね。
何か、良い事がありましたか?」
「え、いえ、何も!
では、僕今日はこれから来る人も
少なかった筈なので、自分の時間を
頂いても良いですか?」
「ふふ、どうぞ。なんだか本当に孫の様に
思えて来ました。まぁ、誰かの祖母になる
と言う気持ちも分からないのですがね。
母になるのも分からないのですから。
まだまだ学ぶ事は多いですね。」
「そうですね、それじゃぁ、おばあちゃん!
行って来ます!」
「もう、本当にせっかちですね。」
僕は、急いで学校に向かった。
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