第183話

 1550年 年末北条家に関する各地の動きは沈静化安定化の一途を辿っていた。関東管領という名目が不必要となりはじめた現在年末の宴会に合わせて集まっていた重臣や血縁者を集めて密室会議を氏康は行おうと人員を呼んでいた。


 氏康は遠方から来た使者が領内の道整備によって少し早めに到着した為彼らの対応に追われていた。なので密室には配下達が先に集まっていた。


 既にこの場にいるのは領地が近い北条幻庵 北条綱成 富永直勝 であった。


 「皆のもの久しぶり…というには我々は何度も小田原に集まっているのでそうでもないですな。」


 「ええ、我々の領地は三国同盟や直勝殿の働きによって安全ですから特に手間取ることや必要なことは無いですし、なにより我々自身が当たらねばならない事がだいぶ減りましたゆえ…」


 幻庵と綱成は冬の寒さを誤魔化すように茶を啜りながら会話をする。


 「それは羨ましいですな…私はここ数年激動の日々にございます…。勿論やり甲斐もありますしそこまで信任していただけてるのは無常の喜びに御座いますがいかんせん、若殿の無茶振りが…」


 そう言葉を濁しながら小さい時に付き従っていた頃に比べ最近は余り接触する機会も少ない為若殿呼びが抜けていないのは富永直勝であった。


 「直勝殿は今となっては北条水軍を一手に纏める水軍大将にございますからな。軍船だけではなく商船の航路や護衛、港での船関係の仕事まで幅広くなっているとか。」


 「ええ、風魔の手やその場にいる文官達の力を借りて何とかやっておりますが現場の声を聞くために前線に出たり各方面との打ち合わせをするために行ったり来たりを繰り返しておりますので妻にも合わせる顔がないです…」


 「そうは言っても各地にお気に入りの夜伽相手や女ができているのでは?」


 この3人はよく集まることもあり親しく話せているので下世話な話も何度か酒を交わしながら行っていた。


 「それは、まあ、役得ということで」


 3人で顔を見合わせ笑っていると歩く音が響いてきた。この密室は小田原に作られた離れにあり、周りは開けた殺風景な場所で、この建物は池の上にポツンと立てられているので一つある廊下を渡るしか無い。また、水の中に入り込もうとも今川戦の時に使われた鉄線が張られているので簡単には潜り込めないようになっているのだ。


 「さて、そろそろ若殿や康虎殿が来られたかの?」


 「そう思いたいですな。ですが一応は警戒しておきましょう。幻庵殿は我らの後ろへ。」


 この部屋に入るための唯一の扉の左右に綱成と直勝は立ち、いつでも斬りかかれるように鯉口を切れる体勢で待つ。そこに扉をコンコンと叩く音がした。


 「北条氏政と康虎、それに謀略のできる家臣達を連れてきました。入ってもよろしいでしょうか。」


 氏政の声が響いたので、二人とも警戒を解いて扉を開けて皆を迎え入れた。


 「これは、皆様、お久しぶりにございます。寒い空技入ってもよく無いので先に入らさせていただきますね。」


 氏政が先頭で入っていくのに続けて 康虎 光秀 直勝 勘助 幸隆 義堯 風魔小太郎 工藤政豊 が入って行った。


 「この前の会議を経て拡張されたそうですが、密室の上に部屋の広さも確保できたのですね。この考えは勘助殿が出したとか?」


 直勝が気さくそうに話しかけながら暖かいお茶を周りに配る。


 「ええ、忍びを使っている関係でどのような場所だと忍びの活動がし難いかを考えた結果このようになりました。その際に小太郎殿とも話す事が多くかなり手助けいただきました。」


 「成程、小太郎殿から見てもこの部屋は侵入し難いものなのですか?」


 「ええ、私でもこの部屋に入るのは難しいです。まずこの部屋に忍び込む事が可能ものは居ませんね。」


 この言葉は本当であり嘘であったが氏政に忠誠を誓う小太郎は黙っていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る